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15 サリーナの決断
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「アレクサンドル王子、二人を救い出してくれたこと、心から感謝する」
キル国王ジェームスはアレクサンドルに深々と頭を下げた。
「これでようやく家族揃って暮らすことができる。すぐに国に帰り、アリーシャを王妃に、サリーナを二人の娘として国に発表します」
その言葉にアレクサンドルは唇を噛み締める。ようやくサリーナは本当の家族に出会うことができた。今まで与えられていなかった家族からの愛や、王族としての正当な立場を得ることができるのだ。
「ジェームス、私、王妃になんて……」
アリーシャはうつむく。
「君をつらい目に合わせたダルメール王は私がこの手で殺してやる。誰にも何も言わせない。君は何も心配しなくていいんだ」
突如立ち上るジェームスの激しい殺気にアリーシャは慌てて言葉を続ける。
「これだけは信じて欲しいんだけど、私、誓ってあなた以外に体を許したことはないわ」
「……そうなのか?」
「ダルメール王国にさらわれてから、すぐにサリーナを妊娠しているとわかったの。私は名ばかりの側妃になって部屋を与えられたけど、ダルメール王に会ったことは一度もないわ」
「一度も?」
「ハーレムには常に100人くらいの女奴隷がいたの。あの男は買った奴隷のことなんていちいち覚えていないのよ。まして、子供を産んだ用済みの女奴隷なんて、用はなかったということね。」
「アリーシャ、君が今までどんなにつらい目に合っていたかと思うと胸が張り裂けそうだ。だが、あの卑劣な男が君を見逃したことだけは神に感謝する……」
ジェームスはアリーシャをますます強く抱きしめた。
「でも、サリーナが物心つくか付かないかのうちにすぐに引き離されてしまって。サリーナを守ってあげられなかった。私に母親の資格はないわ」
「お母様……」
「毎日、子守歌を歌っていたの。」
「えっ?」
「サリーナが赤ちゃんの頃、キラ王国に伝わる子守唄が好きだったから。だから、サリーナに会えなくなっても毎日、歌っていたの」
サリーナは思い出す。懐かしい母の子守歌を。
「せめて、せめて声だけは届くようにって。愛してると伝えたくて……」
「お母様、私、聞こえてました。アレクサンドル様が私を救ってくれたあの日も、確かにお母様の歌が聞こえたわ……」
「サリーナ……」
「お母様、お母様がきっと、一番お辛かったはず。どうかお父様と幸せになってください。小さい頃、お父様のお話をして下さったこともちゃんと覚えています。私は、お二人を引き裂いた憎い男の娘だと思っていました。でも、違ったんですね。私は、愛し合うお二人の娘だったんですね」
「ああそうだ!サリーナ、私の愛しい娘!」
「そうよ!あんな男の娘であるはずないじゃない!」
「良かった……」
サリーナは花の蕾がほころぶように微笑んだ。
「これから、3人で暮らそう。今までの時間を取り戻すんだ」
アレクサンドルが目を閉じたそのとき、
「いいえ。私はキル王国にはいきません。」
サリーナの言葉に誰もが目を見開く。
「なぜ?なぜだっ!?」
「お父様、申し訳ありません。でも、私が行けばお母様がハーレムにいたことを、口さがなく噂するものもいるでしょう」
「それはっ」
「お母様もその事を気にしていらっしゃるのでは?」
「私のことなんてどうでもいいの。でも、ジェームスやサリーナがなんていわれるか。それに、国民は受け入れてくれるのか怖くて……」
「お母様とお父様のお二人でお帰りください。お父様は旅先で素敵な花嫁と恋に落ちた。それでいいではありませんか」
「サリーナ……」
「それにね、私ももう、愛する方を見つけてしまいました」
サリーナがアレクサンドルの胸に飛び込んでいく。
「アル様!アル様に出逢ってから、毎日が楽しくて仕方がないの。私、本当はアル様が大好き!この国が大好きよ!プロポーズは、まだ有効ですか?」
サリーナの言葉に泣き出しそうになりながら、アレクサンドルはサリーナを力いっぱい抱き締めた。
「もちろんだっ!サリーナ、初めてあったときから君に惹かれていた。どんなに自分に言い訳しても、君に惹かれずにいられなかった。君の全てを愛している。どうか私の花嫁となり、共にこの国を支えてほしい」
アレクサンドルが跪いて差し出した右手にサリーナの小さな右手が重なる。
「はい。アル様。サリーナを妻として、王妃として、末長く可愛がってください」
「サリーナ!」
アレクサンドルはサリーナを再び力強く抱き締めた。ゲインが小さくガッツポーズをする。エレン、リアナ、エバの三人もまた、顔を見合わせて微笑みあった。
「ねぇ、ジェームス……サリーナはもう愛する人を見つけたみたいね」
「ああ、そうだな……」
アレクサンドルはサリーナとともに二人に向き直る。
「キル国王、アリーシャ様」
「アレクサンドル王子……」
「サリーナとの結婚を、認めていただけますか?」
「ああ、認めよう。」
「サリーナをよろしくお願いします」
アレクサンドルは国王と固い握手を交わす。
「お父様、お母様、どうかお幸せに。」
サリーナの目にうっすら涙が溜まる。アレクサンドルはサリーナの肩を抱き、優しく微笑んだ。
「サリーナ、大丈夫だ。父上と母上にはいつでも会えるからな。キル王国は隣国。俺の飛竜に乗ればひとっ飛びだ。毎日だって連れて行ってやるぞ」
「本当に?アル様……」
「お二人も、サリーナに逢いたくなったらいつでもいらしてください。通信用の魔道具と飛竜、馬車も用意させますから」
「……感謝するっ!」
ゲインも二人の前に進み出す。
「ダルメールに不当に搾取された財産はすでに各国に返却する手続きをとっています。キル王国も同様です。詳細は後日お知らせしますが、取り急ぎこちらをお返しします」
そう言ってゲインが差し出したのは美しいアクアマリンで作られたティアラだった。
「ジェームス!これ、国宝の『アクアマリンの雫』じゃない!」
「ああ、サリーナに逢いたければよこせと言われて……」
「馬鹿っ!こんなに大切なものをあんな男に差し出すなんてっ!」
「君達より大切なものなんてないんだ」
そう言ってジェームスは、受け取ったティアラをそっとアリーシャにかぶせた。
「ああ、やはり、これは君に相応しいな」
アリーシャの目に涙が浮かぶ。
「こんな、髪も短くて男みたいなのに?」
「君は、いつもとびきり可愛いよ。髪はそのうち伸びるし、短い髪も似合ってる」
アリーシャはジェームスの胸にすがりついて泣いた。幸せそうな二人の姿にサリーナも安心して微笑む。
「そして、こちらはサリーナ様に」
「私に?」
ゲインが差し出したのは、ピンクダイヤをあしらった美しいネックレスだった。
アレクサンドルが手にと取り、サリーナの首にかける。
「代々、ラクタス王家に伝わる王妃の証だ。母の、形見でもある。受け取ってくれるか?」
「お母様の……はい、この証に相応しい立派な王妃になれるようにがんばります」
「サリーナ……」
アレクサンドルはようやく訪れた幸せをかみしめていた。
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