14 / 34
14 聖女の奇跡
◇◇◇
「お母さま……テレサです。わたし、帰ってきました。やっと、お母さまのところに、帰ってきたんです……」
テレサはイザベルの手を握ると、もう一度静かに呼びかけた。イザベルの手は力無く冷ややかで、まるで生命力が感じられない。テレサの呼びかけにも、答えることは無かった。
イザベルは、ここ最近、浅い眠りと短時間の覚醒を繰り返していた。少しずつ少しずつ、失われていく生命力。目が覚めるたび、死が間近に迫っていることを感じ、静かに受け止めていた。
けれど、可哀想なレオン。可哀想なテレサ。優しいあの子たちは、私がいなくなったらどんなに悲しむだろうか。子どもたちのことを思うと、夫に続いて、こんなにも早く逝ってしまうことを、情けなく思うのだ。だから、せめて、せめてテレサにもう一度会うまでは。その想いだけが、イザベルの消えゆく命を繋ぎ止めていた。
(お母さま。こんなに弱ってしまって。今にも、儚くなってしまいそう。ああ、女神様……どうか、どうか……お母さまを助けて下さい……)
テレサはイザベルの手を握り、女神に祈った。テレサにとって、誰よりも大切な、かけがえのない家族。誰よりも優しいお母さまが、これ以上苦しむなんて、耐えられない。涙がぽたりとイザベルの手に落ちる。
──その瞬間、イザベルは眩い光に包まれた。
──起きなさい。愛しい子。ほら、あなたの愛し子が帰ってきたわ
(遠くから、私を呼ぶ声がする……)
ぴくりとイザベルの瞼が動く。ゆっくりと、ゆっくりと、開いた瞳の先に、愛しい娘の姿が見える。
「──テレサ……あなたなの?本当に……?」
イザベルは、女神のように輝くオーラを纏った成長した娘の姿に、思わず目を細める。
「お母さま!!!」
ワッとそのまま大声で泣き出すテレサ。わんわんと子どものように声を上げて泣くテレサを見て、やはり、このまま愛する子どもたちをおいては逝けない。あらためて生きなきゃと思うイザベルだった。
◇◇◇
それから数日の間。テレサはイザベルから片時も離れずに看病を続けた。弱っていた内臓に溜め込まれた毒素や病の素は消えても、長年の闘病生活で痩せ細ってしまった体を、急激に回復することは出来ない。けれども、少しずつ少しずつ食事の量が増え、ベッドから起き上がれるようになった。
「母さま……起き上がれるようになったんだね!良かった……本当に、良かった……」
ベッドの上で微笑むイザベルの姿を見て、レオンもはらはらと涙を流した。心の何処かで、もう二度とこんな姿は見られないのでは無いかと、諦めていたから。
「ごめんなさい。心配ばかりかけて。悪い母さまね」
「いいんです。母さまが、元気でいてくれたら。それだけで、いいんです……」
イザベルはレオンをぎゅっと抱きしめた。
「女神様にね、呼ばれた気がしたのよ。子どもたちの元に帰りなさいって。ふふ。本当に、二人とも泣き虫ね」
レオンは、二人の様子をそっと見守っていたテレサに、泣きながら頭を下げた。
「姉さま、ありがとう。姉さまが帰ってきてくれて本当に良かった……冷たくして、ごめん……本当は、ずっと会いたかった……」
「レオン……私こそ。今まで、一人で背負わせてごめんね。これからは、私も頑張るから……」
レオンはテレサをぎゅっと抱きしめる。幼い頃のように。
(聖女にならなくて本当に良かったわ。私には、母さまとレオン。家族がいれば十分幸せだもの)
誰よりも女神に愛されている聖女は、ようやくわだかまりの解けた家族の愛に包まれて、幸せそうに微笑んだ。
「お母さま……テレサです。わたし、帰ってきました。やっと、お母さまのところに、帰ってきたんです……」
テレサはイザベルの手を握ると、もう一度静かに呼びかけた。イザベルの手は力無く冷ややかで、まるで生命力が感じられない。テレサの呼びかけにも、答えることは無かった。
イザベルは、ここ最近、浅い眠りと短時間の覚醒を繰り返していた。少しずつ少しずつ、失われていく生命力。目が覚めるたび、死が間近に迫っていることを感じ、静かに受け止めていた。
けれど、可哀想なレオン。可哀想なテレサ。優しいあの子たちは、私がいなくなったらどんなに悲しむだろうか。子どもたちのことを思うと、夫に続いて、こんなにも早く逝ってしまうことを、情けなく思うのだ。だから、せめて、せめてテレサにもう一度会うまでは。その想いだけが、イザベルの消えゆく命を繋ぎ止めていた。
(お母さま。こんなに弱ってしまって。今にも、儚くなってしまいそう。ああ、女神様……どうか、どうか……お母さまを助けて下さい……)
テレサはイザベルの手を握り、女神に祈った。テレサにとって、誰よりも大切な、かけがえのない家族。誰よりも優しいお母さまが、これ以上苦しむなんて、耐えられない。涙がぽたりとイザベルの手に落ちる。
──その瞬間、イザベルは眩い光に包まれた。
──起きなさい。愛しい子。ほら、あなたの愛し子が帰ってきたわ
(遠くから、私を呼ぶ声がする……)
ぴくりとイザベルの瞼が動く。ゆっくりと、ゆっくりと、開いた瞳の先に、愛しい娘の姿が見える。
「──テレサ……あなたなの?本当に……?」
イザベルは、女神のように輝くオーラを纏った成長した娘の姿に、思わず目を細める。
「お母さま!!!」
ワッとそのまま大声で泣き出すテレサ。わんわんと子どものように声を上げて泣くテレサを見て、やはり、このまま愛する子どもたちをおいては逝けない。あらためて生きなきゃと思うイザベルだった。
◇◇◇
それから数日の間。テレサはイザベルから片時も離れずに看病を続けた。弱っていた内臓に溜め込まれた毒素や病の素は消えても、長年の闘病生活で痩せ細ってしまった体を、急激に回復することは出来ない。けれども、少しずつ少しずつ食事の量が増え、ベッドから起き上がれるようになった。
