109 / 109
第四章 異質殺し
4-24 対極パンチ!
しおりを挟む
◇
鼓動が加速する。反発する感覚、あらゆるものが自分の裏側から湧き出る気色の悪い感覚。
──あらゆるものが黒色に観測する。
ゼロは存在しないからゼロなのか、ゼロだから存在しないのか、存在しないからゼロなのか、どこかウロボロスのような感覚をぬぐうことができない。
世界に“穴”が存在する。どこまでも、どうしようもない虚が存在する。
これが“虚”なのだろうか。俺にはよくわからない。
それは自分自身かもしれない。
それは自分自身なのだろうか。
よくわからない。
“無”を理解することなどできない。
だから、わからない。わからないが正解なのだ。
◇
眼球に血液が流れ込む。どくどくと拍動を重ねていき、対極の心臓がより鼓動を繰り返す。
『見えないものが見える感覚がする』
そこら中に存在していいもの、存在してはいけないもの、存在の核となるもの、存在の核以外のもの。存在全てと存在以外。
「なんだこれ……」
光と闇以外に正解が存在しない。
「お、天音の対極パンチがきいたようだな!」
朱音は嬉々としながら、そう言葉を吐く。
そうして過るのは、天使の時間にて天音に食らった対極を抑える拳。あの時に、一瞬対極を落ち着かせることになった天音のパンチ。
対極の心臓は耳元まで鼓動を知らせてくる。どくどくと、自分の命を削るように、拍動を絶え間なく繰り返す。意識が加速する感覚がする。
「それで、なにか見えるものはあるか?」
「……よくわからない」
あらゆるものがシルエットに見える。天音のシルエット、朱音のシルエット、存在のシルエット。それぞれに核となるものが光って見える。
「対極の血流が脳を支配して、存在のすべてがお前の眼球に映し出されていると思うんだけどな」
「存在のすべて……」
そう言われると、納得できるところがある。
「お前には、いま私たちがどういう風に見えてる?」
「……白と、黒」
「何が白色に見える?」
「……鳩尾というか、心臓みたいなところが」
「なるほど……」
これが、存在だというのなら、存在という概念は心臓部に宿るのだろうか。俺の眼球に映し出されるすべての概念とは、これほどまでに限定的なものなのだろうか。
──まるで、存在の終わりを見せつけるような白色。どこまでも、命とははかないものだと知らせるように。
◇
「ここからは実践的な作戦についての内容を説明する」と、朱音は言った。
「環の心臓が活動した時、存在の概念すべてが環の眼球に映し出される。私たちはそれを利用して、アリクトエアルを探し出す」
「……ちょっと待ってくれ」
俺は言葉を出す。
「俺、そのたびに腹パンされなきゃいけないの?」
「……」
「……」
朱音と天音は二人呆れたような表情で俺を見つめる。
こいつ、それくらい受け入れられないのか、とそんな感情を含めているような気がする。
「まあ、腹パンだけが対処法ではない、とは思う」
朱音は言葉を更に付け足す。
「単純に環の心臓が通常以上に加速をすることができれば、同じような作用は起こせると思うんだよな。運動とかそのあたりをすればいいんじゃね?」
「……運動かぁ」
ここ最近身体を動かす機会が存在しないから、それをするくらいなら腹パンを受け入れた方が手っ取り早いような気もする。だが、一瞬の目からとらえるすべての状況がちかちかする感覚には慣れたくはない。
「それなら──」
天音は思いついたように言葉を吐く。
「前やったみたいに、自傷するのは?」
「……」
魔法教室でのことを思い出す。
意識を加速させるために、雪冬との模擬戦闘で自分の首を掻っ切った思い出。それでなくとも、魔法を使うために何度も自傷行為を行った記憶。
血液が不足する身体は、止め処なく鼓動を繰り返して、不足を補おうとする。そうして意識が加速するのだから、確かにそれは悪くないかもしれない。
「……それでいこうか」
その方が、魔法に対しての劣等感も、自分自身で埋められるような気がする。魔法と同じような行為だからこそ、俺はそれを受容した。
鼓動が加速する。反発する感覚、あらゆるものが自分の裏側から湧き出る気色の悪い感覚。
