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最終話【鎮魂歌】
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それから数年後が経った。
俺は彩菜ちゃんーーいや、彩菜と結婚し、プロのボクサーに転職する。
無論、プロの世界は甘くはない。
それでもH.E.A.V.E.N.での経験が俺を強くし、今ではトップランク10位に入るまでに至る。
まさか、H.E.A.V.E.N.で極振りしてから、プロボクサーになるなんて思わなかったし、それがきっかけで結婚するとは思ってなかった。
ただ、心残りはある。
哲の事である。
あいつとの約束がきっかけで俺はH.E.A.V.E.N.を再開し、彩菜と出会う事になった。
マシュマロさんと出会って、彩菜の想いを知った。
そして、H.E.A.V.E.N.での経験が俺を強くした。
俺はそんな心残りを残しつつ、彩菜と共に幸せな日々を送っている。
彩菜は本当に幸せそうにしていた。
だが、時折見せる俺の表情が彩菜の笑顔を曇らせる。
やはり、けじめは着けなければならない。
彩菜と結婚してからも、それは感じていた。
「彩菜。ちょっと良いか?」
ある日、俺は自宅に帰って彩菜に話を持ち掛ける。
無論、H.E.A.V.E.N.についてだ。
それを察してか、彩菜は此方に背を向けて台所で洗い物をする。
彩菜は俺がH.E.A.V.E.N.の話をしようとすると家事に逃げる。
まるで、それを察しているかの様に……。
だが、今回は引けない。
「この数年間、君との約束は十分果たしたと思う。だからーー」
「……駄目よ」
「プロのボクサーだって命がけなんだ。
H.E.A.V.E.N.に戻ったってーー」
「違うの。H.E.A.V.E.N.は……もう無いの」
「……え?」
俺は思いがけない言葉に目を丸くする。
そんな俺に彩菜は洗い物を終え、二年前の通知が書かれたスマホの掲示板を見せた。
そこにはこう書かれていた。
【H.E.A.V.E.N.のサービス終了のお知らせ】
『長年、H.E.A.V.E.N.をお楽しみ頂き、ありがとうございます。
今回、H.E.A.V.E.N.のサービス終了に至りました理由はご存知の方もいると思われますが、トップランクとなったマシュマロさんからの大々的な宣伝の為です。
マシュマロさんはガイルさんこと門崎悠(かんざき ゆう)さんをショック死させた事を知り、新ルールを運営に提供致しました。
我々もユーザーの皆様の危険性を知りながら運営して来た事を心より御詫び申し上げます。
申し訳ありませんでした。
遺族の方にはなんと御詫びすれば良いか解りません。
ですが、このデータは医学研究に役立てられている事も御了承下さい。
ユーザーの皆様にも多大な支援は未だにありますが、マシュマロさんの言葉を重々受け止め、今回、サービス終了に踏み切らせて頂きました。
我々はマシュマロさんの新ルールを元に新たなゲームを開発に着手致します。
最後になりますが、H.E.A.V.E.N.で人生観を変えられた皆様が良い人生を歩まれます事を心より願います。
ーーH.E.A.V.E.N.運営代表取締役より』
俺はそれを読み終えると瞼を閉じる。
そうか。マシュマロさんがガイルを倒してトップランクに入ったのか……。
そして、数年前にマシュマロさんが予期した様にガイルを名乗る小学生は死のショックに耐えきれなかったか……。
「黙ってて、ごめんなさい」
「……いや、終わってしまった事だ。
もう、俺には何も出来ないよ」
「……あなた」
俺は寄り添う彩菜の肩を抱き、優しくキスをする。
結局、哲との約束は果たせなかった。
いや、最初から哲との約束なんてものはなかったのかも知れない。
それでも、口約束になってしまったのは残念な事である。
哲はその後、どうしたのだろうか?