「母さま……起き上がれるようになったんだね!良かった……本当に、良かった……」
ベッドの上で微笑むイザベルの姿を見て、レオンもはらはらと涙を流した。心の何処かで、もう二度とこんな姿は見られないのでは無いかと、諦めていたから。
「ごめんなさい。心配ばかりかけて。悪い母さまね」
「いいんです。母さまが、元気でいてくれたら。それだけで、いいんです……」
イザベルはレオンをぎゅっと抱きしめた。
「女神様にね、呼ばれた気がしたのよ。子どもたちの元に帰りなさいって。ふふ。本当に、二人とも泣き虫ね」
レオンは、二人の様子をそっと見守っていたテレサに、泣きながら頭を下げた。
「姉さま、ありがとう。姉さまが帰ってきてくれて本当に良かった……冷たくして、ごめん……本当は、ずっと会いたかった……」
「レオン……私こそ。今まで、一人で背負わせてごめんね。これからは、私も頑張るから……」
レオンはテレサをぎゅっと抱きしめる。幼い頃のように。
(聖女にならなくて本当に良かったわ。私には、母さまとレオン。家族がいれば十分幸せだもの)
誰よりも女神に愛されている聖女は、ようやくわだかまりの解けた家族の愛に包まれて、幸せそうに微笑んだ。
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!
えとう蜜夏
恋愛
ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。
ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。
その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。
十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。
そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。
「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」
テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。
21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。
※「小説家になろう」さまにも掲載しております。
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜
三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。
「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」
ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。
「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」
メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。
そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。
「頑張りますね、魔王さま!」
「……」(かわいい……)
一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。
「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」
国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……?
即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。
※小説家になろうさんにも掲載
私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!
近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。
「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」
声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。
※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です!
※「カクヨム」にも掲載しています。
聖女になりたいのでしたら、どうぞどうぞ
しゃーりん
恋愛
聖女が代替わりするとき、魔力の多い年頃の令嬢十人の中から一人選ばれる。
選ばれる基準は定かではなく、伝聞もない。
ひと月の間、毎日のように聖堂に通い、祈りを捧げたり、奉仕活動をしたり。
十人の中の一人に選ばれたラヴェンナは聖女になりたくなかった。
不真面目に見えるラヴェンナに腹を立てる聖女候補がいたり、聖女にならなければ婚約解消だと言われる聖女候補がいたり。
「聖女になりたいならどうぞ?」と言いたいけれど聖女を決めるのは聖女様。
そしていよいよ次期聖女が決まったが、ラヴェンナは自分ではなくてホッとする。
ラヴェンナは聖堂を去る前に、聖女様からこの国に聖女が誕生した秘話を聞かされるというお話です。
現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。