10 / 71
10.アロルド団長
しおりを挟む
「それで? ずいぶん度数の高いお酒を飲んでいるみたいだな」
「うん、あたしぃ、お金いっぱい持ってるから高いお酒頼んだの」
自分の宝石を売ったお金だもん。誰にも文句は言わせないわ。強いて言えば、私の両親。だけど、あの人たちならきっと許してくれるわ。
「高いんじゃなくて強いんじゃ……」
団長がじろっと視線を送る先にはマスター。視線を泳がせた気がするけど、マスターは悪くないよ? 高いお酒をオーダー通りに出してくれたもの。
ため息をつきながら、アロルド団長が私に尋ねた。
「で、君はこんなところで飲んでいていいのか?」
「いいのいいの。あたしのことなんて、誰も待ってないし」
「ん? 結婚してるだろう?」
「けっこん?」
ぎゅっと眉を寄せてアロルド団長を見つめると「ん?」とほほ笑まれた。イケオジめ~!
「はんっ! あんなのけっこんって言わないわっ! ……あたしのこと、あの人は空気にしか思ってないのよっ」
「ルートヴィヒが? そんなはずは……」
眉間にしわを寄せる団長。……ん? それより今、ルートヴィヒって言った?
あ。
……その表情は私のことも知ってたんだ。
「……っ」
てっきり、私のことは知らないと思ってた。だから気さくに話しかけてくれるんだって思ってたのに……。そうだよね、この王都でお二人の噂を知らない人なんていない。
ちらっとアロルド団長を見ると、彼は「どうした?」と優しく首を傾げた。
……急に恥ずかしさといたたまれなさに包まれる。だって、私に向けられる目に悪意が含まれていないんだもの。やめて。そんな優しい目で見られたら気が緩んじゃう。
「……うふふ。知ってる? 私って、夫と王女様の仲を邪魔する悪妻なんだよ?」
あ、やばい。涙が出そう。普段ならこの場からさっと立ち去るのに、そうしなかったのはお酒と目の前のイケオジの包容力のせい。
それに、なんとなく口が固そうで見守るような視線を送ってくるマスターに安心してしまったからなのかも。
「うっ……、あの人が、結婚してくれって言ったくせに……あたし、当て馬にされて、悪者にされて……」
もうダメだ。ぽろぽろと涙がこぼれた。
「……かわいそうに。たくさん傷ついたんだな」
「傷つくどころか、……あたし、レーンクヴィスト家で殺されかけたんですよ」
「……なんだって?」
「聞いてくださいよぉ」
積もり積もった愚痴が堰を切ったように溢れ出す。
使用人からの扱い、ルートヴィヒ様の冷たい態度、挙句の果てにいつまでも出されるくるみの話。
「あたしが、何をしたって言うのよぉ……」
さりげなく差し出されたハンカチで涙と鼻水でぐっちゃぐちゃの顔を拭いた。……いいにおい。イケオジのハンカチはいいにおい。
思いの丈を吐き出したら、想像以上にすっきり。
「ぐすっ、だけどもういいの。あたし、後一年したら白い結婚で離縁できるんだぁ。えへへ」
「おっ? 離縁するのか?」
「はい! 離縁したらぁ、実家の領地の隅っこで、もふもふカフェを開いてぇ、動物と子供が戯れる姿を眺めて――」
「ほぅ! クラリス嬢、願ってもない!」
ぐっと顔を寄せられるとイケオジの顔が間近に迫った。僥倖です。
「ん? 何がです?」
「動物が好きなんだろう? かわいい動物のお世話係を探しているんだけど、やってみないか?」
かわいい動物? もふもふが王都にいるの?
カフェをオープンするための軍資金も稼ぎたいけど、貴族の夫人が外で働くのはハードルが高い。仕事を見つけるのも一苦労だなと思っていたのに、もふもふと働けるなんて断る理由がないじゃない。
「やる! やります!」
「よかった。なかなか人手が見つからなくて。それじゃあ、来れる日からこの間のドラゴンの獣舎でよろしく」
「ん? ドラゴンの獣舎?」
「そ、ドラゴン。この間の水色の子ドラゴン、君によく懐いてたようだし、適任が見つかって本当によかった」
「……へ?」
ドラちゃんのお世話係ってこと? そりゃ、ドラちゃんはかわいいけど、ドラちゃんはもふもふじゃない……。それにあそこで仕事するってことは、どう考えたってルートヴィヒ様に会いそうな気がするんですが?
私の心配を見抜いているのか、アロルド団長は問題ないと言う。いや、あるよ!
「大丈夫。偽名を用意して、かつらと眼鏡を使えばルートヴィヒにもバレないさ。どう?」
……バレない、かなぁ。アロルド団長が協力してくれるんだったら、いけるかも? どっちみちお金を稼ぎたいし、よくわからないところで働いて危ない目に遭うよりもいいかも? 平和な日本育ち、今世は箱入り娘だったクラリスは、なんだかんだいってこの世界の街の様子がよくわからないし、安心できる職場は重要だ。
冷遇するくせに口うるさいレーンクヴィスト家にも、「王城に行ってくる」って外出しやすいのも魅力的。……うん、答えは一択しかないわ。
「はい、ぜひ働かせてください!」
こうしてアロルド団長と楽しく飲み、ドラゴンの話や最近の遠征の話を聞かせてもらった記憶はあるのだけど。
気がついたら私は自分のベッドの上にいたのだ。……しかも、裸で。
「うん、あたしぃ、お金いっぱい持ってるから高いお酒頼んだの」
自分の宝石を売ったお金だもん。誰にも文句は言わせないわ。強いて言えば、私の両親。だけど、あの人たちならきっと許してくれるわ。
「高いんじゃなくて強いんじゃ……」
団長がじろっと視線を送る先にはマスター。視線を泳がせた気がするけど、マスターは悪くないよ? 高いお酒をオーダー通りに出してくれたもの。
ため息をつきながら、アロルド団長が私に尋ねた。
「で、君はこんなところで飲んでいていいのか?」
「いいのいいの。あたしのことなんて、誰も待ってないし」
「ん? 結婚してるだろう?」
「けっこん?」
ぎゅっと眉を寄せてアロルド団長を見つめると「ん?」とほほ笑まれた。イケオジめ~!
