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第1章 クロニカ編
01 落ちこぼれのシャックス
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数百年後。
ワンダー大国は様変わりしていた。
国を囲んでいた七つの大樹は、二つが枯れてしまっていた。
王都ワンダーアクトでは、都を包む枯れ木は劣化し、ところどころに穴があいていた。
虫食いになっている所もあれば、自然に風化した所もある。
それらの箇所は、鉄や板などで補修されていた。
しかし、住んでいる人間達は変わらず、毎日働き、誰かと共に過ごし、愛する人と愛を語らいながら生きている。
王都ワンダーアクトにある、とある屋敷の一室。
狭い部屋の中、古びた家具に囲まれたベッドの上で一人の子供が目覚める。
夢から覚めた少年シャックスは、ヒビの入った小さな窓を開けて換気する。
時刻は早朝。
虫や鳥もまだ眠りについている時間だった。
シャックスは部屋の中を見回し、隅に置いてある鏡へ近づく。
蜘蛛の巣のついた鏡に映ったのは、6歳の少年だ。
そんなシャックスは、黒い髪に青い目をした子供である。
あどけなく、年齢にふさわしい顔つきをしている。
シャックスは鏡を見ながら寝癖を整えた。
そして、部屋の中にある小さな箪笥から服を取り出し、自分で着替える。
シャックスは自分で着替えずとも良い身分であったが、いつも身支度を行ってくれる者はいない。
だからシャックスは手つきこなした。
着替え終わったシャックスは部屋を出て、足音を立てないようにゆっくり歩いていく。
シャックスが歩いていくのは広い屋敷の中だ。
壁には有名な画家の画が飾られている。
廊下の隅々には、時折り煌びやかな装飾の台が配置されている。
台の上には宝石のついた壺や凝った装飾の彫刻、珍しい花の入った花瓶がある。
芸術的なそれらがあるのは、裕福な家の証拠だった。
つまり、そのような家の中を歩く、シャックスは貴族であり、なおかつ一地方を治める領主の子供だった。
そのためシャックスは、このような裕福の家の中を歩く事ができた。
屋敷の中を歩いたシャックスは、廊下の窓に手をかける。
シャックスがいる階は1階だ。
窓を開け、身を乗り出したシャックスは、外に出た。
シャックスはそのまま屋敷を離れ、近くにある森の中へと消えていく。
そんなシャックスを、小さな影が屋敷の窓からじっと見ていた。
小さな影は、シャックをの事を忌々し気に見つめた後、窓の近くを離れたのだった。
シャックスは、名門貴族クロニカ家の落ちこぼれである。
五人兄弟の末の少年で、上には四人の兄と姉がいる。
彼等の名前は、アンナ、ニーナ、サーズ、フォウ、シャックスだ。
本来ならその中にファイズという男の子も存在していたはずだった。
シャックスと双子で生まれてきた赤ん坊が。
しかし、ファイズは生後まもなく死亡してしまったため、クロニカ家の子供は六人兄弟ではなく五人兄弟なのであった。
そんな兄弟たちの中で、アンナとサーズは天才と呼ばれている。
アンナは炎魔法の天才で、大人顔負けの魔法の威力を誇れた。
サーズは水魔法の天才であり、繊細なコントロールが得意だ。
そのため二人は、多くの者達から称賛を浴びて過ごしてきた。
その事実が悪い影響を及ぼし、アンナとニーナは段々と自分よりも劣っている人間を見下すようになった。
それだけでなく、父親であるワンドの影響も大きい。
ワンドは実力主義で、優秀な者は優遇し、そうでない者には冷遇する。
そのため、アンナとサーズは溺愛され、自身を甘やかす父の価値観を受け入れ、鵜呑みにしていたのだ。
反対にニーナとフォウは落ちこぼれと呼ばれていたが、他者を見下さなかった。
ニーナは炎魔法が得意でなくても、魔法を使って使用人の仕事を手伝う事が多く、フォウも水魔法が得意ではなかったが、拙い水魔法で、泥だらけになる事が多いシャックスを毎回綺麗にしていた。
そんな兄弟たちがいるシャックスは、屋敷を出て、しばらく歩いた後、森の中に入っていた。
シャックスは、森の空気を感じ取る。
森の中には妙な空気が漂っていて、小動物や昆虫、害のないモンスターをまるで見かけなかった。
森の奥深くに進むと、大人の背丈ほどのモンスターが立っていた。
ミミズのような見た目のモンスター、茶色で湿った体表が特徴のアースワームだ。
シャックスはそのモンスターを前にしても、慌てる事なく進む。
モンスターはシャックスに突進するが、いつのまにか炎に包まれて灰になっていた。
シャックスはモンスターに見向きもせずに奥へと進んでいく。
1時間後。
屋敷に勝ってきたシャックスは、自分の部屋の前でサーズに声を掛けられる。
サーズは白い髪に赤い瞳の少年だ。
クロニカ家に生まれた2番目の双子の片方である。
共に生まれたのはフォウという黒い髪に青い瞳の少年と正反対であるため、初対面の人は二人一緒に覚えようとする。
サーズはその事実を不愉快に思っていたが、口には出さなかった。
目の前に立つそんなサーズは1時間前に、シャックスが屋敷を抜け出したのを目撃していた。
「お前、外で何やってたんだ? 勝手に出歩いて何かあったら、クロニカの名前に傷がつくだろ。お父様に言いつけてやるぞ」
シャックスはサーズを無視して家の中に入ろうとする。
それが気に食わなかったのか、シャックスの前にサーズが立ちふさがった。
「お外で泥遊びでもしてきたのかよ。シャックスちゃん。無能にはちょうど良いお遊びでしゅね~」
サーズは赤ちゃん言葉で、シャックスを挑発しようとした。
しかし、シャックスは反応をしない。
それを見たサーズは、表情を歪めてシャックスを突き飛ばす。
「無視すんな! 当然みたいな顔で屋敷にかえってきやがって! そのままいなくなっちまえば良かったってのに! この屋敷においてやってるだけ有難く思えよ」
サーズはシャックスに隠し持っていた泥団子をぶつけて、その場を去っていく。
シャックスはため息をついて、サーズを見送った。
ワンダー大国は様変わりしていた。
国を囲んでいた七つの大樹は、二つが枯れてしまっていた。
王都ワンダーアクトでは、都を包む枯れ木は劣化し、ところどころに穴があいていた。
虫食いになっている所もあれば、自然に風化した所もある。
それらの箇所は、鉄や板などで補修されていた。
しかし、住んでいる人間達は変わらず、毎日働き、誰かと共に過ごし、愛する人と愛を語らいながら生きている。
王都ワンダーアクトにある、とある屋敷の一室。
狭い部屋の中、古びた家具に囲まれたベッドの上で一人の子供が目覚める。
夢から覚めた少年シャックスは、ヒビの入った小さな窓を開けて換気する。
時刻は早朝。
虫や鳥もまだ眠りについている時間だった。
シャックスは部屋の中を見回し、隅に置いてある鏡へ近づく。
蜘蛛の巣のついた鏡に映ったのは、6歳の少年だ。
そんなシャックスは、黒い髪に青い目をした子供である。
あどけなく、年齢にふさわしい顔つきをしている。
シャックスは鏡を見ながら寝癖を整えた。
そして、部屋の中にある小さな箪笥から服を取り出し、自分で着替える。
シャックスは自分で着替えずとも良い身分であったが、いつも身支度を行ってくれる者はいない。
だからシャックスは手つきこなした。
着替え終わったシャックスは部屋を出て、足音を立てないようにゆっくり歩いていく。
シャックスが歩いていくのは広い屋敷の中だ。
壁には有名な画家の画が飾られている。
廊下の隅々には、時折り煌びやかな装飾の台が配置されている。
台の上には宝石のついた壺や凝った装飾の彫刻、珍しい花の入った花瓶がある。
芸術的なそれらがあるのは、裕福な家の証拠だった。
つまり、そのような家の中を歩く、シャックスは貴族であり、なおかつ一地方を治める領主の子供だった。
そのためシャックスは、このような裕福の家の中を歩く事ができた。
