ナイトメア ~希望の在りか~

透けてるブランディシュカ

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第20話 フルスコア

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 やってきたのは、組織の訓練室だ。

 佐座目が自分の力を示す為に提示したのは、射撃だった。
 ディエスの成績表を見せてもらい、佐座目は一つ頷く。

「正直これが平和ボケしていたあの兄さんの成績かと思うと、何か末恐ろしいものを感じさせられますけど、まあ大丈夫でしょう」
「アンタ、牙の成績も知らずに五十嵐に逆らったの? 未踏鳥の件といい、アンタ達やっぱり兄弟ね」
「やっぱり同じ屋根の下で暮らしてるんですから、多少なりとも似てくるのは仕方ないことなんですよきっと」
「……そこは否定して欲しかったわ」

 隣では理沙が呆れた様子でため息をついている。
 今一瞬、理沙さんらしからぬ考え込むような沈黙があったんだけど、どうしたのだろう。

「しかしサザメ、本当に満点などとれるのか。本部ほどではないが、こちらの難易度もそれなりだぞ、支部が設置されてから未だにフルスコアをとったのは五回しかない、うち三回は同一人物だ」

 美玲は、心配そうな様子だ。
 自分達のいざこざに巻き込んでしまったという負い目があるのだろう。

「今からでも、五十嵐には私から……」
「問題ありませんよ。僕は好きでやってるんですから。これでどういう結果になろうとそれは貴方の責任ではなく僕の責任ですし」

 言葉をかけるが美玲の顔色は晴れない。
 こういう時、兄さんだったらいい言葉がかれられるんだろうけど、生憎僕にはそんなスキルはないからな。

「馬鹿ね。そういうときは必ず勝つから、心配するなって言うもんなのよ」

 なるほど。
 さすが理沙さん、兄さんに思いを寄せているだけはありますね。

「べっ、別に一般的な考えを述べただけで、あいつの事なんて考えてないわよ!」

 分かりやすい理沙さんも好きですよ。




 準備ができた佐座目の背後でギャラリーが湧く。
 まさにこれから腕試しが始まるのだ。

 視線の数十メートル先では、スタートの合図を刻むランプが順番についていく。

 一つ。
 二つ。
 三つ。

 全てのランプがともって、始まりが告げられた。

 的が立ち上がると同時に銃を発砲。
 呼吸をするように自然な動作で、次々と立ち上がる的を打ち抜いていく。

 時間が経つごとに的は増え、横から、天井からも増えて、二か所三か所と同時にターゲットが増えていく。
 とてもまともに対応していてはフルスコアなんて無理だろう。

 佐々目はすでに動かしている右手に加えて、左手を動かした。

 終盤を過ぎたあたりで、やはり美玲の忠告は当たった。

 心中汚染マインドハック
 五十嵐の能力で、精神をかき乱すという妨害だ。

 まったく、証拠が残らないのをいい事に、悪用してくれる。

 軸がぶれて、銃弾の軌道がそれ始める。
 一発、的外れなところに飛んで行った。天井付近で、音が跳ねる。
 もちろん的のカバーはした。撃ち漏らしはないはずだ。
 だが、このままでは辛い。

 佐座目は粘つくような嫌な汗を額にながしていることに気が付いた。

 正直彼の事を侮っていた。
 まさかここまでとは……。

 不安。恐怖。
 こんなものが僕にあったのかと驚くが、ともかくそれらが渦を巻いて重く心にのしかかってくるのだ。

 もし、大切な彼女を失ってしまったら。
 もし、この世界で良くしてくれた人たちが、絶望で心をくじかせてしまったら……。

 そんな思いが、心の中で繰り返し繰り返し沸き起こって来るのだ。

「っ……」

 標準がぶれる。
 反応が間に合わなくなってくる。
 このままでは敗北するだろう。
 そう思った時……。

「佐座目! 負けたら承知しないわよ!」

 理沙の声が聞こえてきた。

 たったそれだけの言葉。
 時間にしたら一秒そこらの出来事なのに、佐座目の心は晴れていた。

 苦笑を浮かべる。

 負けたらどんな風に怒られてしまうのやら。
 あるいは彼女は悲しんでくれるかもしれないが、それは駄目だ。
 彼女を悲しませるような事を、僕するわけにはいかないのだ。

――だったら、頑張らないといけませんね。




 的の出現が止まった後、得点が知らされる。
 ギャラリーが背後でどっと沸くのが分かった。

「フルスコアだ、おめでとう」

 いくら自分の身が危険がさらされているわけでなくても、さすがに今回は緊張した。

 美玲の言葉に、佐座目は緊張を解いて笑みを送る。

「ありがとうございます」
「……っ、よ、よくやったな」

 ん?どうしたんだろう?
 美玲が視線をそらしながら声をどもらせた。
 不思議に思っているとギャラリーの中から、菖蒲が出てきて祝いの言葉を送ってくれた。

「あ、あの……、おめでとうございます」
「はい、菖蒲さんもありがとうございます」

 その様子を見て、

「なーんか、あやしいわ」

 理沙がそんな事を言ったが佐座目には何の事だか分からなかった。

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