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ピザパーティー de らんでぶ~
第一話
翌日、木曜日の食堂でも、大野は灯里に話しかけてきた。
今日の、彼のメニューはA定食の肉豆腐。ほうれん草のおひたしを先に食べたようで、器が空になっている。しかしどうしてわざわざ席を移動してまで、灯里に声をかけてくるのだろう。
「昨日、休んだみたいだけど、何? 仕事さぼって遊びにでも行ってたの?」
事実、本当にさぼってしまった手前、一瞬顔がひきつりかけたが何も大野相手に本音をさらす必要はなく、そのつもりも毛頭ない。灯里は、B定食のナポリタンに付いていた、コーンスープを飲む手を止めると、
「昨日は体調が優れなくて。今日はもう大分よくなりましたけど」
と適当に返した。
昨日の朝、会社に連絡したときは、あれほど緊張していたのに。目の前の大野に対して嘘をつくことには、まったくもって罪悪感を感じなかった。
「へえ、本当に具合が悪かったんだ。前の仕事で営業してたときは、宮下、ほとんど休まなかっただろ? よっぽど仕事が好きなんだなって思ってた」
それは大野が自分の休暇を優先して、灯里が自由に休みを取れなかっただけのことだ。
大野は大学のときにラグビー部に所属していたそうで、体躯がよく、体育会系のノリで押しが強い。それでも得意先の、特に年配の人からは可愛がられていたようだった。しかし気まぐれというか自分本位な性格の持ち主で、灯里はしょっちゅう彼の言動に振り回されていた。毎回、自分が苦手な顧客との打ち合わせはすっぽかしていたし、割と平気で嘘をつく。
だから先週、間違った説明の指示を灯里が出したというすぐにばれそうな嘘も彼にとっては恐らく嘘というよりコミュニケーションの一部としか思っていない気がする。この性格でよくこれまで組織という社会の中でやってこれたなと灯里は感心した。
二年と半年の間、大野と一緒に仕事をしたが、まったく信頼を置ける人ではなかった。自分勝手な嘘をついたり、上から目線で人を見下したりと不愉快なことを多々目の前で見てきたせいもあるが、それに輪をかけて大野を理解できないところがあった。
「それより、二年も一緒に仕事してきた仲だろ。ここに入って宮下がいるのを知ったときは嬉しかったんだ。心強いなって。だからさ今夜一緒に食事にでも行かない?」
「……」
大野は肘をついた左手に顎をのせ、上目遣いで灯里を見据えると、さらっと誘いの言葉を投げてきた。
大野の理解できないところ。それは女性にだらしがないところだった。
前職で入社したての頃、業務終了後もよく食事に誘われた。最初のうちは、仕事を教えてくれる先輩からの誘いということもあって無下にはできず、一緒に飲みに行くこともあったが、段々耐えられなくなり断るようになった。何故なら大野が仕事以外のつきあいを求めてきたからだ。そういう誘い言葉をなんとかかわしていたのだが大野はかなりしつこい性格だった。あるとき限界に達しどうしたらいいものかと考えた末、灯里は嘘をつくことにした。
『彼氏ができました。だからもう誘わないでください』
それでも大野は、灯里の人を寄せ付けない性格を見抜いていたのか、
「どうせ、エア彼氏でしょ?」
と言って変わらず誘い続けてきた。
しかし灯里が頑なに態度を崩さなかったのでそれから二カ月後、やっと大野から食事に誘われることがなくなり業務以外で距離をとることができるようになったのだった。そういった理由も含めて入社一年後に再度、希望していた企画デザイン部署への異動願いを提出したが、かなうことなく。二年目になって独り立ちをしたあとは一年目に比べそれほど大野と関わることはなくなったが同じ営業課にいる以上、結局毎日顔を合わせていた。
本当に嫌だった。
「すみません、今夜は用事がありますので」
灯里は大野の顔を見ずに、サラダの皿を手に取りレタスを口に運んだ。大野は、
「ふ~ん」
と何でもないことのようにつぶやくと、
「じゃあ、いつならいい?」
と聞いてきた。本当にしつこい人だ。
灯里は目の前のお盆にまだ残っている、食べかけのナポリタンとサラダをうらめしそうに見てから席を立った。
「お先に失礼します」
これでは一昨日と同じパターンだ。
まだ食べたかったのにな。
でももうこれ以上は無理だ。
一緒にいたくない。
仕方なく食事をすることをあきらめた灯里が食器の返却口へ向かおうと歩きだしたとき後ろから肩を掴まれた。驚いて振り向くと、
「なんだよ? まだ、エア彼氏とつきあってるわけ?」
大野が灯里の左肩に触れている。
嫌だっ!
反射的に体がビクッとなり、灯里はその手を振り払った。そして、
「大野さんこそ奥さまがいらっしゃるのによく平気でそんなことができますねっ!」
思わず大きな声が出てしまった。
周囲にいた人が灯里と大野に注目する。
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