8 / 32
第7話 大切な君の夢
しおりを挟むそんなこんなのやりとりがあった後、そのまま私室(もちろんディエスの)にたどり着き、美玲と別れた。
色々調べてみようかと思ったが、特にすることなどなかった。
部屋に物が何もなかったからだ。
必要最低限の物しか置いてない。
そして後は、貰い物らしき女物の道具か。
ディエスについて知りたかったが、これではとうてい調べることなどできないだろう。
そういえば、と鏡はないかと探す。
ディエスとやらの顔がどんななのか、気になる所だ。
聞き及ぶ性格の悪さから、おそらく悪人みたいな顔をしているのではないかと洋装するが。
捜している最中に、誰かが部屋をノックした。
「あ……の……」
「何か御用ですか」
控えめな女性の声だ。どこかで聞いたような。
「え……と……、入ってもいい、ですか」
「もちろんどうぞ」
部屋の扉を開けて入って来る女性は、昼間地下にいた時に話しかけてこようとした女性だった。
手には食事のトレイがある。
「これ、ご飯……です。いつも運んでいるので……今日も、どうかなって、思ったんですけど……一応」
そういえば、まだご飯食べてなかったな。
トレイのから、香る食べ物の匂いが急に佐座目に胃の空腹を教えてくる。
「ありがとうございます、いつもこんなことをしていたんですか?」
「はい……訓練に夢中になって、ご飯を抜くことが……何度もあるから、美玲さんに言われて」
トレイを受け取って尋ねれば、女性はそう答えてくれる。
「そういえば、君の名前はまだ聞いてなったね。できればついでに医務室にいる人の名前も教えてほしいけど」
「菖蒲《あやめ》です、近藤菖蒲《こんどうあやめ》……みんなからは昔の人みたいだって言われますけど。医務室は、佐紀《さき》さんです。安納佐紀《あのうさき》さん」
「そうかな、とても良い名前だと思いますよ」
「あ……ありがとう、ございます」
多少どもりながら、つっかえながらではあるが、会話がスムーズに成立していることに気づく。
この子はディエスが怖くないのだろうか。
その事を聞けば、
「だ、大丈夫……です。本当は優しい人だって、分かって……ます、から」
そんな事を言って、部屋を去っていった。
聞く限りでは、優しい人間にはとても思えなかったんだけどな。
そう思いながら食事をとった後は、色々今日一日の疲れが押し寄せてきて、それ以上何かを調べたり考えたりする期にはなれず、部屋のベッドの上に寝転んだ。
うっかり目を閉じてしまえば、予想外に早く、すぐに眠りについてしまった。
夢の中で僕は、抗体組織のトレーニングルームに立っていた。
これは過去の記憶だ。
目の前では自分の兄がいて、二人の少女に代わる代わる激励されながら、腕立て伏せやら走り込みやらの訓練をこなしている。
兄は情けない様子で、ひいひい言いながらも必死に訓練メニューをこなし続ける。
ああでもない、こうでもない。
兄の様子について言い合っていた二人の少女のうち一人がこちらへとやってくる。
髪をツインテールにした勝気そうな少女だった。
その少女は、離れたところでなさけなく床に倒れこんでいる兄を指さす。
「あんたもあんな風になりたくなかったらしっかり訓練に励みなさい。いいわね」
僕はその時なんて言っただろうか。
「じゃあ、頑張ったらご褒美に僕とデートしてくれますか」
ああ、そうだった。確かこんなことを言ったんだった。
その時の彼女の反応は……。
「なっ、何言ってんのよ! 所詮あんたもケダモノってわけね!」
真っ赤な顔になって、肩をいからせてこちらを睨みつけたんだっけ。
僕はそんな彼女の様子が面白くて、もう二、三言からかいの言葉を投げて彼女で遊ぶのだ。
楽しい思い出だ。
君は知らないだろうけど。
僕はこんなにも誰かと一緒にいて楽しいと思うことはないんだよ。
君以外には。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる