【完結】貶められた緑の聖女の妹~姉はクズ王子に捨てられたので王族はお断りです~

魯恒凛

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緑の聖女の捜索

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 討伐から数日が経ったある日、カルナは第二騎士団の応接室でセオドア団長と副団長のレオ、修道院のシスターと共に、アクアリア王国からの客人を出迎えていた。

「司祭さま……。その節は本当にありがとうございました」

「カルナ、背が伸びてすっかり大人びてきたな。あれから1年半か……。大人たちがお前たちを守ってやれず本当にすまなかった」

 にこやかだが悲しそうな顔で司祭はカルナに微笑みかけた。今回は数年に一度開かれる聖職者の集会が帝国で開かれるため訪問することになり、カルナの元にも立ち寄ってくれたそうだ。

「ジョーンズ司祭、第二騎士団の団長を務めるセオドア・ボールドウィンです。カルナは今、第二騎士団の庇護下にいて、ある程度の事情はカルナから聞いています。今後のためにもアクアリア王国の様子をお伺いしたいのですが」

「ええ、私が知っていることであればなんでもお伝えします。ここ1年、アクアリア王国は天変地異が続き、民には疲れが見えています。普段と変わらない気候だったのに、井戸や湖が干上がり、農作物が軒並み凶作で食糧が値上がりしました。魔物も増えて各辺境家は苦戦しています……。
 ですが、中央貴族は対策を取るでもなく、贅を尽くした生活を続けるばかり。貴族と平民の貧富の差が広がり、怨嗟の声が日に日に高まっています。善政を敷く所はまだしも、領によっては圧政が始まり、弱者が追い詰められているのです」

「……司祭さま、聖女さまは何をしていらっしゃるのですか?」

「聖女さまか……。王子妃としての務めがあるとかで、毎日茶会や夜会で忙しいそうだ。視察へ出たという話は聞いたことがない。平民の間では緑の聖女を慕う声が密かに広まっているよ。
 今王都ではこんな詩が流行っているんだ。『緑の聖女を蔑ろにした王家には災いが起こるだろう。緑の聖女はアクアリア王国を見限った』ってね。カルナ、エリスの調子はどうだ? エリスは元気になったかい?」

 司祭が眉を下げて力なく微笑む姿を見て、カルナは頭の中が真っ白になった。

(なんてこと……! そんな詩が王族の耳に入ったらきっと捜索される……。高い魔力を持つフローラが見つかってしまったら……)

 カルナはぎこちなく微笑むだけで何も答えなかった。

 しばらく談笑した後、帰国する際にまた立ち寄ると言い残し、司祭はシスターと共に聖職者の会合へ向かって行った。部屋の中にはセオドアとレオ、カルナが残された。

「……カルナ。提案なんだが、ボールドウィン侯爵家の後見を受けないか? お前は命だけでなく、俺の騎士としての人生を繋いでくれた恩人だ。アクアリア王国の王族が何か言ってきたら第二騎士団では心もとない。ボールドウィン侯爵家が後ろ盾としてお前を守ろう。もちろん、フローラもだ。急なことですぐには返事もできないだろうが、一度うちに来てみないか? お礼を兼ねて食事に招待したいんだ」

 カルナが返事を迷っているうちに馬車の手配やフローラの迎えが進み、いつの間にかフローラと共にボールドウィン侯爵家の応接室に座っていた。

 部屋には当主でありセオドアの父であるニコラス・ボールドウィン、ジャクリーン夫人、セオドアが揃っている。ボールドウィン侯爵家はニコラスが軍務副大臣、セオドアが第二騎士団の団長を務める武闘派だが、兄であるアーヴィン小侯爵は文官を務めている。

 文武両面から国を支える赤い獅子のような血統で、夫人は茶髪に灰色瞳の知的な印象をしていた。

 討伐の際、セオドアを毒から救ったことを改めて感謝され、夫妻からも後見人になりたい旨を伝えられた。

「カルナ嬢、いろいろ事情があると聞いたが、うちは筆頭侯爵家でそこそこ力がある。2人の後見人として存在を示しておけば、ある程度の悪意を防げるはずだ」

「カルナさん、うちは大きな息子が2人だけだし、本当は娘になって欲しいくらいなの。でも侯爵家の一員になると悪いこともあるから断念したのだけど、家族同様に接してくれると嬉しいわ」

 確かに、侯爵家が後ろ盾になってくれると良いかもしれない。でも迷惑じゃないだろうか? 何かで返せるだろうか?

「……カルナ。難しく考えることはない。テラフォーラ帝国の筆頭侯爵家次男、第二騎士団の副団長を救ったんだ。一生困らないだけの金銭を受け取ってもいいほど、俺はお前に借りがある。安心して頼って欲しい」

「……ありがとうございます。それなら……ぜひお願いします」

「よし! そうと決まれば、父上と母上にも詳しい事情を説明しよう」

 カルナは本名や今までのことを正直に話し、王族に関わりたくないことを夫妻に伝えた。

「そうか……。お姉さんは気の毒だったな。もっと早くに保護してあげられれば……」

「カルナさん、もしかしてその眼鏡って……。ん? 髪もカツラなのかしら?」

「あ、忘れてました、すみません」

 眼鏡とカツラを外したカルナを見て、侯爵夫妻は驚きのあまり息を詰めた。

「ごほん、ごほん」

 固まっている夫妻を見て、セオドアが現実に引き戻す。

「はっ、カ、カルナさん。いろいろ手配が終わるまで、うん、もう少し変装をしていて欲しい」

「ええ、ええ、そうね。驚いたわ。うーん、想定していたより護衛を増やさないと……」

 侯爵夫妻は女子寮に護衛をつけてくれ、日中にフローラと乳母が安心して過ごせるように手配してくれた。時々フローラを連れて来て欲しいというのは侯爵夫妻からのお願いだ。

 赤ちゃんってかわいいものね。金髪碧眼のフローラは一目で高位貴族のご落胤だが、顔立ちはお姉さま譲りでまるで天使そのものだ。

「カルナ、おかえりなさい。フローラお嬢様は今日も一日いいこで過ごしてましたよ」

「ヘレーネさん、いつもありがとうございます。これ、私が作ったハーブティーです。何種類かブレンドしたので、気に入ったものがあったら教えてくださいね。また作ります」

「まあ、ありがとう。このポーチは刺繍したの? とてもかわいいわね」

 フローラを安心して任せられる乳母、頼りになる後見人ができて、カルナは幸せを噛み締めていた。
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