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50 誘惑しちゃうぞ!

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 ◇◇◇

「ソフィアは、私が怖くない?私が君を利用するとは思わない?」

 ジークの言葉に一瞬目を見張る。何を言っているのやら。私がジークを怖がることなんてありえないのに。

「私がジークを怖がるわけないでしょ!むしろ私に利用価値があるならいくらでも協力するわよ」

 ぷうっと頬を膨らませた私にジークはくすりと微笑む。

「王族の歴史はいつの時代も美しいものばかりじゃない。王族同士でも醜い争いが絶えないし、王族だというだけで命の危険にさらされることもある。それでも……そばにいて欲しいと願っている。ソフィアは、ガイル殿や母君のおかげでせっかく王族や貴族の枠から抜けて自由にできる地位を手に入れたのに。こうしてまたその地位に縛り付けようとしている」

 ジークはそのことですごく苦しんできたしね。自分が逃げたかった場所に私を連れて行くことに戸惑いがあるのかもしれない。

「あのね、私が貴族とか王族に興味がなかったのって、多分ジークのせいだと思うの。私にとって理想の王子様はジークだったから。お城になんて行かなくても王子様がそばにいたんだもの」

「そういえば、ソフィアは王子様が好きだったね」

「ジークは私だけの王子様でしょう?だからね、ジークのそばにいるために身分が必要なら私はいくらでも身分を手に入れるし、そのために何を差し出しても平気よ」

「ソフィア……」

 恐る恐る伸ばした手が、強く体を抱きしめる。

「ソフィア、私にとっても君はただひとつの大切な宝物なんだ。汚れた世界の中で、君だけが輝いて見えた。もう、君なしでは生きていけない。君と、君を取り巻く優しい世界を、私は護りたい」

「ありがとう。私もジークを護ってあげるね」

「ソフィア、愛してる」

「ジーク、愛してるわ」

 もう、離れない。にっこり笑って私からキスをした。突然のキスに慌てるジーク。

「ふふ、これでようやく好きなだけジークにキスできるわね!もう逃がさないわよっ!覚悟してね?」

「え、待って、こういうときは普通男からするもので……」

「ええ~、いいじゃない。どっちからしたって。だって今したかったんだもん」

「はあ、本当にあなたって人は……」

「駄目かな?」

「いや、そんなところも愛してるよ。でも、ここまで誘惑しておいて、キスだけで済むなんて思わないでね?」

「あら、望むところだわ?」

 そのあとは、もうどちらが何度キスをしたのかなんて覚えてないくらいたくさんのキスをした。

 多分何年たっても私はこの場所で交わしたキスを忘れないだろう。それはとても幸せな時間だった。

 この先何があっても二人ならきっと乗り越えていける。

 そう信じきれる程度には。

 こうして私は愛する専属執事兼とびきり最高の王子様を無事誘惑することに成功したのでした。


 Fin

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