【完】婚約破棄&処刑されて転生しましたけれど、家族と再会し仲間もできて幸せです。[ ご令嬢はいつでもオムニバス1〜5 ]

丹斗大巴

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第3部 変人令嬢のお陰で辺境編成は大激変! 周辺に生息しているメルヘンなもふもふたちよりも可愛いがすぎる新妻に、辺境伯の偏愛が大変です!

うちのこと、笑わへん?(1)

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「プッ、お姉様、結婚が決まったんですって? それもあの成り上がりのデコラム辺境伯! 

 プーックスクスッ! いいじゃない、泥遊びが大好きなお姉様にはもってこいの超ど田舎じゃないの!」



 そ、そんな言い方……。



「ベアトリス、そんなに笑うものじゃありませんよ。旦那様がいろいろ考えた結果なんですから。ねぇ、あなた」

「ああ、国内の騒乱が落ち着いた今、娘たちにはいい嫁ぎ先を見つけてやらねばならん。

 相手は内乱に乗じて名を上げた成り上がりの下級貴族の出。由緒ある我がヴィリーバ子爵家には相応しい縁組とは言えんが。

 まあ、それでもマーガレットをもらってくれるのだ。良しとしよう」

「ねえ、お父様、私の時にはもっとたくさんの持参金を積んで下さるわね? 嫁ぎ先で肩身の狭い思いをするのは嫌ですわ~」

「当然だとも、ベアトリス」

「私は婿養子をもらう立場だから気楽でいいわ! どこぞの馬とも知れない兵士上がりの辺境伯なんかじゃなければね」



 お、お姉様まで……。



「まあ、エリスったら! 旦那様がそんな婿殿をあなたに寄こすはずがありませんよ。ホホホ」 

「エリスより先に嫁に出すのはいささか外聞が悪いが、マーガレットはもう十四。それなりに自分の立ち場を理解しているはずだな。

 いいか、変人と曰く付きのお前をもらってくれるというのだ。デコラム辺境伯とはせいぜい仲良くやることだ。

 辺境地域の警戒網を一手に引き受けているという猛者だからな。どれほどの粗暴な男かは知らんが、まあ国王陛下には覚えがめでたいらしい。

 獰猛な熊のように恐ろしかろうが、暮らし向きがどれほど厳しかろうが、戻って来ようとなどとは考えるなよ。マーガレット、いいな?」

「そうよ、マーガレット。あなたのような無口でひとり遊びばかりにかまけて、誰とも上手に関われないような令嬢が出戻ったところで、この先いいご縁なんて一つもないのよ」



 は、はい……、お父様、お母様……。



「はーっ、せいせいした! こういってはなんですけれど、お姉様が片付いてよかったですわ!」

「ほんとうね! あなたの評判が私たち姉妹の縁談に障らないかと心配していたんだもの。がんばりなさいよ、マーガレット!」

「辺境の地でお幸せにね! お姉様の好きな獣や虫や、役にも立たない雑草がきっとた~っくさんありましてよ!」

「クスクスッ! いやねぇベアトリスったら!」

「あ~ら、本当のことですわ!」



 ……そ、そう、かも……。結婚は……不安……。……けど、新しい動物や植物にもっと会える、かも……。



 ***



「クリスチャン、待って! 本当に行くの!? 明日は花嫁がやってくるのよ?」

「申し訳ありません、母上! 東部の村に魔物が出たので、すぐに行かねばなりません」

「でも! 由緒ある家のご令嬢を招くのに、肝心の夫が家にいないなんて……!」

「ことは急ぐのです! もとより縁組のことは母上にお任せしてまいりましたが、私はどのような方がいらしても誠意を尽くすつもりです。

