ナイトメア ~希望の在りか~

透けてるブランディシュカ

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エピローグ

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 研究成果は無事回収できて、五十嵐とともに本部に送られた。
 前者は研究者たちによって、改良や調整が施されている最中で、後者は尋問で事情聴取されているところらしい。

 アルシェがリンカーネイション研究についての貴重な情報教えてくれたが、そちらはまったくといっていいほど手が回らなかった。
 振り出しに戻ったとしか言いようがないが、佐座目としては別にそんなに悪い気はしなかった。

 地下鉄を通って、美玲や理沙、菖蒲と共に例のシェルターに向かうと、そこは数日前とはまるで見違えるような活気に包まれていた。

 相変わらず、建物のボロさや地下暮らしの環境は変わらないというのに、空気が軽くいなった気がする。

 離れた所で、子供たちの相手をして遊んでいる理沙を眺めながら、美玲がこちらに話しかけてくる。

「これも、お前のおかげだな」
「僕がやって事なんて微々たることですよ。美玲さんたちが今日まで希望を捨てずに頑張って来たから今日があるんだと思います」
「お前、そういうこと言えるんだな。だが、ありがとう。嬉しいよ」

 美玲は、そういって柔らかな笑みを浮かべる。
 うん、やっぱりこの人は笑っていた方が綺麗だ。

「あ、あの……私からはもあ……ありがとうございます。サザメさんは、ディエスさんじゃ……ありませんでしたけど……その、見知らぬ場所なのに、話……私達に、とても丁寧に接してくれましたし。大変な事にも……協力してもらって」
「丁寧にするのは当然の事ですよ。それが女性なら猶更です」

 兄のように、粗雑に接していても女性に好かれるという謎の体質をしてない限りはそうするのが自然だろう。
 本当に、何で兄さんはあんななのに身の回りから女性の影が消えないんだろう。 本人はその事についてはまったく気づいていないようだけど。

「作戦の事に関してなら僕がやりたかったからやっただけですし、菖蒲さんが気にする事じゃありません」
「サザメさんは、良い人……です……」
「ありがとうございます」

 菖蒲は、ぎこちないながらも笑顔を作ってそう言ってくれた。
 これまで接する限りでは人見知りそうなのに、彼女はいつも向こうから話しかけてきてくれた。
 きっと彼女こそ、良い人なのだろう。
 だが、こうやって素直に評価してもらえるというのも、嬉しいものだなと思う。




 それからは、それぞれが知り合いの所に足を向ける事になったので、僕は適当にそこら辺を歩いて見て周る事にした。

 通りを人が歩いていて、話し声が聞こえる。
 当たり前のことなんだろうけど、その当たり前がここにはなかったのだ。今までは。

 そんな様に感慨というものを感じながらシェルターの端まで歩いて行くと、その人物に出会った。

 未踏鳥。
 抗体組織の元トップで、今は組織の裏切り者……逃亡者だ。
 その隣にはフードを被って顔を隠した人の姿。

「僕をこの世界へ連れてきたのは貴方ですか? 未踏鳥さん」
「いいや、違う。……彼女だ」

 未踏鳥は隣の人物を視線で示す。
 その人は女性だった。
 フードを脱いで、顔を晒す。その顔には佐座目の良く知る人物の面影があった。

「貴方は水菜さんの、親戚か何かですか?」
「いいえ、私はあの子の産みの親……母親です」

 女性は悲しそうな表情を見せる。
 水菜さんの本当の親は分からないという話だったが、佐座目の知らない十年で何か進展でもあったのだろうか。
 それとも、知らないというのは水菜だけで、未踏鳥あたりは知っていたのか。

「貴方をその状態にしたのは私です」

 水菜の母親だと名乗る女性は、佐座目の身に起こっているk十について話す始める。

「私は、貴方のお兄さん……今から十年前程に船頭牙に出会い、契約書を書かせて契約を交わしました。内容は、彼が使えなくなったら、その体に別の人の魂を入れるようにする、というもの」

 そんな魔法みたいな事ができるのか。
 この科学の時代に。
 いや、それこそリンカーネーション研究とやらの効果なのだろう。
 ということは研究自体はもうすでに十年前の時点で始まっていたという事か。

 しかし、兄さん。
 こんな怪しげな風体の人の契約書にサインしたのか。
 帰ったら文句を言ってやらなければならない。
 巻き込まれた身としてはその権利があるだろう。

「なるほど、分かりました。でもなぜ、そんな事を?」
「彼の体を失うわけにはいかなかったから」
「それは水菜さんを蘇らせるために必要な事なんですか」
「……。知ってるのですね」

 もっと詳しく考えれば色々あるだろうが、今の所、未踏鳥が動く理由で推測できる一番の理由がそんなところだからだ。

「この時代の兄さんに言えば、喜んで協力してくれると思いますけどね」

 どうしてこんなにまどろっこしい手を使うのだろう。
 水菜さんにベタ惚れしている兄なら、自分の体くらい簡単に差し出しそうなのに。

「この時代……?」

 おや、知らなかったのだろうか。
 佐座目が過去の世界の人間だという事を。

「……とりあえず、今日は挨拶だけをしに来ました。体を大事にしてください」

 女性はそう言って未踏鳥と、目の前に出現させたゲートへ消えていった。

「色々調べた方が良さそうですね」

 逃がしてよかっただろうかと思うが、相手は抗体組織の元トップの未踏鳥に実力不明の女性が一人だ。
 仲間の支援のない状況で下手は打てなかった。

 未だ元の世界へ帰る手立てが見つからない状況であることには変わりない、が……。

「佐座目、何やってんのよ。こんなところで、ここの人達がお礼言いたいって呼んでるわよ、行ってやりなさいよ」

 僕としては別に悪くない。

「慌てなくても大丈夫ですよ、すぐに行きますから」


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