パンダ☆らんでぶ~

藤沢なお

文字の大きさ
35 / 57
ピザパーティー de らんでぶ~

第二話


 今は知らないが、当時大野おおのは結婚をしたばかりの妻帯者だった。それなのに灯里あかりに軽々しく誘いの言葉をかけてきていたのだ。灯里は父親がした行為のこともあり、大野のそういう態度が余計に許せなかった。

 大野は一瞬ひるんだような表情をしてみせたが、すぐに口元を歪ませて、

「いやだなあ、宮下みやした。ちょっと自意識過剰なんじゃないの?」

 と言ってきた。

 灯里は怒りと恥ずかしさで咄嗟とっさうつむくと、その場に立ち尽くしてしまった。

 すると、

(灯里。悪いけど借りるよ)

(え?)

 これまでずっと黙ったままでいた陽太ひなたがそうつぶやいた瞬間、灯里はぐいっと体が意識ごと後ろにずれるような感覚を覚えた。

 そして……。

 意識が離れた灯里の体に、なんと陽太が乗り移った。

 自分の体が勝手に動き始め、正面に立つ大野をにらみつけている様子を、まるで映画のスクリーンを観ているかのように灯里はぼんやり眺めていた。

 それから、お盆の上のまだ水が入ったグラスを灯里の手がつかみ、それをそのまま大野の頭上に掲げると、あとはゆっくりグラスを下に傾けていく。

  水は重力に逆らうことなく、とぷとぷ音をたてながら大野の頭頂に注がれていった。そのまま額に顔、首もとにまで水が流れ落ちていくなか、大野は何が起きているか事態を飲み込めない様子で突っ立っている。

 意識が体の後ろにずれたままでいる灯里も呆気にとられ、その様子をただ見ていた。

 グラスがすっかり空になったところで、陽太、もとい灯里はにっこり笑みを浮かべるとこう言った。

「あらー。大野さんって、水も滴るイイ男なんですね~」

 そして濡れそぼった大野をそのままに、食器を返却口に返すと食堂をあとにした。


 灯里の意識が自分で身体を動かすことができるようになったのは、自席に戻ってから。

 まだ休憩時間中だ。灯里は机に顔を突っ伏して、陽太に文句を言う。

(ちょっと陽太。今のは何なの? 何をしたのよ?)

 あの瞬間、灯里は自分の体から意識が離れるような感覚に陥った。

 意識を体の後ろに追いやられたような、ふわふわとした奇妙な感覚。

(ああ、まあ……)

 陽太から歯切れの悪い返事が返ってくる。

(ちょっとあの大野って奴にムカついたから灯里の体をお借りしまして。えーっとなんだ、懲らしめてやろうかと……あ~っもう、ごめん! 俺が悪かった! 勝手に灯里の体に乗り移った。ごめんなさいっ!)

 言い訳をしているうちに、だんだん自滅したようになり、陽太は大いに謝ってきた。

(もう! びっくりしたわよ。そんなことができるなら最初から言ってよね)

(いやあ、俺もまさかほんとにできるとは思ってなくて。やってみたらできて、俺もびっくりした)

(あーあー。まさか水をかけちゃうなんて。どうしよう。私、次に大野さんに会ったら謝んなきゃいけないのかなあ)

(えー謝る必要ないっしょ。灯里だって昼めし食べ損ねたんだし。あ。水じゃなくてナポリタン爆弾、お見舞いすりゃよかったか?)

(そんな、過激な。それだと、クリーニング代とか請求されちゃうわよ)

 陽太と話しているうちに、灯里はだんだん可笑しくなってきた。

 陽太に水をかけられ、捨て台詞まで吐かれた大野の姿を思い出す。

 ほんとだ。
 謝ってやる必要なんてないかも。
 そもそも向こうが悪いのだ。

「宮下さん、大丈夫?」

 突然、頭上から声をかけられた。顔を起こすと山崎やまざきSVだった。

「もしかして今日も体調悪いの?」

 心配そうにそう言ってくれたが何か様子がおかしい。口元がゆるんでいる。

 山崎SVは座っている灯里の目線に合わせるように、膝を曲げてしゃがみ込むと、

「さっきの見たわよ。何があったかは知らないけれど、やるわね宮下さん。なかなか面白かったわ」

 小声でささやいてきた。
 あ~しまった。見られていたんだ。

「……申し訳ございません」

 灯里がぼそっと一言、謝ると、山崎SVはぷっと吹き出して、

「なんで謝るのよ。先週の一件もあることだし。話してわからなければ態度で示すことも……まあ、度が過ぎなければいいと思うわ。ちなみにさっきのあれはOKよ」

 そう言うと、にこっと笑って立ち去った。
 相変わらず、大人な女性だなあ。

(ほら、OKだってさ)

 陽太も調子づいて言ってきた。
 そっか。
 言葉でわからなければ、態度で示す。
 あんな感じでもいいのか。

 灯里は、もしまた同じようなことがあれば、今度は自分の手で水でもナポリタンでも頭上から食らわしてやろうと心に決めた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて

千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。 そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。 夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。 それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。 ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。 ハッピーエンドになるのでご安心ください。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?