白薔薇の誓い

田中ライコフ

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目覚めし時

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「王子! いい加減に目をお覚ましてください!」
「デューク、公爵……?」
「いつまでそうやっておられるのです! あなたはこの国の王子! 誰にも勝る力がある!」
 力強いデュークの声に、アダマスは息を飲む。
「確かにあなたは王宮から遠ざけられた。ですがその理由は、異国の血が疎まれているからではありません」
「どういうことだ……?」
 聞いたことのない話に、アダマスは身を乗り出す。
 生まれてからずっと、この血が悪いのだとアダマスは信じていた。自分が悪いのだからと、どんな不遇も耐えてきたのだ。
「あなたは恐れられているのです。宰相を含む、多くの貴族たちに。それどころか兄君たちや王妃すらも、恐れを抱いているでしょう」
「なにを言う。なぜ私が恐れられなくてはいけない」
 誰よりも無力でちっぽけな王子。そのどこに、恐れを抱くというのだろう。
 アダマスはデュークを不思議そうに見た。
「アダマス王子。あなたは第二王妃の血を引いておられます。それも色濃く」
「ああ。……本当に王の血を引いているのかと疑われるほど、私は母に似たらしい」
「子は女の力だけでは出来ません。必ず父親がおります。そしてそれは陛下以外、考えられません」
「なぜ、私の父が王だと言い切れる」
「あなたは幼かったので覚えていないのでしょう。王も第二王妃も、互いを強く愛しておられました。誰が見ても明らかなほどに」
「そう……だったか?」
 アダマスの記憶の中では、父はいつも怖かった。子供ながらに畏怖を抱き、近づいた記憶はあまりない。
「だが母が病に臥したとき、王は顔を出さなくなったぞ」
「丁度その頃、国内外で大きな動きがあったのです。責務を果たさなければいけないのが王というもの。たとえ愛するものが臥したとしても、仕事を投げ出すわけにはいけません。それに王も恐ろしかったのでしょう。愛する者の衰えゆく姿が」
 母の死に際は、アダマスも正視するのが辛いほど、痩せて見る影を失くしていた。葬儀のさいも、近しい者にしか姿を見せなかったほどだ。
 葬儀のときの王の様子は、アダマスもよく覚えている。口を固く結び、しっかりと前を向いていた。顔色ひとつ変えず、涙もこぼさない。その様子にアダマスは、王が自分たち親子に関心がないのだと思い込んだのだ。
「王たる者、不用意に涙を見せることは出来ません。さぞお辛かったことでしょう。ですが、王にはまだアダマス王子がいた」
「私?」
「確かに王には正室がおります。そして後継ぎである子もいる。ですが、そこには愛はないのです。王と王妃は政略結婚。真に愛し合い、生まれた子はアダマス様だけ……」
 デュークの真っ直ぐな瞳が、アダマスを映す。
「だからこそ、貴族たちはあなたを遠ざけようとする。王の愛した者の忘れ形見だからこそ、計り知れない力を有するかもしれない。それを皆は恐れているのです」
 信じられない、とアダマスは言葉を失くす。
 すべてが寝耳に水だった。
「だ、だが王は私を人質に差し出そうとしたのだぞ。王はそれに異論を唱えることはなかったと……」
「それは王の口から聞いたのですか」
 アダマスは小さく首を振る。
 アダマスにそれを告げたのは宰相だ。誰よりもアダマスを遠ざけようとする男。
「一体、どうなっているというのだ……」
 すべての常識が覆され、アダマスは混乱する。
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