それについての情報は何もなかったので解らないが、少なくともマシュマロさんを恨んでいるだろう。
哲とガイルこと門崎悠は叔父と甥の関係を越えた仲なのだから。
こうして、俺のH.E.A.V.E.N.での生活は本当の意味で終わりを告げたのだった。
それから更に数年後ーー
俺はボクサーを引退して再び社会人となった。
H.E.A.V.E.N.が終了したので気が抜けたのか、連敗続きだったのもある。
しかし、それ以上に一人の親となったのが大きいかも知れない。
これが俺がH.E.A.V.E.N.で素早さを極振りして起こったエラい事である。
俺は家族と過ごしながら、時折、H.E.A.V.E.N.の事を思い出す。
決して、良い思い出ではないが、大きな縁はあった。
そして、あの死の体験が俺を強くしてくれた。
これからも俺は最愛の家族と共に歩み続けるだろう。
それが俺がH.E.A.V.E.N.に贈れる鎮魂歌(レクイエム)であると信じて……。
【H.E.A.V.E.N.~素早さを極振りしたら、エラい事になった~・完】
俺は彩菜ちゃんーーいや、彩菜と結婚し、プロのボクサーに転職する。
無論、プロの世界は甘くはない。
それでもH.E.A.V.E.N.での経験が俺を強くし、今ではトップランク10位に入るまでに至る。
まさか、H.E.A.V.E.N.で極振りしてから、プロボクサーになるなんて思わなかったし、それがきっかけで結婚するとは思ってなかった。
ただ、心残りはある。
哲の事である。
あいつとの約束がきっかけで俺はH.E.A.V.E.N.を再開し、彩菜と出会う事になった。
マシュマロさんと出会って、彩菜の想いを知った。
そして、H.E.A.V.E.N.での経験が俺を強くした。
俺はそんな心残りを残しつつ、彩菜と共に幸せな日々を送っている。
彩菜は本当に幸せそうにしていた。
だが、時折見せる俺の表情が彩菜の笑顔を曇らせる。
やはり、けじめは着けなければならない。
彩菜と結婚してからも、それは感じていた。
「彩菜。ちょっと良いか?」
ある日、俺は自宅に帰って彩菜に話を持ち掛ける。
無論、H.E.A.V.E.N.についてだ。
それを察してか、彩菜は此方に背を向けて台所で洗い物をする。
彩菜は俺がH.E.A.V.E.N.の話をしようとすると家事に逃げる。
まるで、それを察しているかの様に……。
だが、今回は引けない。
「この数年間、君との約束は十分果たしたと思う。だからーー」
「……駄目よ」
「プロのボクサーだって命がけなんだ。
H.E.A.V.E.N.に戻ったってーー」
「違うの。H.E.A.V.E.N.は……もう無いの」
「……え?」
俺は思いがけない言葉に目を丸くする。
そんな俺に彩菜は洗い物を終え、二年前の通知が書かれたスマホの掲示板を見せた。
そこにはこう書かれていた。
【H.E.A.V.E.N.のサービス終了のお知らせ】
『長年、H.E.A.V.E.N.をお楽しみ頂き、ありがとうございます。
今回、H.E.A.V.E.N.のサービス終了に至りました理由はご存知の方もいると思われますが、トップランクとなったマシュマロさんからの大々的な宣伝の為です。
マシュマロさんはガイルさんこと門崎悠(かんざき ゆう)さんをショック死させた事を知り、新ルールを運営に提供致しました。
我々もユーザーの皆様の危険性を知りながら運営して来た事を心より御詫び申し上げます。
申し訳ありませんでした。
遺族の方にはなんと御詫びすれば良いか解りません。
ですが、このデータは医学研究に役立てられている事も御了承下さい。
ユーザーの皆様にも多大な支援は未だにありますが、マシュマロさんの言葉を重々受け止め、今回、サービス終了に踏み切らせて頂きました。
我々はマシュマロさんの新ルールを元に新たなゲームを開発に着手致します。
最後になりますが、H.E.A.V.E.N.で人生観を変えられた皆様が良い人生を歩まれます事を心より願います。
ーーH.E.A.V.E.N.運営代表取締役より』
俺はそれを読み終えると瞼を閉じる。
そうか。マシュマロさんがガイルを倒してトップランクに入ったのか……。
そして、数年前にマシュマロさんが予期した様にガイルを名乗る小学生は死のショックに耐えきれなかったか……。
「黙ってて、ごめんなさい」
「……いや、終わってしまった事だ。
もう、俺には何も出来ないよ」
「……あなた」
俺は寄り添う彩菜の肩を抱き、優しくキスをする。
結局、哲との約束は果たせなかった。
いや、最初から哲との約束なんてものはなかったのかも知れない。
それでも、口約束になってしまったのは残念な事である。
哲はその後、どうしたのだろうか?
それについての情報は何もなかったので解らないが、少なくともマシュマロさんを恨んでいるだろう。
哲とガイルこと門崎悠は叔父と甥の関係を越えた仲なのだから。
こうして、俺のH.E.A.V.E.N.での生活は本当の意味で終わりを告げたのだった。
それから更に数年後ーー
俺はボクサーを引退して再び社会人となった。
H.E.A.V.E.N.が終了したので気が抜けたのか、連敗続きだったのもある。
しかし、それ以上に一人の親となったのが大きいかも知れない。
これが俺がH.E.A.V.E.N.で素早さを極振りして起こったエラい事である。
俺は家族と過ごしながら、時折、H.E.A.V.E.N.の事を思い出す。
決して、良い思い出ではないが、大きな縁はあった。
そして、あの死の体験が俺を強くしてくれた。
これからも俺は最愛の家族と共に歩み続けるだろう。
それが俺がH.E.A.V.E.N.に贈れる鎮魂歌(レクイエム)であると信じて……。
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