ハニー・ゲーム

影津

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ラフ・ゲーム

ラフ・ゲーム3

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「顔のパーツって?」

 一番怖がっているくせに、キリンAは何故聞くのか。サードはキリンAがますます嫌いになってきたので、はっきり言ってやる。

「あさピクの顔のパーツよ。あなたは彼女が死んだとき、前の方にいたから死ぬところは見てないでしょ? タイタンフレッドを手伝ってあげたら?」

「怖くて見れるわけないじゃん。や、やだよ」

「誰が俺がやると言った?」

 タイタンフレッドが目を血走らせて怒鳴ったので、サードはしまったと思って身体を縮こまらせた。こいつはほんまKAINAを犠牲者にすることも厭わなかった。ほんまKAINAはこのゲームを手伝う気はあるのだろうか。ほんまKAINAの動き次第で、二人がグルなのかどうかハッキリする。

「制限時間は誰かがゴーグルをつけてからカウントされるんだよね。実質、強制ではないんだ」

 そう言ってテカプリとつき添った氷河が三つのゴーグルを見つけてきた。ロッカー四百個の点検を五分かからずに終えたようだった。

 ほかに、たらこみたいな肉片二つ。どこの部位か分からない手のひらサイズの肉片がもう一つ。両耳、鼻(骨が下から覗いている)、穴の開いた薄い皮膚、両目、黒いジッパーつきの袋に入れられて中が見えないものが見つかった。それはすべて触らずにロッカーは開け放してある。

「開けるの速かったのね」

「ほんまKAINAが意図せずやったみたいに、両手で二個ずつ開けて行くと速いよ」

「もしかしてそれ、VRゴーグル?」

 キリンAが少し興奮気味に言う。

 言われてみると確かにゴーグルはVRゴーグルのように目の位置の形状が前方に突き出している。

「重そう」サードは重いものを顔に乗せて遊ぶなんて馬鹿げていると思う。

「確か五百グラムぐらいの重さだったはず。軽かったら三百グラム」

 キリンAはゴーグルに触れようとはしなかったものの、明らかに興味を示していた。

「あなたやる?」

「い、いや」

「じゃぁ、ジロジロ見ないで」

「ほら、それ高いし」

「ゲームがしたいんなら、このゲームから脱出してからやりなさいよ!」

「まぁまぁ落ち着いて」

 テカプリに止められると、サードは余計に腹が立つ。本気で仲裁する気もないのに、口だけは達者だ。

「それに強制されてなくても、実際私たちここから出ないと意味ないんだからね。誘拐、監禁、脅迫よ! こうやってうだうだしている間にハチミツ頭が電気ショックで催促してくるでしょ? お笑い番組だってあんな強い電流流さないわよ!」

 ヒステリックに金切り声を上げてテカプリに当たると気持ちよかった。

「僕はお笑い芸人じゃないから、どれぐらいの電流かは知らないし」

「それでも映画監督なわけ?」

「僕はコメディは撮らないからね。みんなの苦悩を撮影するんだ」

「苦悩ね? じゃあ私たちがこのふざけたゲームにつき合わされて、苦しんでる姿でも撮影すれば?」

「このゲームは僕らを苦しませたりすることを目的に、開催してるんじゃないと思うんだけどな」

「どういうことですか?」

 氷河の問いに思案顔でテカプリは応じる。

「あさピクの遺体がここにあるのが不自然なんだよ。彼女の遺体はあのカメラだらけの迷路に置いてきた。それを回収して僕らがたどり着く先に配置し直していることから考えて、ゲームの外側に誰かがいて、ゲームを動かしている人物がいると分かる」

 そんなの普通そうでしょと、サードは内心悪態をつき、それから髪を手櫛で整える。濡れたままの髪が額に張りついて鬱陶しい。

 咳払いしてテカプリは続ける。

「キラー・ハニー本人がそうしたのか、はたまた彼の協力者がやったのか。あの蜂の女の子たちだって映像として映っている以上CGじゃない限り存在する。ゲームを開催するのに必要なものは、計画と資金と運営能力だ。犯人は間違いなく組織ぐるみで僕らを監禁している。このゲームは、キラー・ハニーというマスコット的ゲームマスターを司会に置いた動画実況と同じだよ」

 テカプリは心なしか少し取り乱しているように見えた。息を継いで再び早口にまくし立てる。

「キラー・ハニー自身に目的なんかなく、彼は駒に過ぎない。僕らを苦しませる理由はもっと希薄になるよ。これは、人間のサバイバル本能を露にさせるための実験かもしれない」

 それに氷河も頷き、夕日が沈むときのような寂しげな暗い顔をする。

 突然全身を突き上げるような電流が来た。サードの意識は遠のき、危うく即倒するところだった。前に倒れたときに意識をなんとか取り戻して手をついた。すのこ状のロールマットの上だったおかげで、酷く手を痛めることはなかったが、それでもマットの滑り止めの凹凸の跡が手についた。

