ベークド……

影津

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完結一話

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 ベークド(baked)

 食物を焼いたの意を表す。「――エッグ」



 マサキは食べさせられた。ベークドエッグを。簡単ごはんは手間いらず。忙しい妻の手抜き料理とも言う。とはいってもトマト缶で時短したとはいえ、ミックスビーンズやコーンも入って栄養満点。

 ただ、見た目が悪い。味はいつもにも増して美味しい。だから、口移しで運ばれたときも黙っていた。

 睡魔が襲ってきて、もう今日は寝ようと思った。妻はにっこり微笑んだ。



 結局、昨日は仕事に行けなかったなと思いながら、出されたベークドハムを食べる。盛り付けはぐちゃぐちゃ。レタスは雑だし、ハムの切り方も乱雑。昨日のベークドエッグもそうだったけどな。妻は忙しいと言い続けている。そりゃそうだろうな。俺の会社にも休みの連絡を入れてくれ。



 今日のベークドハムはよく分からない味だ。今まで食べたどんな肉とも似つかず美味い。おやこれは? こりこり美味い。ミミガーみたいだ。耳か。そうか、耳だな。イヤリングがついている。これは見たことがある。レイナがいつも身に着けていた。そうか、それで妻は怒っているのだな。俺はやっと合点がいった。だけど、妻に今抗議するのはまずい。二人でぐちゃぐちゃになったレイナを食べようと言うのだ。

 まな板にはドーム型ケーキみたいな乳房が乗っている。どうせならそのまま食べさせてくれたらいいのに。妻は俺の目線の先を捉え、席を立つ。その乳房はオーブンに入れられてしまう。ああ、焼かれる。あの膨らみがしぼむか焼けてねじくれてしまう。原型が失われる。



 妻は冷蔵庫からとうとうレイナの頭部を出してきた。耳は昨日食べたからなかった。妻は忙しいと早口で繰り返す。胴体の解体も俺の知らない間に済ませてあるのに、何が忙しいのか。妻は俺を縛り付けた椅子の下にある排泄物を溜めたバケツを取り替えてくれる。

 それから、レイナの白い顔を見つめる。腐った臭いがするその顔は、ところどころ死斑ができている。レイナの顔を早くベークドして食べさせてくれよ。腐ってもいい女なんだ。アンナお前よりもな。焼けばなんでも食えるだろう。

 妻はレイナの頭部を風呂場に持っていき、ハンマーで打ち砕く。一口サイズになるまで破壊して帰ってきた。それから、今日はレイナさんの顔をぐちゃぐちゃにしてやったわ! と勝ち誇ったように言った。なんだ、わざわざ食べやすくしてくれたのか。

 俺は感謝した。欲を言えばレイナの唇を味わいたかったが。ベークドされたそれは、やはりぐちゃぐちゃだ。こんがりした部分と、半生のジューシーさが堪らない。

 眼球はとろけて崩れてしまって卵の白身みたいになっている。


 妻はレイナの髪も箸にからめて頭皮を口にした。それから、俺の口へ妻の舌もからめてねじ込んでくる。


 舌先で感じるのは妻ではない。ぐちゃぐちゃのレイナだ。
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