宇宙漂流した星軍下士官は魔法と魔物が存在する辺境惑星で建国を目指す!

生名 成 (いきな せい)

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情報収集

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 小型ドローン二十機を投入したので、情報収集の勢いが早い。予想を遥かに上回る勢いで情報が集まった。アルテミス1は整理したデータを、定期的にレンヌへと送信していた。

 その情報収集の過程で、エイベル侯爵と王太子、それからトリニスタン辺境伯爵がグルだとわかった。
   更に、三人がスコット男爵家を冤罪で取り潰した事件とその一族を捕らえて奴隷にした事実も判明した。
   レンヌはその情報をゴランのところに持って行き、証拠の音声と映像を見せた。ゴランはレンヌを同行させて、揚陸艦ですぐさま王都に向かった。そして、アイシス伯爵に直接会って証拠を見せた。

 しかし、相手は王太子と外祖父の侯爵である。その権力の強さは、王都に住むアイシスには嫌というほど分かっていた。結果的にロワール王国と対立する構図になるのは見えている。ならば、今すぐに行動を起こすのは得策ではないと三人は判断した。

 先ずは、国王や王国の貴族たちの情報を集めてから方針を決める事にした。目的は、エイベル侯爵に対抗する勢力の把握と国王と王太子の関係の調査だ。それに、事件に王妃が絡んでいるのかも知る必要がある。
 誰が敵であるのか、そして誰が味方に成り得るのかを知らなくてはいけない。敵の情報を知り、自分たちの状況を知る事こそが、もっとも大事な戦略なのだ。

 レンヌは奴隷にされたスコット男爵の一族の行方を追跡調査させた。しかし、ドローンの能力では追跡調査は難しかった。ドローンは音や映像を集める事を優先させているために文書や記録されたメモ等を調べる手段を持たない。部屋に忍び込んで必要な本を探し出し、ページを捲ってそれを撮影する事などはできないのだ。

 そこで、アルテミス1は偵察専用の超小型ロボットの製造許可をレンヌに求めた。レンヌはナノマシンを応用した偵察ロボットを設計してアルテミス1に提示した。アルテミス1は、その設計図に改良を加えてレンヌに提案し、許可を受けて製造を開始した。偵察ナノマシンは『メヴィウス』と名付けられた。

 アイシス伯爵は調査を専門とする法務院の実働部隊を動かす事にした。ただし、法務院の院長はエイベル侯爵の派閥に入っている。派閥にいるから院長になれたのだ。法務院の主席審議官をしているアイシスでも堂々と院長と対立する訳にはいかなかった。

 幸いな事に実働部隊の直属の長はアイシスだ。首席審議官が実働部隊の長を兼任するのが法務院の代々の慣習だったからだ。
 ましてや、アイシスは元1級冒険者パーティ『銀竜の逆鱗』のリーダーだったので、実働部隊の隊員は憧れを持ってアイシスに忠誠を誓っていた。アイシスの要請を聞き入れた実働部隊のウィル隊長は秘密裏に精鋭部隊を動かした。
 因みに『銀龍の逆鱗』のパーティメンバーは全部で六人だった。そのうちの一人が、女性ながら王国軍魔術師団の師団長をしている大魔道士アイリーンだ。アイシスの妻である。

 王都での調査は、もうすぐ完成する予定のメヴィウスとアイシスの実働部隊に任せて、レンヌとゴランは領都トリニスタンに帰ることにした。レンヌは子供たちの事が心配だったし、ゴランはギルドマスターなので冒険者ギルドをあまり留守にする訳にはいかなかった。有能だが堅物のサブマスターを怒らせると面倒になるからだ。
 帰り間際にレンヌはアイシスとゴランに通信機を与えて、使い方を説明した。王都と領都の間は遠い。揚陸艦ならすぐだが、馬を使っても十日はかかる距離だ。急ぎの場合に備えて連絡をとる手段が必要だと判断した。

 王都でレンヌたちが動いていた時期に、領都では新しく来た代官の話でもちきりだった。領主のトリニスタン辺境伯爵が警務院の審議官に就任して王都に常駐するので、領都トリニスタンを運営する者が必要になった。そのために代官を常駐させる事になったのだ。

