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44.九か月後に離縁を
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「さ、クラリスお嬢様。温かいハーブティーをお持ちしましたよ」
「ありがとう、カヤ」
ん~、レモングラス入り? 爽やかな香りがいいわね。
……あの後、項垂れるルートヴィヒ様を夫婦の寝室に残し、私はカヤと隣にある正妻の部屋へ向かった。
離縁してほしいという私の言葉に、ルートヴィヒ様はしばし放心してから「少し考えさせてほしい」と口にした。まあ、結婚は家同士のことでもあるし、いろいろ根回しだってあるんだから、すぐに首肯とはいかないか。
だけど、傷ついたような顔に見えたのは気のせい? 私が自分に都合よく、そう思いたかっただけかな。
それにしても、こんな時にカヤが来てくれて本当に良かった!
レーンクヴィスト家に到着早々、この部屋も整えてくれたらしく快適、快適。着いたばかりなのに、ずいぶん働かせたみたいで悪いことをしちゃったな。
そのカヤは、ティーポットを手ににこにこと近づいてきた。
「ところでお嬢様。どうして今すぐではなく、九か月後に離縁したいのですか?」
「ああ……。離縁する方法を調べたら、白い結婚が三年で成立するってものがあったんだけど。女性側から申請できるだけじゃなく、婚姻無効にできるのよ」
「なるほど! あと九か月待てば、お嬢様は結婚歴がなくなるのですね。レーンクヴィストに嫁いだ記録を抹消しようとっ! さすがでございますっ!」
「あっ。そっか、私も婚姻歴がなくなるのか。その……、ルートヴィヒ様に離婚歴がなければ王女様とも結婚しやすいだろうと思って……」
「えぇっ!? それで九か月後とおっしゃったのですか……? もうっ! お嬢様のお人好しっ!」
カヤはごそごそとポケットを漁るとハンカチを取り出して端を噛み、「キイィィィッ!」と悔しがり始めた。カヤったら。相変わらずオーバーねぇ。
「ははっ……えっと、もちろんそれだけが理由じゃないのよ? 実はね、私、ヴェルナール領に戻ったらもふもふカフェを開こうと思っているの」
「ん……? なんですか、その魅力的な響き」
「もふもふした動物を撫でながらお茶を飲んでリラックスできるカフェを作りたいの。そこにお兄様たちのお子たちが来たらどうなると思う?」
「もふもふと子供のかわいいの饗宴……! はわわわわ! やりましょう、やりましょう! お嬢様、カヤはどこまでもついてまいります……!」
「ありがとう、カヤ。それでね、今動物のお世話について学んでいるというか、魔獣騎士団でお手伝いをしていて。その仕事も急には辞められないし、勉強しながら九か月の間にいろいろ準備しておきたいなって。ほら、お父様やお兄様にももふもふカフェの相談をしながら進めておきたいじゃない?」
カヤはポンと手のひらを叩き、こくこくと頷いた。
「なるほど。さすがわたくしのお嬢様……! きちんと計画を立てられていたのですね。……それにしても、お嬢様。レーンクヴィスト伯爵家の状況をもっと早く教えてくださればよかったのに」
「ごめんなさい……嫁いだ以上、耐えるしかないってどこかで思っていて。それに、……いつかは振り向いてもらえるかなって期待していたのかもね」
本当に前世の記憶が戻って何よりだわ。
待つだけしかできなかった気弱なクラリスとはお別れ。新生クラリスは自分の人生を楽しみたいと思います!