 それもこれも、このセントライト王国のデェマル山脈の平穏を守るため。

 子爵令嬢のことは頼みます、では!」



 待って、という母上の声を振り切って屋敷を飛び出した。

 整列する部下たちを見渡し、すかさず副団長を呼ぶ。



「ホルス、準備はいいか!」

「はい、デコラム団長! ……でも、本当によろしかったのですか? 若奥様が見えるというのに……」

「今は構ってられん、行くぞ!」

「はっ!」



 飛び乗った愛馬ロトの腹を蹴り、風が私の頬を撫でると、頭の中は魔物征伐のことで一色となった。

 まさか帰還した時、屋敷があのようなことになっていようとは、万に一つ思いもしなかった――。



 ***



「奥様。……奥様、バネット様」

「なあに、ノルタ……」

「そんなにご心配なさらなくても……」

「いいえ、相手はヴィリーバ子爵よ。……あの抜け目のない大狸。

 国が乱れたときには潤沢な資金にものを言わせて、あっという間に国外へ逃げ出し、復興の兆しがあれば儲け時と踏んで、根回しや商売にあちこち奔走していると聞くわ。

 悔しいけれど、名実の通ったヴィリーバ子爵に文句をつけられるようなことになったら、我が家の評判はがた落ちなのよ。

 万が一にも子爵のご令嬢を不敬に扱ったなんてことが噂が立ってごらんなさい。

 それ見たことか、デコラム家は礼儀も知らない野戦上がりの野犬だ、山猿だと罵られることになるのよ」

「でも……。あの、お噂では次女のマーガレット様は社交界でも奇人変人と言われているとか……。

 それにまだ姉のエリス様が婿も取っていないのに、十四歳での嫁入り。あちらもあちらで、相当訳ありのご様子ですけど……」

「そうね……。クリスチャンは今年で二十六。年齢や家格を考えると良縁とは言い難いわね。

 でも、武勲はあっても家格も資産も、後ろ盾もない辺境伯家に来てもいいと言って下さるようなご令嬢は少ないの。

 クリスチャンは仕事に忙しくて社交界には出ていられないし、かといってそろそろ身を固めなければ、辺境伯としての外聞が立たない。

 旦那様が生きていればもう少しやりようもあったのだけれど、平民同然に生まれてそのなりで生きてきた私にはいい伝手など見込めるはずもないわ。

 だからわかるわね? ヴィリーバ子爵家との縁談は我が家にとってはこれ以上ないお話なのよ」

「……潤沢な資金があるという割には、持参金の額が相場よりだいぶ低いようですが……」

「確かに……、下を見られているということは否めないわね。でも、それとこれとは話は別よ。

 ノルタ、どんなご令嬢が来ても、どんなことを言われても、何をされてもお願いだから堪えてちょうだい」

「私はいつだって、奥様と坊ちゃまの味方でございます。ですから……。

 とんだ高慢ちきでこんこんちきなご令嬢だったら、平手の一発くらいは飛び出てしまうかもしれませんね」

「わかったわ。飛び出る前にあなたを止めるのは私の役目ね……」



 バネット様が、はあとため息をついた。ご心配はもっともだけど。

 ヴィリーバ子爵。それが一体何だってのよ。

 国が乱れたとき、国境に噴出し凶暴化した魔物たちを制圧し続けて、国を守ってきたのは誰だと思ってるの。

 王都では飢えた民衆が暴徒化して貴族屋敷を襲って大変だったと聞いているけれど、田舎はもっと大変だった。

 それなのに、国が回復し始めてから外国からのこのこ帰ってきて、我が国の復興には我が子爵家の力が欠かせない、だなんて大きな顔しちゃってさ……!

 そんな子爵の娘だもの、どんな因業が来るか知れたもんじゃないわ。

 奥様とお坊ちゃまのために、私がうぅ~んと厳しく目を光らせておかなくっちゃ!

