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第5章【別れ道】
第42話【獅童甲斐の再スタート】
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獅童さんの試合前から俺は鈴木さんと一緒に生活するようになった。
まあ、特に俺に何が出来るって訳でもないが、あんなストーカーまがいの行動をされれば、自宅にはいない方がいい。
母さんにも念の為、警察に届け出を出して貰った。
母さんを残した事は心配だったけれど、俺が問題な訳だから、俺がいなくなれば、多少は違うだろう。
実際、俺が鈴木さんの家から出入りするようになってから、ピタリと止まったそうだ。
つまり、どこかしらで三国が潜んでいると見て、間違いないだろう。
襲って来ないのは単に警戒してか、それとも予告通り、鈴木さんをリングで撲殺する為か・・・。
いずれにしろ、注意するのに越した事はない。
「そろそろ時間ですか・・・」
「そうですね?」
鈴木さんの言葉に俺は頷くとリングを観客席の外から眺める。
坂田さんがトレーナーとして獅童さんを連れて現れる周囲がざわめく。
まあ、別のジムのトレーナーがチーフとして前にいるのだから、当然の反応と言えば、当然だろう。
相手側の宮川選手も困惑していた。
「今回は獅童さんの久々の試合ですが、うちのジムで特訓して来た獅童さんなら問題ないでしょう」
「そうですね。それに坂田さんもいますし・・・」
鈴木さんに俺がそう応えるとゴングがなった。
相手は同様しつつも獅童さんへの対策はしているらしく、鈴木さんのようにフリッカージャブで様子を見るらしい。
獅童さんへの対策は鈴木さんや天原選手がして来た。
逆に言えば、フリッカージャブを使ってきたと言う事はダッシュ力に欠けるのだろう。
なら、試合は早々に決着が着く筈だ。
案の定、獅童さんはフリッカージャブを避けながら前へと出る。
鈴木さんよりもスピードの遅いパンチだ。
あれならちょっとやそっとのくらいでは当たらないだろう。
そうして、相手がクロスレンジでの打ち合いを身構えた瞬間、獅童さんはその微かな動きに反応するとミドルレンジから左ジャブを放つ。
相手はその動きに反応し遅れて、もろに喰らってしまう。
そんな相手に獅童さんは左ジャブを浴びせ続けた。その内、相手の膝が落ち掛ける。
それでも獅童さんは左だけを当て続けた。
10発くらいヒットしたところで宮川選手が糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
カウントがされようとしていたが、すぐに宮川選手が気を失っている事に気付いたレフェリーが試合をストップさせた。
「左を制する者は世界を制す、ですか・・・獅童さんらしい復帰宣言ですね」
鈴木さんはそう呟くと獅童選手の熱狂的なファンが歓声を上げた。
しばらく、試合がなかったとは云え、まだ会場の4分の1がいまだに獅童さんの追い掛けなだけあって、未だに獅童甲斐に思いを寄せる人達がいるのを痛感する。
獅童さんもそんな観客を見て、レフェリーにマイクを借りる。
『皆さん。応援頂き、ありがとうございます。
僕は今まで数々の人に支えられて来ました。
しかし、先の天原選手との試合でその未熟さを痛感しました。
ですが、鈴木選手やそのトレーナーの坂田さんの言葉で自分が如何に恵まれ、それを見落としていたのか実感しました。
こんな至らない僕ですが、また皆さんの声援に答えられるように頑張りたいと思います。
こんな若輩者の僕ですが、改めて宜しくお願い致します』
獅童さんがマイクを片手に頭を下げると拍手が起こる。
ランキング7位とは云え、左手のみで相手を制したのだ。
その才能を認める人も多い筈だろう。
そんな事を思いながら、獅童選手が会場をあとにしようとするとある一点を見て、立ち止まる。
その視線の先にはビジネススーツに身を包む少し金のメッシュの入った黒髪の男性が座っており、獅童さんの事を見つめ返していた。
「・・・どうやら、あの人はーー如月さんは日本タイトル最強挑戦者決定戦の権利を獲得する選手として獅童さんに注目しているようですね。
如月さんも獅童さんが挑戦者決定戦で這い上がり、チャンピオンカーニバルで自分と試合をするだろうと判断したのでしょう」
「そうみたいですね。まさか、ここにあの人がいるなんて・・・」
俺達は静かに囁き合うとスーツの男性ーー如月瞳と獅童さんのにらみ合いを黙って見守った。
「けれど、どうして、如月選手がランキング7位の試合を視察しに?」
「恐らくですが、坂田さんが気を利かせたんじゃないですか?
或いは獅童甲斐と云う人物を如月瞳と云うチャンピオンにぶつけられるだけの実力に成長した事を伝えるのが目的だったのかも知れませんね?