……それにしても、今日は疲れた。
「カヤ、久しぶりに会えてうれしいんだけど、私とっても眠たくて……」
「はっ! そうでした、お疲れですよね。クラリスお嬢様、夕食は……いらなそうですね。今はゆっくりおやすみになってください。カヤがおりますから安心して寝てくださいね」
「ありがとう、カヤ……」
何はともあれ、カヤが側にいてくれるならこれから安心して暮らせる。
胸に刺さっていた小さなトゲが、今日だけでいくつも抜け落ちた気がするわね。心が軽くなった気分。
柔らかくほほ笑むカヤの顔がぼんやりしたかと思うと、私はすぐ微睡の中に意識を手放した。
「ありがとう、カヤ」
ん~、レモングラス入り? 爽やかな香りがいいわね。
……あの後、項垂れるルートヴィヒ様を夫婦の寝室に残し、私はカヤと隣にある正妻の部屋へ向かった。
離縁してほしいという私の言葉に、ルートヴィヒ様はしばし放心してから「少し考えさせてほしい」と口にした。まあ、結婚は家同士のことでもあるし、いろいろ根回しだってあるんだから、すぐに首肯とはいかないか。
だけど、傷ついたような顔に見えたのは気のせい? 私が自分に都合よく、そう思いたかっただけかな。
それにしても、こんな時にカヤが来てくれて本当に良かった!
レーンクヴィスト家に到着早々、この部屋も整えてくれたらしく快適、快適。着いたばかりなのに、ずいぶん働かせたみたいで悪いことをしちゃったな。
そのカヤは、ティーポットを手ににこにこと近づいてきた。
「ところでお嬢様。どうして今すぐではなく、九か月後に離縁したいのですか?」
「ああ……。離縁する方法を調べたら、白い結婚が三年で成立するってものがあったんだけど。女性側から申請できるだけじゃなく、婚姻無効にできるのよ」
「なるほど! あと九か月待てば、お嬢様は結婚歴がなくなるのですね。レーンクヴィストに嫁いだ記録を抹消しようとっ! さすがでございますっ!」
「あっ。そっか、私も婚姻歴がなくなるのか。その……、ルートヴィヒ様に離婚歴がなければ王女様とも結婚しやすいだろうと思って……」
「えぇっ!? それで九か月後とおっしゃったのですか……? もうっ! お嬢様のお人好しっ!」
カヤはごそごそとポケットを漁るとハンカチを取り出して端を噛み、「キイィィィッ!」と悔しがり始めた。カヤったら。相変わらずオーバーねぇ。
「ははっ……えっと、もちろんそれだけが理由じゃないのよ? 実はね、私、ヴェルナール領に戻ったらもふもふカフェを開こうと思っているの」
「ん……? なんですか、その魅力的な響き」
「もふもふした動物を撫でながらお茶を飲んでリラックスできるカフェを作りたいの。そこにお兄様たちのお子たちが来たらどうなると思う?」
「もふもふと子供のかわいいの饗宴……! はわわわわ! やりましょう、やりましょう! お嬢様、カヤはどこまでもついてまいります……!」
「ありがとう、カヤ。それでね、今動物のお世話について学んでいるというか、魔獣騎士団でお手伝いをしていて。その仕事も急には辞められないし、勉強しながら九か月の間にいろいろ準備しておきたいなって。ほら、お父様やお兄様にももふもふカフェの相談をしながら進めておきたいじゃない?」
カヤはポンと手のひらを叩き、こくこくと頷いた。
「なるほど。さすがわたくしのお嬢様……! きちんと計画を立てられていたのですね。……それにしても、お嬢様。レーンクヴィスト伯爵家の状況をもっと早く教えてくださればよかったのに」
「ごめんなさい……嫁いだ以上、耐えるしかないってどこかで思っていて。それに、……いつかは振り向いてもらえるかなって期待していたのかもね」
本当に前世の記憶が戻って何よりだわ。
待つだけしかできなかった気弱なクラリスとはお別れ。新生クラリスは自分の人生を楽しみたいと思います!
……それにしても、今日は疲れた。
「カヤ、久しぶりに会えてうれしいんだけど、私とっても眠たくて……」
「はっ! そうでした、お疲れですよね。クラリスお嬢様、夕食は……いらなそうですね。今はゆっくりおやすみになってください。カヤがおりますから安心して寝てくださいね」
「ありがとう、カヤ……」
何はともあれ、カヤが側にいてくれるならこれから安心して暮らせる。
胸に刺さっていた小さなトゲが、今日だけでいくつも抜け落ちた気がするわね。心が軽くなった気分。
柔らかくほほ笑むカヤの顔がぼんやりしたかと思うと、私はすぐ微睡の中に意識を手放した。
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