 ……と、息撒いていたんだけど――。



「わ、わ、私……は、ヴィリーバ子爵が次女……の……。

 マーガレット……と申し、ます……。

 ど、う、ぞ……、よ、し、な、に、お願い……、いた、しま、す……」


 その日、馬車から降りてきたマーガレット様が、扇子を手前に、たどたどしいご挨拶。

 だけど――、な……なんて、綺麗なお嬢様……。

 十四歳という話だけれど、お顔立ちがまるであどけなくて、もっと幼く見える。

 大いに肩透かしを食らったバネット様が気を取り直して、挨拶を返そうとほのかに息を吸った。

 バネット様、そのような優しいお顔……! まだお気を許すには早すぎますよ……!



「遠いところをよく来てくださったわ。こちらこそどうぞよろしくお願いしますね。

 無口な方だとは聞いていたけれど、そう……。こんな愛らしい方だとは、知りませんでしたわ」



 扇子越しに丸い目を何度か瞬くと……、ど……どうしてかしら。昔飼っていた猫のトトが脳裏に……。

 い、いやいやいや……! 油断は禁物!

 それ、これこそが、化けの皮かもしれないじゃないのっ。

 疑うことを思い出しかけていたとき、マーガレット様が再びゆっくりと口を開いた。

 え、なに……?

 扇子越しに見える大きな目が、なんだかやけに必死そう……。



「ふ……、ふ、つ、つ、か、者で、は、ござい、ます、が……。

 ど、どう、ぞ……、な、か、よ、く、して、くだ、さい……」



 そう言うとおずおずと扇子を下ろし、頬を染めて一礼した。

 顔を上げると、また必死そうな目で、バネット様の返事を待っている。

 え、ええ~……っ……!

 な、なに、この、可愛さ……!

 なんか、こんなこといったら怒られそうだけど……! ご主人様の指示を待つ犬みたい……!

 こ、これはいうなれば、そう、小動物系……!



「ふふっ、こちらこそ仲良くして欲しいわ。さあ、部屋に案内するわね。いらっしゃい」



 バ、バネット様――っ!

 もはやもらってきたばかりの仔犬でも見るように、心のガードゆるゆるじゃないですかっ!

 マーガレット様が白い肌にふっくら頬を染めて、バネット様におずおずとついて行く。

 う、うわぁ……。

 初めての場所に来て、不安と興味が入り乱れてる。

 まさに仔犬みたいな。

 白い仔犬……。まずい、可愛さで目が、目が曇る。

 バネット様とお坊ちゃまの分まで、私がしっかりしなくっちゃ! 

 ……と思っていたのに……。



「マーガレット、今日はピクニックをしましょう! 

 ノルタから聞いたわよ。あなた木々や花がお好きなんですって?」



 バネット様との朝食の席で、マーガレット様がさっと頬を染めた。

 嬉しそうに、こくり、と大きく頷く。



「うれしいわ、この領地のことを好きになってもらえそうで。ノルタ、厨房に行ってお弁当を作らせてちょうだい」

「かしこまりました。マーガレット様がお好きな物をお作りしたらいかがでしょうか」

「それはいいわね。マーガレットはなにが好きかしら?」

「……」



 マーガレット様が、困ったように目をうるうる……。

 う……っ、反則だわ、その可愛さ……!