「はんっ! あんなのけっこんって言わないわっ! ……あたしのこと、あの人は空気にしか思ってないのよっ」
「ルートヴィヒが? そんなはずは……」
眉間にしわを寄せる団長。……ん? それより今、ルートヴィヒって言った?
あ。
……その表情は私のことも知ってたんだ。
「……っ」
てっきり、私のことは知らないと思ってた。だから気さくに話しかけてくれるんだって思ってたのに……。そうだよね、この王都でお二人の噂を知らない人なんていない。
ちらっとアロルド団長を見ると、彼は「どうした?」と優しく首を傾げた。
……急に恥ずかしさといたたまれなさに包まれる。だって、私に向けられる目に悪意が含まれていないんだもの。やめて。そんな優しい目で見られたら気が緩んじゃう。
「……うふふ。知ってる? 私って、夫と王女様の仲を邪魔する悪妻なんだよ?」
あ、やばい。涙が出そう。普段ならこの場からさっと立ち去るのに、そうしなかったのはお酒と目の前のイケオジの包容力のせい。
それに、なんとなく口が固そうで見守るような視線を送ってくるマスターに安心してしまったからなのかも。
「うっ……、あの人が、結婚してくれって言ったくせに……あたし、当て馬にされて、悪者にされて……」
もうダメだ。ぽろぽろと涙がこぼれた。
「……かわいそうに。たくさん傷ついたんだな」
「傷つくどころか、……あたし、レーンクヴィスト家で殺されかけたんですよ」
「……なんだって?」
「聞いてくださいよぉ」
積もり積もった愚痴が堰を切ったように溢れ出す。
使用人からの扱い、ルートヴィヒ様の冷たい態度、挙句の果てにいつまでも出されるくるみの話。
「あたしが、何をしたって言うのよぉ……」
さりげなく差し出されたハンカチで涙と鼻水でぐっちゃぐちゃの顔を拭いた。……いいにおい。イケオジのハンカチはいいにおい。
思いの丈を吐き出したら、想像以上にすっきり。
「ぐすっ、だけどもういいの。あたし、後一年したら白い結婚で離縁できるんだぁ。えへへ」
「おっ? 離縁するのか?」
「はい! 離縁したらぁ、実家の領地の隅っこで、もふもふカフェを開いてぇ、動物と子供が戯れる姿を眺めて――」
「ほぅ! クラリス嬢、願ってもない!」
ぐっと顔を寄せられるとイケオジの顔が間近に迫った。僥倖です。
「ん? 何がです?」
「動物が好きなんだろう? かわいい動物のお世話係を探しているんだけど、やってみないか?」
かわいい動物? もふもふが王都にいるの?
カフェをオープンするための軍資金も稼ぎたいけど、貴族の夫人が外で働くのはハードルが高い。仕事を見つけるのも一苦労だなと思っていたのに、もふもふと働けるなんて断る理由がないじゃない。
「やる! やります!」
「よかった。なかなか人手が見つからなくて。それじゃあ、来れる日からこの間のドラゴンの獣舎でよろしく」
「ん? ドラゴンの獣舎?」
「そ、ドラゴン。この間の水色の子ドラゴン、君によく懐いてたようだし、適任が見つかって本当によかった」
「……へ?」
ドラちゃんのお世話係ってこと? そりゃ、ドラちゃんはかわいいけど、ドラちゃんはもふもふじゃない……。それにあそこで仕事するってことは、どう考えたってルートヴィヒ様に会いそうな気がするんですが?
私の心配を見抜いているのか、アロルド団長は問題ないと言う。いや、あるよ!
「大丈夫。偽名を用意して、かつらと眼鏡を使えばルートヴィヒにもバレないさ。どう?」
……バレない、かなぁ。アロルド団長が協力してくれるんだったら、いけるかも? どっちみちお金を稼ぎたいし、よくわからないところで働いて危ない目に遭うよりもいいかも? 平和な日本育ち、今世は箱入り娘だったクラリスは、なんだかんだいってこの世界の街の様子がよくわからないし、安心できる職場は重要だ。
冷遇するくせに口うるさいレーンクヴィスト家にも、「王城に行ってくる」って外出しやすいのも魅力的。……うん、答えは一択しかないわ。
「はい、ぜひ働かせてください!」
こうしてアロルド団長と楽しく飲み、ドラゴンの話や最近の遠征の話を聞かせてもらった記憶はあるのだけど。
気がついたら私は自分のベッドの上にいたのだ。……しかも、裸で。
2,285
あなたにおすすめの小説
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
私のことはお気になさらず
みおな
恋愛
侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。
そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。
私のことはお気になさらず。
はっきり言ってカケラも興味はございません
みおな
恋愛
私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。
病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。
まぁ、好きになさればよろしいわ。
私には関係ないことですから。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる