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透けてるブランディシュカ

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〇01 老いなき世界

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 人間の命は儚い。

 ちょっとした事ですぐに死んでしまう。

 それに、人間の寿命は短いから。

 長い人類の歴史の中で、一人の人間がどれだけ生きられるか。

 うかうかしていたら、あっという間に老人になって、死の国から死神の迎えがきてしまうことだろう。

「俺は命の全部をつかって、有意義な人生を送った」

 そう言える人間がどれだけ言えるだろう。

 世界中を探したって、きっと稀だ。

 おそらく、百人に一人、千人に一人もいないだろう。

 いいや、それよりもっと少ないに違いない、

 事故や事件に巻き込まれて死ぬもの、志半ばで生を終えるものが大半だ。

 ただでさえ、人間の命は儚いというのに。

 人が、定められた寿命分も生きられなかったとしたら?

 彼女達は、彼等は、俺達は、私達はいったいどうやって自分の人生の意味を見出すのだろうか。






 人が老いる事をやめた世界。

 その世界では、人間の寿命は二十年から三十年ほどしかない。

 それは、老いの影響が詳しく解明なる前に、人が決断してしまったためだ。

 老いない方がいい、そう思った人間が、「老い」について詳しく調べる事なく、「老い」を遠ざけてしまった。

 それまでの人類は、老いに悩まされてきた。

 老いる人間の多くは、大切な人や物事を忘れ、病気になりやすくなり、怪我をおいやすくなる。

 だから、人々は結論付けたのだ。

「老いをなしくてしまえればいいのだ」

 だから、人々は決断してしまったのだ。

「老いをなくしてしまおう」

 そして、科学の力を使った。

「老いをなくす事ができたぞ!」

 ここで誤算があったのは、老いないまま与えられた寿命の全てを全うできると思い込んでいた点だろう。

 普通の人間の人生、六十年か八十年か、ひょっとしたら百年か。

 それだけの期間を健康に、ずっと生きられると思ったのだろう。

 けれど、そうはならなかった。

 その当時の人達は、その後人間の寿命がわずか二十年か三十年そこらになるとは思いもしなかったのだ。

 その後、研究はすすまなかた。

 人を元通りに老いさせることはできなくなった。

 歴史が培われた技術が、継承される前に人々がなくなってしまうからだ。






 人類全体でもそう。

 知識の継承や技術の伝達は、大変だった。

 人々は自分が死ぬ前に、後の者達に全てをたくさなければならなかったから。

 文明の発展は遅くなり、人口の増加も緩やかになった。

 子孫を残そうと思った時には、すでに寿命が来ている事があった。

 そのため、子供を生めない夫婦や恋人達が存在していたし、産んだとしても満足に育てる事ができなかった。

 だから、その世界の人々は自分以外の誰かに託す事で、生き延びてきた。

 満足にいかないまま自分が蓄えてきた知識や、技術を後の人間へ。

 成長を十分に見届ける事ができないまま、我が子を他人へ。

 そうして人々は、ゆっくり、ゆっくりと歴史を紡いでいった。

 数十年。

 数百年経っても、人間の命は儚いままで。

 彼らがやっと老いをとりもどした時には、いったいどれくらいの時が経っただろうか。

 正確な年数は分からない。

 しかし、惑星の外からやってきた者達と、握手をするようになった頃合いである事だけは確かだ。


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