いずれにしろ、これで獅童さんが日本タイトル最強挑戦者決定戦に参戦する理由がまた一つ出来ましたか?」
成る程。こうなると次のチャンピオンカーニバルは熱くなるかも知れない。
俺はそう予感しながら、目だけで会話する二人のやり取りを見守り続けた。
しばらくして坂田さんが獅童さんの肩を叩き、二人はリングをあとにして行く。
終わってしまえば、あっと言う間だ。
1ラウンドで左手だけを使ったKO劇ーーこれは如月選手にも良い刺激になっただろう。
俺も鈴木さんや獅童さんに負けない男にならなければ・・・ただ、少しプロになるかには迷いが生じている。
理由は三国の事もあるが、こうも毎回なにかしらの理由でプロテストを辞退していると自信もなくなっていく。
俺は再び自分の中で微かな変化が生じつつ、鈴木さんと共に帰宅する。
まあ、特に俺に何が出来るって訳でもないが、あんなストーカーまがいの行動をされれば、自宅にはいない方がいい。
母さんにも念の為、警察に届け出を出して貰った。
母さんを残した事は心配だったけれど、俺が問題な訳だから、俺がいなくなれば、多少は違うだろう。
実際、俺が鈴木さんの家から出入りするようになってから、ピタリと止まったそうだ。
つまり、どこかしらで三国が潜んでいると見て、間違いないだろう。
襲って来ないのは単に警戒してか、それとも予告通り、鈴木さんをリングで撲殺する為か・・・。
いずれにしろ、注意するのに越した事はない。
「そろそろ時間ですか・・・」
「そうですね?」
鈴木さんの言葉に俺は頷くとリングを観客席の外から眺める。
坂田さんがトレーナーとして獅童さんを連れて現れる周囲がざわめく。
まあ、別のジムのトレーナーがチーフとして前にいるのだから、当然の反応と言えば、当然だろう。
相手側の宮川選手も困惑していた。
「今回は獅童さんの久々の試合ですが、うちのジムで特訓して来た獅童さんなら問題ないでしょう」
「そうですね。それに坂田さんもいますし・・・」
鈴木さんに俺がそう応えるとゴングがなった。
相手は同様しつつも獅童さんへの対策はしているらしく、鈴木さんのようにフリッカージャブで様子を見るらしい。
獅童さんへの対策は鈴木さんや天原選手がして来た。
逆に言えば、フリッカージャブを使ってきたと言う事はダッシュ力に欠けるのだろう。
なら、試合は早々に決着が着く筈だ。
案の定、獅童さんはフリッカージャブを避けながら前へと出る。
鈴木さんよりもスピードの遅いパンチだ。
あれならちょっとやそっとのくらいでは当たらないだろう。
そうして、相手がクロスレンジでの打ち合いを身構えた瞬間、獅童さんはその微かな動きに反応するとミドルレンジから左ジャブを放つ。
相手はその動きに反応し遅れて、もろに喰らってしまう。
そんな相手に獅童さんは左ジャブを浴びせ続けた。その内、相手の膝が落ち掛ける。
それでも獅童さんは左だけを当て続けた。
10発くらいヒットしたところで宮川選手が糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
カウントがされようとしていたが、すぐに宮川選手が気を失っている事に気付いたレフェリーが試合をストップさせた。
「左を制する者は世界を制す、ですか・・・獅童さんらしい復帰宣言ですね」
鈴木さんはそう呟くと獅童選手の熱狂的なファンが歓声を上げた。
しばらく、試合がなかったとは云え、まだ会場の4分の1がいまだに獅童さんの追い掛けなだけあって、未だに獅童甲斐に思いを寄せる人達がいるのを痛感する。
獅童さんもそんな観客を見て、レフェリーにマイクを借りる。
『皆さん。応援頂き、ありがとうございます。
僕は今まで数々の人に支えられて来ました。
しかし、先の天原選手との試合でその未熟さを痛感しました。
ですが、鈴木選手やそのトレーナーの坂田さんの言葉で自分が如何に恵まれ、それを見落としていたのか実感しました。
こんな至らない僕ですが、また皆さんの声援に答えられるように頑張りたいと思います。
こんな若輩者の僕ですが、改めて宜しくお願い致します』
獅童さんがマイクを片手に頭を下げると拍手が起こる。
ランキング7位とは云え、左手のみで相手を制したのだ。
その才能を認める人も多い筈だろう。
そんな事を思いながら、獅童選手が会場をあとにしようとするとある一点を見て、立ち止まる。
その視線の先にはビジネススーツに身を包む少し金のメッシュの入った黒髪の男性が座っており、獅童さんの事を見つめ返していた。
「・・・どうやら、あの人はーー如月さんは日本タイトル最強挑戦者決定戦の権利を獲得する選手として獅童さんに注目しているようですね。
如月さんも獅童さんが挑戦者決定戦で這い上がり、チャンピオンカーニバルで自分と試合をするだろうと判断したのでしょう」
「そうみたいですね。まさか、ここにあの人がいるなんて・・・」
俺達は静かに囁き合うとスーツの男性ーー如月瞳と獅童さんのにらみ合いを黙って見守った。
「けれど、どうして、如月選手がランキング7位の試合を視察しに?」
「恐らくですが、坂田さんが気を利かせたんじゃないですか?
或いは獅童甲斐と云う人物を如月瞳と云うチャンピオンにぶつけられるだけの実力に成長した事を伝えるのが目的だったのかも知れませんね?
いずれにしろ、これで獅童さんが日本タイトル最強挑戦者決定戦に参戦する理由がまた一つ出来ましたか?」
成る程。こうなると次のチャンピオンカーニバルは熱くなるかも知れない。
俺はそう予感しながら、目だけで会話する二人のやり取りを見守り続けた。
しばらくして坂田さんが獅童さんの肩を叩き、二人はリングをあとにして行く。
終わってしまえば、あっと言う間だ。
1ラウンドで左手だけを使ったKO劇ーーこれは如月選手にも良い刺激になっただろう。
俺も鈴木さんや獅童さんに負けない男にならなければ・・・ただ、少しプロになるかには迷いが生じている。
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俺は再び自分の中で微かな変化が生じつつ、鈴木さんと共に帰宅する。
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