 マーガレット様は無口な上に、どうやら病的なほどに内気なようで、会話に困ると度々こうして目を潤ませて黙り込んでしまう。

 うるうるうるうる……。こういう種類の動物がいたわよ、確か……。

 バネット様が気を取り直して言った。



「屋敷に来てまだ間もないものね。いいのよ、徐々に慣れて行ってくれれば。好きな物もそのうちに教えてね。あなたのこともっと知りたいわ」

 ――こっくり。

 バネット様の言葉に素直にうなづくマーガレット様。

 見ている限りだと、言いたいことはあるようだけれど、内気が邪魔をしてどうにも言えないみたいだわね……。

 もちろん来た日のように比較的喋ることはあるけれど、そういうときは必ず扇子を持って、ゆっくりと確かめるように話す。

 実は、こっそりマーガレット様の扇子を見たら、扇子の裏側にメモが挟んであって、まるで口上のように話す内容が書かれていた。

 書いて読み上げなければならないほどの内気って……。どんだけ~って思うけど……。

 でも、まだ十四だし、噂に聞くほどの奇人変人っていうほどでもないわよね。



「ピ、ピクニック……う、れ、し……」



 突然マーガレット様がつぶやくと、ぽっと頬を染めた。

 嬉しさと恥ずかしさとをめいっぱいに溜めて、期待のこもった眼差しをバネット様に向けている。

 ――はわぁ……っ。

 バネット様も私も同時にため息をついた。

 もはや、不遜な子爵家の出であろうと、マーガレット様を疑うまい。

 とりわけ娘が欲しかったバネット様は、もうデロンデロンだ。

 最近のバネット様の口癖はこう。



「はあ……。娘ができてこんなにうれしいことないわねぇ……」



 その後、お弁当籠を持って、屋敷からほど近い川辺に出かけた。

 屋敷の側とはいえ、一応魔物がいるかもしれない。

 だから、使用人の下男リントには弓、下女ルネには長刀と火おこし石を持たせている。

 そう、デコラム家に仕える使用人はなにかしら武器を使う。

 主を守り、自分を守らなければならないほど、このデコラム領は危険地帯だったのだ。

 最近はお坊ちゃまの休みのない大活躍のお陰で、以前よりはずっと落ち着いている。

 でも予断は許されない。

 私も靴の中にすぐ取り出せるように短剣を仕込んでいる……。



「ああ、マーガレット先に行かないで。離れすぎたら危ないわ」



 木々の間を嬉しそうに進んでいたマーガレット様が振り向いた。

 頬を染めて、目をキラキラと輝かせている。

 驚いたことに、マーガレット様は年頃のご令嬢が好むドレスや帽子や髪型には、ぜんぜん興味がない。

 その代わり、いつも身軽なドレスに日よけの大きなブルネットをつけて、庭や屋敷のあちこちを散策している。

 聞いてみたら、動物や植物が好きなんだと、いつものたどたどしい調子で教えてくれた。

 とすると、あの顔は……。



「マーガレット様、何か見つけたのですか?」



 すぐさま、こくりと大きな返事が返ってきた。

 マーガレット様が指さした先には、セミの抜け殻が木についたままそこにあるだけ。

 その場にいた全員が、きょとん。

 夏のさ中、蝉の抜け殻なんて、珍しくもなんともないのに……。

 でも、マーガレット様はうっとりと蝉の抜け殻を見つめている。

 あんまりにも長く眺めているので、バネット様がいよいよ口を開こうとしたその時。



「光が、透けて、綺麗……」



 そのとき、私も、はっとした。

 言われてみるまで、気が付きもしなかった。

 ただ、いつもの何の変哲もない蝉の抜け殻、そういう風にしか見ていなかったから。

 それなのに、マーガレット様の言葉を聞いた瞬間。

 光に透けた蝉の抜け殻が、まるで琥珀かべっ甲のように美しくきらめいていることに気がついた。

 自然界に起こる命の営みのすべて。

 生きて死んでいくものの、行く先と来る先。その片鱗が、そこで輝いていた。

 私たちが普段気にもとめないその瞬間にも、この世界には命は粛々と続き、常に輝いているのだと、その時はっきりと気がつかされたのだ。

 バネット様が、ほうっと息を吐く。



