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第1話 秋の香り

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赤信号でバイクを止めた灰谷はその長い足を持て余し気味に伸ばした。
夏の終わりに乗りはじめた原付バイクは今では立派な足がわりになっていた。

「さむっ」灰谷はつぶやき、カラダをぷるりと震わせた。

昼間のうちはまだどこか夏の日差しが残っており、Tシャツ一枚でもすごせたけれど、十月も半ばをすぎ、夜ともなるとさすがに風が冷たい。
着ていた薄手のパーカーのジッパーを首元まで引き上げた。


バイクって冬は寒いよな。
今年の冬はSchottの革ジャンでも買うかな。


シングル・・・・ダブル……。


――真島も欲しがりそうだな。

なら、ダブルの方がいいか。
あいつ華奢だから少しトップにボリューム持ってきて……。
いや、シングルで細身のシルエットの方がいいのか。


『灰谷、革似合うじゃん』

少しまぶしそうに自分を見るであろう真島の顔を想像して、灰谷の頬が少し緩んだ。




『灰谷、オレ、オマエが好きだ。好きなんだ。
 どうしようもなく、好きで好きでたまらないんだ』


幼なじみで親友、生涯付き合えるヤツと思っていた真島からの決死の告白。
決死……頭の中に出てきた言葉の強さに驚く。
でもあれは、そう。そんな言葉でしか表せないような覚悟を感じた。

まあ、そんな風に思い始めたのはあれからしばらくたってからで。



『オレも好きだよ』

そう、真島に返した。
それは本心だ。
確かに、そう、思う。間違いようがない。

だが、それが真島と同じ種類のものなのか、は、わからなかった。
考えたこともなかった。

『時間が欲しい。
自分の気持ちがわかったら、その時はちゃんと伝えるから』



――――あれから約一ヶ月半が経つ。

表面上は相も変わらず、夏休み前とほぼ同じ日々が続いていた。

学校のある日は自転車で迎えに行き、週に三日はコンビニで一緒にバイト。
放課後は真島家に入り浸っている。

小さな変化といえば、真島のバイト時間が増えたこと。
バイクの代金を稼ぐためだ。
早く両親に返し終わって、好きにバイクに乗りたいとバイトに精を出しまくっている。
だがそんな真島もさすがに五連勤となるとしんどいらしく、ウダッていたのが今日の学校の昼休みのこと。
見かねて代わってやった。
そんな代打バイトの帰り道が今だった。


『帰りに寄れよ、母ちゃんにメシ作ってもらうから』真島はフォローも忘れない。

グ~グ~と腹が鳴る。
節子のメシ、楽しみだな。

信号が青に変わった。
灰谷はスピードを上げ、真島家に向けバイクを走らせた。
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