まだ見ぬ世界に彩りを~今度こそ君を守れるように~(改変版)

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第1章 後悔と絶望と覚悟と

第2話「人って意外と飛ぶのね……」

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 周囲から「きゃあああ!!」という悲鳴が耳を打つ。

 しかし、それを言いたいのは私である。

 実際、我慢出来ずに「いやあああああ!!」と叫んでる。

 だって、言いたくもなる。

 なにせ、猛スピードで走り出した馬のたてがみに引っ付いているのだから。



――――五分前

(あっ! あれは……)

 私の視線にいたのは黒い鬣と筋肉質の体格を持つ一頭の黒馬だった。

 黒馬のいる後ろには商店があり、考えるに品を納品しに来た商人の馬なのだろう。

 どちらにしろ、その馬を見た瞬間、ビビッ! と脳にある案が浮かんだ。

 善は急げと黒馬に向かって脚を前に出す。

 ちなみにその案とは私が黒馬に乗り、まるで物語の王子様の様に少女を助けるといった案である。

 身長的に無理があると思うが、ラウは全然気づかない。

 馬側としても、なんかいきなり少女がこっちを見たと思ったら獲物を見つけた目で走ってくるもんだから恐怖でしかない。

 そして、馬の元にたどり着いたラウは早速隣にあった台に乗って馬に跨がり、少女の元へ向かおうとするが、ラウはまたしても重要な事を忘れていた。

 ラウは、グランと一緒に馬に乗ったことはあるが一人は初めてだし、そもそも馬の腹まで足が届かないのである。

 しかし、そんなことを言ってる場合じゃ無い。

 考えていたら少女がどうなるか分からない。

 ラウは覚悟を決めて「ええい!! ままよ!!」と無意識に強化魔法で足を強化し、思いっきり馬の横腹を蹴った。

 蹴ってしまった。

 まぁ、そんな事をしたら馬とて、たまったもんじゃなく。

 動かなかったらまた蹴られる恐怖と脇腹に走った痛みを抱えながら前も見ずに全力で走り出した。

 少女と言い争っている冒険者達の元へ。



 大通りの冒険者ギルド前の石畳みの道で「あらら、可哀想に」と見下した感じで侍女に荷物を持たせ見ていたある貴族の貴婦人は、ふとなにか黒い物と白色が見えた気がして争っている隣を横目で見た。

 見てしまった。

 黒い体格の良い馬が目線伏せながら全力でこっちに走ってきてるのを。

 そして何故か「いやあああああ!!!」という可愛らしい悲鳴を上げながら馬の鬣に引っ付いてる少女を。

 もう、冷や汗が止まらない。

 貴族向けの高級服屋で服を仕立て貰っただけでこんな騒動に巻き込まれるのだから、言いたくもなる。

 貴族婦人が目をつむり、悲鳴を上げそうになった次の瞬間――――冒険者が少女に拳を振り上げられ、それを見ていた住人達が「きゃあああ!!」と声を上げる。

 と、同時に貴婦人も「きゃあああ!!」と声を上げた。

 馬のたてがみに引っ付いてるラウも「いやあああああ!!!」と声を上げる。

 こうして、悲鳴の大合唱が行われたのである。

 馬とは言え、体重は優に二百キロを超える。重いものだと五百はいくとか。

 そんな馬が少しもスピードを落とさずチャラ男に衝突。

 男は何がなんだか分からず突然の強烈な衝撃を横から喰らい、近くにいた冒険者の男達をも巻き込みんで吹っ飛んだ。

 そして、宿の隣にあった生ゴミ廃棄所に突っ込み沈黙。

 男達が衝突したことで生ゴミが散乱し、生ゴミ特有の肉や魚等の生臭いが周囲に漂う。

 宿には衛生面が特に重要視される。

 それは冒険者都市と呼ばれるキミウでも同じ事。

 いや、キミウは他の国、都市から来る商人や観光客、冒険者が集まる一大都市なので衛生面、接客、清潔感等細心の注意を払わないと直ぐさまその評価が店の評価となってしまう。

 だからこそ、宿はそこに注意するのだが見事にぶち壊した形となった。

 状況に頭が追いつかないのか、悲鳴を上げていた周囲の住人達は悲鳴も引っ込んで男達が飛んで行った方向を見ながら呆然としている。

 それに反し、馬のスピードは徐々に無くなり、馬とラウは落ち着きを取り戻した。

 馬はなにがなんだか分からず周りをキョロキョロと見渡し、ラウはこんなはずじゃなかったと嘆く。

 予定ではここで颯爽と駆けつけ、少女を悪しき冒険者から助けるみたいな想像をしていたのだが――――現実は……鬣に引っ付く私、生ゴミに突っ込んだ男冒険者三人組、呆然とする通行人、そして助ける筈だった少女のジト目。

 どこで間違えた……?

「人って意外と飛ぶのね……」

 私が意気消沈しているとそんな声が聞こえてきた。

 声のした方向を見てみると男達と言い争っていた少女が、チャラ男達が飛んでいった方向を何かを考える様に見ている。

 分からないが何かに納得したようで次に、私の方向を見る。

 どこか抜けてるラウは、当初考えていた通りに言おうと思っていた言葉を思い出し、言おうとした。が、

「え~、気を取り直して、お嬢さん大――――」
「あなた、誰?」
「丈……え?」

 せめて最後は格好良く決めようとしたのに世の中なかなかそうはならないようである。

 途中は駄目だったと思っているのだから一歩少しは前進したのかも?