──あらゆるものが黒色に観測する。
ゼロは存在しないからゼロなのか、ゼロだから存在しないのか、存在しないからゼロなのか、どこかウロボロスのような感覚をぬぐうことができない。
世界に“穴”が存在する。どこまでも、どうしようもない虚が存在する。
これが“虚”なのだろうか。俺にはよくわからない。
それは自分自身かもしれない。
それは自分自身なのだろうか。
よくわからない。
“無”を理解することなどできない。
だから、わからない。わからないが正解なのだ。
◇
眼球に血液が流れ込む。どくどくと拍動を重ねていき、対極の心臓がより鼓動を繰り返す。
『見えないものが見える感覚がする』
そこら中に存在していいもの、存在してはいけないもの、存在の核となるもの、存在の核以外のもの。存在全てと存在以外。
「なんだこれ……」
光と闇以外に正解が存在しない。
「お、天音の対極パンチがきいたようだな!」
朱音は嬉々としながら、そう言葉を吐く。
そうして過るのは、天使の時間にて天音に食らった対極を抑える拳。あの時に、一瞬対極を落ち着かせることになった天音のパンチ。
対極の心臓は耳元まで鼓動を知らせてくる。どくどくと、自分の命を削るように、拍動を絶え間なく繰り返す。意識が加速する感覚がする。
「それで、なにか見えるものはあるか?」
「……よくわからない」
あらゆるものがシルエットに見える。天音のシルエット、朱音のシルエット、存在のシルエット。それぞれに核となるものが光って見える。
「対極の血流が脳を支配して、存在のすべてがお前の眼球に映し出されていると思うんだけどな」
「存在のすべて……」
そう言われると、納得できるところがある。
「お前には、いま私たちがどういう風に見えてる?」
「……白と、黒」
「何が白色に見える?」
「……鳩尾というか、心臓みたいなところが」
「なるほど……」
これが、存在だというのなら、存在という概念は心臓部に宿るのだろうか。俺の眼球に映し出されるすべての概念とは、これほどまでに限定的なものなのだろうか。
──まるで、存在の終わりを見せつけるような白色。どこまでも、命とははかないものだと知らせるように。
◇
「ここからは実践的な作戦についての内容を説明する」と、朱音は言った。
「環の心臓が活動した時、存在の概念すべてが環の眼球に映し出される。私たちはそれを利用して、アリクトエアルを探し出す」
「……ちょっと待ってくれ」
俺は言葉を出す。
「俺、そのたびに腹パンされなきゃいけないの?」
「……」
「……」
朱音と天音は二人呆れたような表情で俺を見つめる。
こいつ、それくらい受け入れられないのか、とそんな感情を含めているような気がする。
「まあ、腹パンだけが対処法ではない、とは思う」
朱音は言葉を更に付け足す。
「単純に環の心臓が通常以上に加速をすることができれば、同じような作用は起こせると思うんだよな。運動とかそのあたりをすればいいんじゃね?」
「……運動かぁ」
ここ最近身体を動かす機会が存在しないから、それをするくらいなら腹パンを受け入れた方が手っ取り早いような気もする。だが、一瞬の目からとらえるすべての状況がちかちかする感覚には慣れたくはない。
「それなら──」
天音は思いついたように言葉を吐く。
「前やったみたいに、自傷するのは?」
「……」
魔法教室でのことを思い出す。
意識を加速させるために、雪冬との模擬戦闘で自分の首を掻っ切った思い出。それでなくとも、魔法を使うために何度も自傷行為を行った記憶。
血液が不足する身体は、止め処なく鼓動を繰り返して、不足を補おうとする。そうして意識が加速するのだから、確かにそれは悪くないかもしれない。
「……それでいこうか」
その方が、魔法に対しての劣等感も、自分自身で埋められるような気がする。魔法と同じような行為だからこそ、俺はそれを受容した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
77
この作品の感想を投稿する
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる