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1話完結
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3月2日。今日は少し暖かかった。北海道では雪なんだって。僕のおうちにも雪が降らないかな? ママがお昼にお出かけするから、僕はパパとお留守番。ママは近所のスーパーに買い物に行くときみたいにお化粧をたっぷりつけて「行ってきます!」と家を出た。
僕はママがそんなに元気だから、きっと帰りに何か買ってきてるれると思った。僕の大好きな色が変わるお菓子がいいな!
するとパパは言った。
「遊びに行くんじゃないんだよ」
でも、ママがあんなにお化粧をして出かけるんだからパパの言うことは嘘だと思った。パパだってこの後、いつもの日曜日みたいにパチンコに行くんだから。
3月3日。今日はちょっと寒い。今年は『おんだんか』で雪は降らないんだってパパが言ってた。
昨日、ママはそのまま帰ってこなかった。『だいがく病院』っていうところに泊まったらしい。大学芋の大学? 僕にはよく分からないけど大きな病院らしい。そこではたくさんのお医者さんがいるんだって。嫌だよそんなところ。たくさんのお医者さんがママに『しゅじゅつ』するんでしょ? そんなの、一人のお医者さんがいるだけでも怖いのに。よってたかってママにメスっていう怖くて危ない刃物を向けるんでしょ? ママのお腹にメスを入れるんでしょ? そんなばかなことして、人間生きていけるわけないじゃん!
3月4日。今日は春の陽気っていうらしい。天気予報のお姉さんが言ってた。
ママの『しゅじゅつ』は8時間かかったんだって。僕が幼稚園に行って、お昼ごはんを食べて、それからねえ、午後のお絵描きの時間でしょ? それから先生のお話を聞いてやっと家に帰ったときにちょうど終わったんだって。
パパが言うには悪い虫は全部取れなかったんだって。ママの身体の中の悪い虫ってなあにって聞いても教えてくれない。お腹じゃなくて、もう少し上で。でも、胸じゃない。ほんとに虫なのかな。ときどきママは食べ物を吐いていた。黄色かったり白かったりする。でも、そこに虫なんか出て来なかったのに。それにパパは嘘つきだから。遠い目をして、僕のことなんてみちゃいないから。今日もお休みだからパチンコに行くみたい。
3月19日。水曜日。パパが仕事に行く日。桜の開花宣言を『きしょうちょう』ってところが言ってた。でも、今日は寒いんだ。ママはまだ帰ってこない。僕は幼稚園で先生に聞いてみる。
「ママ、桜が咲くころには帰ってくるかな?」
「そうね。たーくんのお父さんはなんて?」
「パパは本当のことはなにも教えてくれないよ」
「じゃあ、ママに電話かけてもいい? ってパパに聞いてみたら」
先生がそう言ってくれたことを帰ってパパに言った。パパはへとへとでビールを煽っていた。今日は一日頑張ったんだって。僕も幼稚園にがんばって行ってるのに。
3月20日。近所の公園に桜はまだ咲いてない。今日も寒い。
パパが休みでずっと寝てるから、ママに電話をかけられたのは夕方。ママの声は小声。病院だからかなあ。でも、元気がない気がする。
「ママ。早く帰って来て。いっしょに桜が見たい」って言うとママがね、「桜が咲くまで帰れない」って言うんだ。ママも嘘つきなの? 桜の開花宣言があったばかりなのに。
3月25日。やっと近所の公園に桜が咲いた。今日は暖かい。これでママも帰ってくる。そうパパに言うと。「ステージ4じゃ無理だ」とぶつくさ言ってパチンコに出かけた。ステージってゲームのこと? パパは最近機嫌が悪い。ママの病気のこと、怒っているみたいだ。
4月1日。近所の公園の桜が満開になった。今日も暖かい。ママはまだ帰って来ないけれど電話で聞いたんだ。「二回目の手術をする」って。パパはパチンコに行かなくなった。というより行けなくなった。お金がないって嘆いていた。パパの方からママに電話したいと言い出して、今日は何度も二人で話し合っていた。
4月3日。近所の公園の桜が葉桜になった。今日も暖かい。毎日桜が散っている。パパは昨日の仕事の疲れで今日一日眠っている。ママにこっそり電話をすると、ぐったりした声が帰ってきた。「昨日手術だった」それだけ言うと疲れた様子で電話が切れた。パパは昨日仕事だった。だからって何も教えてくれないのは酷いと思った。
4月4日。毎日桜が舞っている。今日は少し暑い。ママはまだまだ帰れない。
電話をすると「悪いところは全部取ったから」だって。怖いなあ。お医者さんは内臓を全部とっちゃうんだ。そんなことされて健康でいられるわけがないじゃないか。パパはパチンコに行かないけれど、ビールを煽ってふて寝している。
4月5日。パパと病院に行った! 桜は全部葉っぱになった。ママが帰れないなら僕らが会いに行けばいい。パパは青白い顔でママより元気がなかった。ママはちゃんとお化粧をして僕らを迎えてくれた。桜は散ってしまったから、じゃあゴールデンウィークには帰って来られるのかな? ねえ、それもだめ? じゃあ梅雨に入ったら? それもだめ? パパは言った「お医者さんが言うには半年後まで持てばいい方だって」って。ママは言った「半年? 意外と長い。じゃあ、頑張って来年の桜まで頑張るわ」
4月6日。パパと病院に行った。ママを迎えに行った。ママは病気が治らない。でも。退院した。来年の桜が咲くまで僕らと一緒に過ごすって。
僕はママがそんなに元気だから、きっと帰りに何か買ってきてるれると思った。僕の大好きな色が変わるお菓子がいいな!
するとパパは言った。
「遊びに行くんじゃないんだよ」
でも、ママがあんなにお化粧をして出かけるんだからパパの言うことは嘘だと思った。パパだってこの後、いつもの日曜日みたいにパチンコに行くんだから。
3月3日。今日はちょっと寒い。今年は『おんだんか』で雪は降らないんだってパパが言ってた。
昨日、ママはそのまま帰ってこなかった。『だいがく病院』っていうところに泊まったらしい。大学芋の大学? 僕にはよく分からないけど大きな病院らしい。そこではたくさんのお医者さんがいるんだって。嫌だよそんなところ。たくさんのお医者さんがママに『しゅじゅつ』するんでしょ? そんなの、一人のお医者さんがいるだけでも怖いのに。よってたかってママにメスっていう怖くて危ない刃物を向けるんでしょ? ママのお腹にメスを入れるんでしょ? そんなばかなことして、人間生きていけるわけないじゃん!
3月4日。今日は春の陽気っていうらしい。天気予報のお姉さんが言ってた。
ママの『しゅじゅつ』は8時間かかったんだって。僕が幼稚園に行って、お昼ごはんを食べて、それからねえ、午後のお絵描きの時間でしょ? それから先生のお話を聞いてやっと家に帰ったときにちょうど終わったんだって。
パパが言うには悪い虫は全部取れなかったんだって。ママの身体の中の悪い虫ってなあにって聞いても教えてくれない。お腹じゃなくて、もう少し上で。でも、胸じゃない。ほんとに虫なのかな。ときどきママは食べ物を吐いていた。黄色かったり白かったりする。でも、そこに虫なんか出て来なかったのに。それにパパは嘘つきだから。遠い目をして、僕のことなんてみちゃいないから。今日もお休みだからパチンコに行くみたい。
3月19日。水曜日。パパが仕事に行く日。桜の開花宣言を『きしょうちょう』ってところが言ってた。でも、今日は寒いんだ。ママはまだ帰ってこない。僕は幼稚園で先生に聞いてみる。
「ママ、桜が咲くころには帰ってくるかな?」
「そうね。たーくんのお父さんはなんて?」
「パパは本当のことはなにも教えてくれないよ」
「じゃあ、ママに電話かけてもいい? ってパパに聞いてみたら」
先生がそう言ってくれたことを帰ってパパに言った。パパはへとへとでビールを煽っていた。今日は一日頑張ったんだって。僕も幼稚園にがんばって行ってるのに。
3月20日。近所の公園に桜はまだ咲いてない。今日も寒い。
パパが休みでずっと寝てるから、ママに電話をかけられたのは夕方。ママの声は小声。病院だからかなあ。でも、元気がない気がする。
「ママ。早く帰って来て。いっしょに桜が見たい」って言うとママがね、「桜が咲くまで帰れない」って言うんだ。ママも嘘つきなの? 桜の開花宣言があったばかりなのに。
3月25日。やっと近所の公園に桜が咲いた。今日は暖かい。これでママも帰ってくる。そうパパに言うと。「ステージ4じゃ無理だ」とぶつくさ言ってパチンコに出かけた。ステージってゲームのこと? パパは最近機嫌が悪い。ママの病気のこと、怒っているみたいだ。
4月1日。近所の公園の桜が満開になった。今日も暖かい。ママはまだ帰って来ないけれど電話で聞いたんだ。「二回目の手術をする」って。パパはパチンコに行かなくなった。というより行けなくなった。お金がないって嘆いていた。パパの方からママに電話したいと言い出して、今日は何度も二人で話し合っていた。
4月3日。近所の公園の桜が葉桜になった。今日も暖かい。毎日桜が散っている。パパは昨日の仕事の疲れで今日一日眠っている。ママにこっそり電話をすると、ぐったりした声が帰ってきた。「昨日手術だった」それだけ言うと疲れた様子で電話が切れた。パパは昨日仕事だった。だからって何も教えてくれないのは酷いと思った。
4月4日。毎日桜が舞っている。今日は少し暑い。ママはまだまだ帰れない。
電話をすると「悪いところは全部取ったから」だって。怖いなあ。お医者さんは内臓を全部とっちゃうんだ。そんなことされて健康でいられるわけがないじゃないか。パパはパチンコに行かないけれど、ビールを煽ってふて寝している。
4月5日。パパと病院に行った! 桜は全部葉っぱになった。ママが帰れないなら僕らが会いに行けばいい。パパは青白い顔でママより元気がなかった。ママはちゃんとお化粧をして僕らを迎えてくれた。桜は散ってしまったから、じゃあゴールデンウィークには帰って来られるのかな? ねえ、それもだめ? じゃあ梅雨に入ったら? それもだめ? パパは言った「お医者さんが言うには半年後まで持てばいい方だって」って。ママは言った「半年? 意外と長い。じゃあ、頑張って来年の桜まで頑張るわ」
4月6日。パパと病院に行った。ママを迎えに行った。ママは病気が治らない。でも。退院した。来年の桜が咲くまで僕らと一緒に過ごすって。
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この先を色々想像したり、間ではお父さんの心境とお母さんの心境を想像したり……。
全てを語らず、読者に想像を任せるような短編が心地よいです( ´∀`)
ありがとうございます。
実験的に子供目線で書いたのでお父さんとお母さんの内面を書けなかったのですが、想像してもらえて良かったです。