 そんな考えも置去りにして真紅のように紅い髪をなびかせて透き通った紅い瞳に私を映す。

 ぷっくりとした小さな唇にも、華奢な身体の前で両腕を組み、ジト目を向ける少女。

「だから、あなた誰?」

 ここキミウで見たことも無い髪色と、どこか少女らしさを残しながらも大人の女性としての美貌を片鱗だが覗かせる少女に惚けていると、さっきよりも少し語尾を強めた言葉でラウを射貫く。

「ラ、ラウ」

 緊張でヒリつく喉を堪え、声を絞り出した。

「そう、ラウ感謝するわ。けどいつまで馬に乗ってるの?」
「あ、そ、そうだね……ど……よう」
「?」
「どうしよう……降りれない……かな?」

 いつまで経っても降りてこない私に少女が不思議そうな視線を向けてくるのでそんな返答しか出せない。

 悲しい事に私の背は小さいのだ。

 でも、これから伸びるから!

 ……多分。

「はぁ……あなた、うぬぼれじゃなければ私を助ける為だったとしても、そういうのはちゃんと考えて行動しなさいよ……」
「えへへへ」
「別に褒めて無いのだけれど、なんでこの子喜んでのかしら……? さっきので頭おかしくなったのかしら?」

 ラウもラウだが、この少女も少女である。

 しかし、どこまでも強気の少女だ。

 手入れされた高そうな装備に腰に吊り下げた長剣が目につくが、同時に明らかに一般人、冒険者にしても風格が違った。

「ほら、手伝うからさっさと降りちゃいなさい」

 少女が小さな手を私に差し出す。

 まさか、手伝ってくれるとは考えて無かった私は思わず固まる。

「ちょっと、早くしてくれない? 腕が疲れてきたわ」

 やっぱり、どこか気の張った少女みたい。

 でも、そっぽを向いた時に見えた耳には赤く染まっているからどうやって接したら良いのか分からないのかも?

 なんだこの少女は可愛いぞ……。

「えへへっ、ありがと~」

 少女に手伝ってもらい黒馬から降りた瞬間、黒馬は走って元いた場所に戻っていった。

 それに伴い住人達も面倒事はごめんだと散り散りに立ち去って行く。

 そんな住人達の様子を見ていたラウは気づいた様に少女に問いかけた。

「あっ! そういえば、あなたの名前はなんて言うの?」
「クアンよ。さっきも言ったけど少しは自分の身も考えなさい」
「えへへっ、これからは気をつけます……?」
「絶対分かってないでしょ、貴女」

 はぁ~……と小さく溜息をつかれた。

 そして再びのジト目。

 私に向かってズケズケと言うのは家族とミリアちゃん以外いなかったから何処か新鮮だ。

「あぁ、そうそう。ラウさえ良ければ、これからお礼をしたいのだけれどどうかしら?」
「お礼?」
「えぇ。結果的に私もラウを助ける事になったとは言え、助かったのは事実なのだし」

 あれ?

 そういえば……とラウは、都市の中心地に高くそびえ立つ時計塔の時刻を恐る恐る見る。

 時刻は昼過ぎ。

 屋敷を飛び出してから優に三十分過ぎている。

 マズい……、これは非常にマズい……。

「これから……? マズいよ!? ミリアちゃんとの約束時間過ぎてる!」
「ミリアちゃん? まぁいいわ、じゃあ私はたった今暇になったとこだし、ラウに付いていくわ」

 その言葉に男達を吹っ飛ばしたのは馬の所為と、何処か頭の片隅で思いながらクアンにあの三人組について聞いてみる。

「あの人達はいいの?」
「別にもう良いわよ。それに生ゴミに突っ込んだ人達と話したくないし」

 確かにそれもそうだ。

 私だって喋りたくないし、近づきたくない。

「それもそうだね。私も嫌だもん」
「じゃあ、そのミリアちゃんって子の所に向かいましょうか」
「ミリアちゃん、怒ってるかな……」

 主役は遅れてやって来ると言うが、これには当てはまるかな?とかそんな考えが頭をぎる。

「その時は私が説明するわよ。元を正せば私があんな所で言い争いを始めた所為なのだし」
「本当!? ありがとう! じゃあ、行こ。クアンちゃん!」
「私の事はクアンで呼び捨てでいいわ。その代わりあなたの事もラウって呼ばせて貰うわよ?」
「えへへ、じゃあよろしく! クアン!」

 なんだかんだと心配な所がある二人だが、二人並んでミリアの待つ場所まで歩き出した。



「くっそ! あのチビ供めッ!! あとで絶対痛い目に遭わせてやる!!」

 薄暗い通路で先ほど馬に突撃を喰らっていたチャラ男――――サマギマと二人の冒険者は目を血走らせ憤っていた。

「えぇ。私達にこのような侮辱を行ったあの娘達には地獄をみせてあげますっ!」
「ああ!! あんのチビ共に地獄を見せないと気が済まないぜ! なあ!?」
「ん? 待て、あれは……」
「どうしたんですか?」
「あぁ?」

 男達の視線の先にはラウとクアンと一緒にいるもう一人の少女がいた。

 それを見た瞬間、サマギマの頭の中にある計画を思いつく。

「ふっ……ふははははっ!!」
「「?」」

 ふと思いついた計画に顔が愉悦に歪む。

 その目には憎悪でドス黒く濁った色が宿っていた。
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