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ピザパーティー de らんでぶ~
第二話
今は知らないが、当時大野は結婚をしたばかりの妻帯者だった。それなのに灯里に軽々しく誘いの言葉をかけてきていたのだ。灯里は父親がした行為のこともあり、大野のそういう態度が余計に許せなかった。
大野は一瞬怯んだような表情をしてみせたが、すぐに口元を歪ませて、
「いやだなあ、宮下。ちょっと自意識過剰なんじゃないの?」
と言ってきた。
灯里は怒りと恥ずかしさで咄嗟に俯くと、その場に立ち尽くしてしまった。
すると、
(灯里。悪いけど借りるよ)
(え?)
これまでずっと黙ったままでいた陽太がそうつぶやいた瞬間、灯里はぐいっと体が意識ごと後ろにずれるような感覚を覚えた。
そして……。
意識が離れた灯里の体に、なんと陽太が乗り移った。
自分の体が勝手に動き始め、正面に立つ大野をにらみつけている様子を、まるで映画のスクリーンを観ているかのように灯里はぼんやり眺めていた。
それから、お盆の上のまだ水が入ったグラスを灯里の手がつかみ、それをそのまま大野の頭上に掲げると、あとはゆっくりグラスを下に傾けていく。
水は重力に逆らうことなく、とぷとぷ音をたてながら大野の頭頂に注がれていった。そのまま額に顔、首もとにまで水が流れ落ちていくなか、大野は何が起きているか事態を飲み込めない様子で突っ立っている。
意識が体の後ろにずれたままでいる灯里も呆気にとられ、その様子をただ見ていた。
グラスがすっかり空になったところで、陽太、もとい灯里はにっこり笑みを浮かべるとこう言った。
「あらー。大野さんって、水も滴るイイ男なんですね~」
そして濡れそぼった大野をそのままに、食器を返却口に返すと食堂をあとにした。
灯里の意識が自分で身体を動かすことができるようになったのは、自席に戻ってから。
まだ休憩時間中だ。灯里は机に顔を突っ伏して、陽太に文句を言う。
(ちょっと陽太。今のは何なの? 何をしたのよ?)
あの瞬間、灯里は自分の体から意識が離れるような感覚に陥った。
意識を体の後ろに追いやられたような、ふわふわとした奇妙な感覚。
(ああ、まあ……)
陽太から歯切れの悪い返事が返ってくる。
(ちょっとあの大野って奴にムカついたから灯里の体をお借りしまして。えーっとなんだ、懲らしめてやろうかと……あ~っもう、ごめん! 俺が悪かった! 勝手に灯里の体に乗り移った。ごめんなさいっ!)
言い訳をしているうちに、だんだん自滅したようになり、陽太は大いに謝ってきた。
(もう! びっくりしたわよ。そんなことができるなら最初から言ってよね)
(いやあ、俺もまさかほんとにできるとは思ってなくて。やってみたらできて、俺もびっくりした)
(あーあー。まさか水をかけちゃうなんて。どうしよう。私、次に大野さんに会ったら謝んなきゃいけないのかなあ)
(えー謝る必要ないっしょ。灯里だって昼めし食べ損ねたんだし。あ。水じゃなくてナポリタン爆弾、お見舞いすりゃよかったか?)
(そんな、過激な。それだと、クリーニング代とか請求されちゃうわよ)
陽太と話しているうちに、灯里はだんだん可笑しくなってきた。
陽太に水をかけられ、捨て台詞まで吐かれた大野の姿を思い出す。
ほんとだ。
謝ってやる必要なんてないかも。
そもそも向こうが悪いのだ。
「宮下さん、大丈夫?」
突然、頭上から声をかけられた。顔を起こすと山崎SVだった。
「もしかして今日も体調悪いの?」
心配そうにそう言ってくれたが何か様子がおかしい。口元がゆるんでいる。
山崎SVは座っている灯里の目線に合わせるように、膝を曲げてしゃがみ込むと、
「さっきの見たわよ。何があったかは知らないけれど、やるわね宮下さん。なかなか面白かったわ」
小声でささやいてきた。
あ~しまった。見られていたんだ。
「……申し訳ございません」
灯里がぼそっと一言、謝ると、山崎SVはぷっと吹き出して、
「なんで謝るのよ。先週の一件もあることだし。話してわからなければ態度で示すことも……まあ、度が過ぎなければいいと思うわ。ちなみにさっきのあれはOKよ」
そう言うと、にこっと笑って立ち去った。
相変わらず、大人な女性だなあ。
(ほら、OKだってさ)
陽太も調子づいて言ってきた。
そっか。
言葉でわからなければ、態度で示す。
あんな感じでもいいのか。
灯里は、もしまた同じようなことがあれば、今度は自分の手で水でもナポリタンでも頭上から食らわしてやろうと心に決めた。
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