死にたがりのルシファー

影津

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 死にたがりのルシファーは、まだ今日も生きている。悪魔でありながら死にたいとは一体どういうことなのやら自分でも不思議に思う。ときどき漆黒の翼で空を舞っていると、いっそ人間界の自衛隊とやらが私を未確認飛行物体と勘違いして撃墜すればいい。なんて考えてみる。

 寿命もなく、人と契約し命を奪うことには抵抗がないはずなのに己の命にはひどく無頓着で愛着が持てずにいる。

 今日は山を渡る鉄塔、送電線に体当たりしてみようと思う。あの電流があれば幾億を生きた私の身体でさえ無残に焼け散るだろう。

 いざ、空を突き抜けて成層圏を飛び出る。宇宙からあの鉄塔へ体当たりすれば私の身体もおそらく木っ端微塵になるだろう。成層圏突入とともに私の身体を熱と炎が覆っていく。日本が見え、やがてあの目標とする鉄塔が眼下に迫ってくる。

 鉄塔に体当たりしてみると鉄塔は愚か、山肌まで切り裂いて私の身体が勝ってしまった。山にはクレーターのような穴が空き、土砂崩れまで起こしてしまう。

 幸い近隣住民の人々に怪我はなかったが私の頭上を駆けつけたヘリコプターが往来していく。私は地獄耳なのでヘリコプターの中のレポーターの声がはっきりと聞こえた。
「隕石です! 隕石が落下しました」
 私は苦笑いして姿をくらませた。
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