「っつ! ……誰でもいいからゲームをはじめろ! ただの福笑いじゃねぇか!」

 電流が収まると開口一番タイタンフレッドが怒声を上げる。

「ただの福笑いなら、何で自分がやらないのよ! 名指しされて怖いわけ?」

 つい口が滑るサード。元々口出しせずにはいられないのが祟った。

「三人でやれば早くすむやんか。みかんのここ♡はんと、サードはんと、うちら三人でやろうや」

「何であたし!」みかんのここ♡も黙ってはいなかった。男の野太い声だった。

「お互いさまやんか。さっきのゲーム覚えてへんのか? サメで死んだん誰やった? みかんのここ♡のゲームで死んだんわ焼肉公爵や。ゲーム主催者が殺そうとしてる人間はタイタンフレッドやろ? 違う人間が参加したらお互いを守れるやん」

「それで死んだら? 焼肉公爵はさっきのゲームと何の関係もなかったんだよ!」

 ここで再びキリンAが涙腺を緩める。サードは余計なことをこれ以上言うなという意味でほんまKAINAを睨みつける。

「んなことないで。うちら、全員が何か関わってんや」

「あなた知ってるんだったら教えなさいよ!」

「分からんのかいな。キラー・ハニーはんは、このゲームで自分らで気づいてーやって思うてんねんで? うちがあんさんらに答え教えたら、どんな酷い目に遭うか分からんやんか」

「どうしてそう思うんです?」

 氷河がほんまKAINAに詰め寄ったが、ほんまKAINAは数歩下がって氷河の言葉の追撃から逃れるようにした。

「どないな目に遭うんか知らんけど、本名出したらあかんゲームなんやで。他人の本名も出してええんかどうか。けったいなことに、こっちから向こうへの質問は一切受けつけてへんやんか。このゲームどうすりゃええねん? って聞いたらヒントくれる質問タイムみたいなんあらへんか? こうやってうだうだやってる間に、電気ショックするんわ反則や思わへんのか?」

「確かに電気ショックがこうも継続的に行われるのは、ルールで言われてないね。でも、やってみないと分からないと思う。僕ら全員に共通することをここで整理するんだ」

「言えるわけないやろ! あんなことあったのに!」

 ほんまKAINAが取り乱した。

「それを言わせるためのゲームかも」

 ほんまKAINAは鼻腔を膨らませる。サードは、さっきキリンAをかばった氷河が憎らしく思えてきて、心の中に留めるつもりの言葉を全部吐き出した。

「共通点を探すのもいいけど、誰かがゲームを何とかしなさいよ。また電流が流れるでしょ! もう次は耐えられないわよ!」

 こう何度も電撃に晒されていては身体が持たない。立っていても地に足をついている感覚が薄く、骨盤でバランスを取っているような状態だった。

「だから、あんさんと、みかんとうちでゲームしようやって言うてんやんか、どアホ!」

「あたしを入れないでよ」

 みかんのここ♡が無理無理と手を胸の前で小刻みに振って拒否する。

「ぶりっ子はやめなさいよ! てか、あんた男でしょ」

「男の娘のものまねをしてるのよ。女子から受けていいのよ。ほら、理容師さんなんかがわざとカマっぽくなるって言うじゃない? なんでそうしてるのかって聞いてみたことあるのよ。女性客にウケるんだって。あたしも学校で女子とお話しするときに、女性のものまねしたらウケてね。もう、この話し方から抜け出せない感じ。女子と友達にならなきゃ、服脱いで写真をラインで送ってくれる? なんて頼めないでしょ?」

 サードは絶句する。最低クズ野郎だと思った。女の子と仲良くなるために僕っを演じているなんて、えげつない。

「じゃ、後はよろしく頼むわ」

 タイタンフレッドのゲームなのに、当の本人は更衣室内のベンチに腰掛けて休憩を決め込んでしまった。

「ちょっと!」

「ピンク髪文句あるのか? 手出しすると逆にペナルティ食らうんだぜ?」

「話し合わないか? 僕は手伝えないけど、必ず誰かがやらないと電流に苦しむことになる」

 テカプリはやっぱり戦力にならない。手伝えないって何よ――。

 再びスクリーンが降りて来た。こんなことははじめてだ。映像のキラー・ハニーはパントマイムのようなダンスを踊っている。

〈サンカシャがきまらない? ペナルティがわからない? そうか、きみたちはおさないヨウチエンジだったね。ゲームを楽しめるように、もっともっと、クフウするよー! まずペナルティから。フクワライはもともと勝ち負けがないゲームだから、そのままじゃつまらない。いちばんへたくそは、ざんねん。死んでもらう。でも、ロウホウだよー。このゲームにいちばんコウケンしたひとは、つぎのゲームでゆうりになるケイヒンをプレゼントするよ! ねぇねぇ? これで、すこしはやる気がでたかなぁ?〉

「次のゲームもあるのかよ。全部で何ゲームあるんだ」

 タイタンフレッドが悪態をつく。
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