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夜九時半。
閉店したスーパーのバックヤードで真広は翌日の準備をしていた。客がいないため、この時間は残った従業員が気軽に会話を交わしていた。
あれが売れただの売れなかっただの、近くに新しいスーパーができて大変だのという話題からプライベートのことまで作業さえしていれば戒める者もいない。
そんな中、真広は黙々と仕事をしていた。早く終わらせて家に帰りたい。夜の時間帯は時給が高いので長く働いてもいいが、のんびりやっていると終わらなくなる。
正社員の安達は真面目に手を動かす真広に笑いかけた。
「そう言えば鈴原さんは受けるんですか?」
真広は不思議そうに手を止めた。
「受ける? なにを?」
「正社員試験です。なんか急に決まったみたいなんですよ。パートの中から希望者に受けさせるって。あれ? 店長から聞いてませんか?」
「いや……。今聞きました」
「あらら。あの人は自分が帰ることばっかり優先するからなあ。根性論ばっかだし」
安達は呆れながら愚痴るように言った。
「フルタイムで働いているなら誰でも受けられるって本部からのメールに書いてたんで、受けるなら一応準備はしといた方がいいですね」
いきなりの朗報に真広は食い気味に答える。
「受けます。正社員になればその、ボーナスとかも」
「もちろん出ます。給料も倍くらいにはなると思いますよ。手取りだともっと減りますけど。前あった時はSPIとかエクセルとか、そういうところがテストになってたはずです」
「SPI。エクセル」
真広は安達の言葉を繰り返しながら頷いた。
「分かりました。教えてくれてありがとうございます」
「いえいえ。鈴原さんは頑張ってますから当然ですよ。人事部の奴らもすぐ辞める新卒じゃなくてずっと働いてくれてるパートさんを優遇すればいいんですけど。バカだから」
安達は不満そうに肩をすくめた。真広は安達が常日頃から会社に評価されてないと思っていることを知っているので苦笑いした。
「そう言えば」安達は思い出して話題を変えた。「あの預かってる子はまだいるんですか?」
「え? ええ。まあ……」
「五才でしたっけ? 大変ですよね。お金もかかるし。親はなにしてるんだか」
「やっぱりお金はかかりますか?」
「子育てですか? そりゃあもう。うちの嫁さんなんてその話ばっかりですよ。お金なんてないのに私立の小学校に行かせたいとか。有名大学に入らないとこの先大変だそうです。僕がなにか言おうとするとあなたはの大学は偏差値50だから分からないんだって言われるし。女って生き物はいつだって男のプライドを傷つける術に長けてますよね」安達は苛立ち、苦笑した。「たまに分からなくなりますよ。なんのために残業してるのかが」
そこまで愚痴を言って安達は真広が困っていることに気付き、笑顔を取り繕う。
「まあその、色々ありますけど僕は鈴原さんを応援してるんで。なにか困ったことがあったらいつでも聞いてください。僕も中途採用なんで」
「ああ。はい。ありがとうございます」
「じゃあ僕、これ出して来ますね」
そう言うと年下の正社員はバックヤードから売り場の方に向かった。
真広は節電のために薄暗いバックヤードに一人残ると周りに誰もいないことを確認すると、ようやく喜んだ。
閉店したスーパーのバックヤードで真広は翌日の準備をしていた。客がいないため、この時間は残った従業員が気軽に会話を交わしていた。
あれが売れただの売れなかっただの、近くに新しいスーパーができて大変だのという話題からプライベートのことまで作業さえしていれば戒める者もいない。
そんな中、真広は黙々と仕事をしていた。早く終わらせて家に帰りたい。夜の時間帯は時給が高いので長く働いてもいいが、のんびりやっていると終わらなくなる。
正社員の安達は真面目に手を動かす真広に笑いかけた。
「そう言えば鈴原さんは受けるんですか?」
真広は不思議そうに手を止めた。
「受ける? なにを?」
「正社員試験です。なんか急に決まったみたいなんですよ。パートの中から希望者に受けさせるって。あれ? 店長から聞いてませんか?」
「いや……。今聞きました」
「あらら。あの人は自分が帰ることばっかり優先するからなあ。根性論ばっかだし」
安達は呆れながら愚痴るように言った。
「フルタイムで働いているなら誰でも受けられるって本部からのメールに書いてたんで、受けるなら一応準備はしといた方がいいですね」
いきなりの朗報に真広は食い気味に答える。
「受けます。正社員になればその、ボーナスとかも」
「もちろん出ます。給料も倍くらいにはなると思いますよ。手取りだともっと減りますけど。前あった時はSPIとかエクセルとか、そういうところがテストになってたはずです」
「SPI。エクセル」
真広は安達の言葉を繰り返しながら頷いた。
「分かりました。教えてくれてありがとうございます」
「いえいえ。鈴原さんは頑張ってますから当然ですよ。人事部の奴らもすぐ辞める新卒じゃなくてずっと働いてくれてるパートさんを優遇すればいいんですけど。バカだから」
安達は不満そうに肩をすくめた。真広は安達が常日頃から会社に評価されてないと思っていることを知っているので苦笑いした。
「そう言えば」安達は思い出して話題を変えた。「あの預かってる子はまだいるんですか?」
「え? ええ。まあ……」
「五才でしたっけ? 大変ですよね。お金もかかるし。親はなにしてるんだか」
「やっぱりお金はかかりますか?」
「子育てですか? そりゃあもう。うちの嫁さんなんてその話ばっかりですよ。お金なんてないのに私立の小学校に行かせたいとか。有名大学に入らないとこの先大変だそうです。僕がなにか言おうとするとあなたはの大学は偏差値50だから分からないんだって言われるし。女って生き物はいつだって男のプライドを傷つける術に長けてますよね」安達は苛立ち、苦笑した。「たまに分からなくなりますよ。なんのために残業してるのかが」
そこまで愚痴を言って安達は真広が困っていることに気付き、笑顔を取り繕う。
「まあその、色々ありますけど僕は鈴原さんを応援してるんで。なにか困ったことがあったらいつでも聞いてください。僕も中途採用なんで」
「ああ。はい。ありがとうございます」
「じゃあ僕、これ出して来ますね」
そう言うと年下の正社員はバックヤードから売り場の方に向かった。
真広は節電のために薄暗いバックヤードに一人残ると周りに誰もいないことを確認すると、ようやく喜んだ。
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