 レンヌとゴランが王都から戻った翌日、レンヌは冒険者ギルドでゴランと話し合った。話題の中心は代官の事だ。トリニスタン辺境伯爵の後釜なのだから、当然ながら辺境伯爵の関係者だと推測される。

 レンヌがゴランに聞く。
「何か仕掛けて来ますかね?」
 「当然、その懸念はある。しかし、まだどういう人物か分かっていないので、今は様子を見るしかないだろう」
 ゴランは王都にいるアイシスに新しい代官のことを聞いたが、あまり社交界に出ない人物らしく詳しい人物評価が無かった。
「相手どういう人間か分からない以上は手の打ちようがない」 
 とりあえず、警戒はするが当分は様子を見る事で二人の意見は一致した。



 同時刻のエルフの里。
 アニエスの家でイネスはいつものお茶会をしていた。二人きりの時は従兄弟の気安さで会話するのが二人の決まりだった。
「森に異変が?」
 族長のアニエスは驚いて、イネスの顔を見た。
「白壁山脈の麓にあるダンジョンの側の森だ」
 昨日、定期的にダンジョンとその周辺の森を見回っている警備隊から報告が入った、と戦士長のイネスは言った。
「あのダンジョンの?」
「そうだ。ダンジョンから溢れた魔物が森に棲み着いたのでなければ良いのだが」

   エルフの里を出て、白壁山脈の方へ進むと森の外に出る。そこから、山脈沿いに北東へ行けば別の森がある。その森の近くまで行くと山側に洞窟が見えてくる。
   その洞窟こそがダンジョンの入り口である。入り口の大きさは縦が3メートルくらいで横が5メートルほどだ。

   警備隊の小隊長を務めるアスカはイネスの命を受けて、部下の戦士と共に洞窟の入り口を見張っていた。
「隊長、あれは?」
   部下の声にアスカは答えた。
「オークだな」
   洞窟の入り口から十体のオークが出てきた。

   肥え太った体は赤みを含んだ肌色で、豚の顔をしている。人族と同じ形の手足は、人族の手足よりもずっと太くて丸太みたいだ。
   腰に何かの皮を巻き付けているから、いつも全裸でいるゴブリンよりは知能があるようだ。オークたちは、そのまま森へと降りていった。

   岩影に隠れて偵察していた二人は、オークたちに気づかれないように静かにその場を離れた。
   同数であれば、オークに遅れを取らないエルフの戦士だが、二人しかいない今は十体ものオークを相手に戦えない 。何よりも偵察の任務は報告を持ち帰るのが仕事である。
 二人は無事に里へと戻って戦士長のイネスに見た通りを報告した。報告を受けたイネスは、すぐに族長のアニエスに告げた。

「恐れていた事が起きたようね」
   アニエスはその美しい顔をしかめて呟いた。
「スタンピードか?」
   と聞くイネス。
「いえ、まだオーバーフローの段階ね。スタンピードなら何種類もの魔物が同時に出てくるはずだわ」
「それでも、時間の問題だろう?」
「問題はその規模だわ」
「この里には『幻術視』の結界魔法があるから、魔物だろうと入ってこれないが人族の住む街は危険だな」
 イネスはレンヌの顔を思いだした。
「そうね。規模によっては壊滅するでしょうね」
 アニエスも同様で、心配しているのはレンヌのことだけだ。
「知らせるのか?  あれだけの仕打ちを受けたこの国に、もはや敵と言ってもいい存在だぞ」
 戦士長のイネスにしたら、同族を誘拐しておきながら謝罪も何もしない国に知らせる義理は無い。
「う~ん、どうしましょう?」
   アニエスは右手の指を自分の顎に当てて、右に小首を傾げた。腰まである白銀の髪がさらさらと、右に流れていった。
「とりあえず、レンヌ様にだけは知らせておくべきだと思うわ。イネスから伝えてあげて」
「いいのか?   私で」
「あら!   なぜ、そんな事を聞くの?」
「いや、べつに」と言いながらイネスは通信機を取り出した。


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