獣人たちは恋を知り愛を育む

月椿

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結婚式1

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 忙しい日常はあっという間に過ぎ去っていった。
 まだまだ先だと思っていた結婚式の当日、ルースレアは今までにないほど緊張で身を固くしていた。

「ルースレア様、ほら、深呼吸をしてください」

 いつもの制服ではなく、落ち着いた色味のドレスを身にまとったミューラがゆっくりと背を擦ってくれる。
 ルースレアはミューラの指示通りに深呼吸をして、改めて正面にある鏡に視線を移した。
 鏡の中には真っ白なドレスを着て、華やかなメイクを施されたいつもとはまったく違う姿の自分が写っている。自分のために誂えられたドレスはいつの日か狐族の仕立て屋に依頼したものだ。
 注文通り……いや、それ以上に美しいドレスは今日限りのもので、少しもったいなく感じてしまう。

「だいぶ落ち着かれたようですね」

 ほっと安心したような様子のミューラに視線を移して、ルースレアは恥ずかしさに頬を染めた。結婚を迎えても彼女にはお世話になってばかりだ。
 そして、きっとシアンの妻となってもお世話になるのだろう。そんなことを考えていると、外から大きな鐘の音が聞こえてきた。

「……シアン様が到着されたようですね」

 そうミューラが呟くと同時に扉がノックされ、兄のクロウが顔を覗かせた。寂しさを全面に押し出したように、耳と尻尾を垂らす姿に、思わずルースレアは笑ってしまう。
 結婚を認めてくれたのだが、かわいい妹と離れるのはどうしても寂しいらしい。

「クロウ様が馬車までエスコートを?」
「ああ……。父上と母上はもう玄関にいる」

 ベスティア国では結婚のとき新郎が屋敷まで新婦を迎えに来る。花嫁は過ごしなれた自分の部屋で身支度を整えてそれを待ち、新郎が到着を知らせる鐘の音を待ちわびるのだ。
 今回は異種族同士で距離の問題もあるため、ルースレアの支度はお見合いをした別邸で行われた。沢山過ごした部屋には昨日お別れを済ましてある。
 鐘の音が余韻を残して消えていく。
 新郎のもとまでは新婦の男親族がエスコートするしきたりだ。今回はそれをクロウが担当することになっていた。
 

「ルースレア……、とってもきれいだ。よく似合っているよ。さあ、行こうか」

 クロウがすっと差し出した手をゆっくりと取り、エスコートされながら玄関へと向かう。後ろからはミューラがついてきている。

「おまたせしました」
「ルースレア……」
「ふふっ、とってもきれいよ」

 玄関の扉をくぐり外に出るとまっさきに両親が声をかけてくれた。ルースレアはこみ上げてくる感情を落ち着けるようにゆっくりと息を吐き出す。
 馬車は門の外に停まっているので、まだシアンの姿は見えなかった。

「たくさん言いたいことがあるが、今話し出すと止まらなくなりそうだから一つだけ。……おめでとう、ルースレア。お前は俺の自慢の妹だ。……幸せになれ。手紙、たくさん書くから……」

 まっすぐにこちらを見つめるクロウが、いつものように甘く優しい笑みを浮かべた。見慣れた表情に思わず視界が滲む。それを察したのか、ミューラがそっとハンカチを差し出してくれた。

「ミューラ、これからも妹を頼むぞ」
「はい、もちろんです。お任せください」
「ああ、信頼している」

 ミューラが微笑んでクロウに向かってしっかりと頭を下げた。ルースレアは背の高い兄を見上げて、ゆっくりと今までの感謝を伝える。それに兄は深く頷いて返事をしてくれた。
 兄から離れ、ルースレアは両親に向き直る。すると、待っていたかのように父のアルフレットが口を開いた。

「ルースレア。これからもお前は私の大切な娘だ。困ったときはいつでも私を頼りなさい」

 アルフレットがルースレアの両肩に手を添えてそう言った。華奢な彼女の肩をすっぽりと覆うほど立派な手はに寂しさを感じながら、しっかりと頷いた。
 大きな手が離れ今度は母のアリアに顔を向ける。

「……今までよく頑張ったわね。もう教えることはなにもないくらい、貴方は立派な淑女よ」

 結婚に備えて行われた厳しい母のレッスン。日が進むにつれて少なくなった注意。厳しすぎると思ったこともあったが、それが自分のためだと分かっていたから頑張れた。
 最後に母の合格を貰えて嬉しくなる。

「ルースレア。自信をもちなさい。どんなときも俯いてはだめよ。……決して笑顔を忘れないで」

 アリアの細い指が頬に触れる。微笑む母の瞳から涙が流れ、ルースレアはきゅっと唇を噛み締めた。
 母の涙を見たのは初めてだった。揺れる視界をハンカチでそっと拭って、ルースレアは満面の笑みを浮かべる。
 アリアがそれを見て少し驚いたような表情を浮かべ、ぎゅっと抱きしめてきた。

「そう。それでいいのよ、ルースレア。……幸せになりなさい」

 耳元で囁かれた言葉にとうとう耐えきれず涙を流しながら、ルースレアはぎゅっと母を抱きしめ返したのだった。
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