屋敷の中を歩いたシャックスは、廊下の窓に手をかける。
シャックスがいる階は1階だ。
窓を開け、身を乗り出したシャックスは、外に出た。
シャックスはそのまま屋敷を離れ、近くにある森の中へと消えていく。
そんなシャックスを、小さな影が屋敷の窓からじっと見ていた。
小さな影は、シャックをの事を忌々し気に見つめた後、窓の近くを離れたのだった。
シャックスは、名門貴族クロニカ家の落ちこぼれである。
五人兄弟の末の少年で、上には四人の兄と姉がいる。
彼等の名前は、アンナ、ニーナ、サーズ、フォウ、シャックスだ。
本来ならその中にファイズという男の子も存在していたはずだった。
シャックスと双子で生まれてきた赤ん坊が。
しかし、ファイズは生後まもなく死亡してしまったため、クロニカ家の子供は六人兄弟ではなく五人兄弟なのであった。
そんな兄弟たちの中で、アンナとサーズは天才と呼ばれている。
アンナは炎魔法の天才で、大人顔負けの魔法の威力を誇れた。
サーズは水魔法の天才であり、繊細なコントロールが得意だ。
そのため二人は、多くの者達から称賛を浴びて過ごしてきた。
その事実が悪い影響を及ぼし、アンナとニーナは段々と自分よりも劣っている人間を見下すようになった。
それだけでなく、父親であるワンドの影響も大きい。
ワンドは実力主義で、優秀な者は優遇し、そうでない者には冷遇する。
そのため、アンナとサーズは溺愛され、自身を甘やかす父の価値観を受け入れ、鵜呑みにしていたのだ。
反対にニーナとフォウは落ちこぼれと呼ばれていたが、他者を見下さなかった。
ニーナは炎魔法が得意でなくても、魔法を使って使用人の仕事を手伝う事が多く、フォウも水魔法が得意ではなかったが、拙い水魔法で、泥だらけになる事が多いシャックスを毎回綺麗にしていた。
そんな兄弟たちがいるシャックスは、屋敷を出て、しばらく歩いた後、森の中に入っていた。
シャックスは、森の空気を感じ取る。
森の中には妙な空気が漂っていて、小動物や昆虫、害のないモンスターをまるで見かけなかった。
森の奥深くに進むと、大人の背丈ほどのモンスターが立っていた。
ミミズのような見た目のモンスター、茶色で湿った体表が特徴のアースワームだ。
シャックスはそのモンスターを前にしても、慌てる事なく進む。
モンスターはシャックスに突進するが、いつのまにか炎に包まれて灰になっていた。
シャックスはモンスターに見向きもせずに奥へと進んでいく。
1時間後。
屋敷に勝ってきたシャックスは、自分の部屋の前でサーズに声を掛けられる。
サーズは白い髪に赤い瞳の少年だ。
クロニカ家に生まれた2番目の双子の片方である。
共に生まれたのはフォウという黒い髪に青い瞳の少年と正反対であるため、初対面の人は二人一緒に覚えようとする。
サーズはその事実を不愉快に思っていたが、口には出さなかった。
目の前に立つそんなサーズは1時間前に、シャックスが屋敷を抜け出したのを目撃していた。
「お前、外で何やってたんだ? 勝手に出歩いて何かあったら、クロニカの名前に傷がつくだろ。お父様に言いつけてやるぞ」
シャックスはサーズを無視して家の中に入ろうとする。
それが気に食わなかったのか、シャックスの前にサーズが立ちふさがった。
「お外で泥遊びでもしてきたのかよ。シャックスちゃん。無能にはちょうど良いお遊びでしゅね~」
サーズは赤ちゃん言葉で、シャックスを挑発しようとした。
しかし、シャックスは反応をしない。
それを見たサーズは、表情を歪めてシャックスを突き飛ばす。
「無視すんな! 当然みたいな顔で屋敷にかえってきやがって! そのままいなくなっちまえば良かったってのに! この屋敷においてやってるだけ有難く思えよ」
サーズはシャックスに隠し持っていた泥団子をぶつけて、その場を去っていく。
シャックスはため息をついて、サーズを見送った。
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