「本当だわ……。言われるまで、気が付かなかった。どうしてかしら。本当に、綺麗だわ……」



 ……そうなんだわ……。

 これが、マーガレット様が見ている世界。

 その場にいた全員が、初めて理解した瞬間だった。

 その後も、マーガレット様は川に反射する光や、草木の匂い、ふかふかな土の手触りや小さな虫を見つけるたびに、目をきらめかせて私たちに教えてくれた。

 知らない草木を見つけると、それを摘んでいつの間にかスカートの裾をいっぱいにしてしまうし、靴ばかりかドレスや手が汚れるのもいとわない。

 なるほど……。

 これは確かに変人と言われてしまうわね。それが年頃のお嬢様ならなおのこと。

 でも、こんなふうに自然を愛する心と、優しいまなざしを持った可愛らしいお嬢様が、他のどこにいるかしら。

 むしろ……。

 普通のお所様とは違うけれど、つんけんして香水の匂いをプンプンさせたお嬢様よりずっと好感が持てるわ。




「……こ、これは、も、持って、帰る……」

「わ、わかりましたって、マーガレット様! 俺がちゃんと持ち帰りますから手を洗ってください」

「じゅ、順、番……」

「大丈夫ですよ、マーガレット様。私とリントがちゃんと仕分けして運びますからね」



 まるで妹にするかのようにリントとルネまでもが、自然とを手伝っている。

 二人に挟まれて、こっくりと大きく頷いているマーガレット様。

 すかさずバネット様が川辺に連れて行って手を洗わせている。

 あらまあ、私の仕事がないじゃないの。

 それじゃあ……、少し早いけれどお弁当を広げましょうかね……!



「集めた植物をどうするの? マーガレット」

「…ず、図鑑に……」



 バネット様の問いにマーガレット様が短く答えた。



「図鑑……? もしかして、図鑑を作っているの?」



 こっくり――。

 深く頷くと、マーガレット様は再びサンドイッチを両手で持って、もぐもぐと始めた。

 ああ、こういうの見たことある~、リス、リス……!

 う~ん、見ているだけで癒される……!

 その場にいた四人が四人とも、マーガレット様を眺めてほのぼの……。

 ほのぼのどころか、気が緩みすぎていた。



「キイ」



 その鳴き声に気づいて見ると、広げたお弁当の傍らに、ワラビネズミが!

 額に赤い魔石をつけた、火炎魔法を使う初級の魔物。

 普段は大人しく個体はそれほど強くはないけれど、危機を感じると鳴き声を上げて群れを呼ぶ。

 しかもこのワラビネズミはまだ子ども。

 親を呼ばれる前に、始末しなければ……っ!

 配った目線を瞬時に理解したリントとルネ。勝負は一瞬だ。

 気配を殺して短刀に手をかけたその時。



「めっ」



 え……っ。

 マーガレット様がワラビネズミの子どもに向かって、窘めるように手を突き出していた。

 さらに、なんのこともなく抱き上げると、慣れた猫か犬かのようになでなでしている。

 い、いや、たしかに、ワラビネズミのもふもふはコートやマフラーとして人気も高いけども。

 いやいやいや、そうじゃなく!

 マーガレット様は食べかけのサンドイッチを咥えさせると、ワラビネズミの子どもを森の方へ向けた。



「森へお帰り」



 ――とてててて……。

 鳴き声を上げることもなく、ワラビネズミの子どもが森へ向かって去っていった。

 ちょ……、ちょっと今のって……。

 まさか、マーガレット様にはテイムの力が……!?



「マ、マーガレット、あ、あなた……っ」



 マーガレット様が、にこっと笑った。



「動物、かわいい……」



 い、いや~~~……っ、ど、動物じゃないけどね……!

 しかも、ワラビネズミの子どもより、はるかにマーガレット様の方が可愛いんだけどね!

 で、でも今の、普通、ありえないんだけどね……!

 でも、可愛いから、まあいっかぁ……!

 まあいっか……、なんて可愛さのあまりにあの日はスルーしちゃったけど。

 いやいや、これがなんとまあ!

 その日を境に、屋敷に頻繁に魔物が現れるようになってしまった!

 とはいえ、これまでのように凶暴ではなく、なんというか……、マーガレット様に会いに遊びに来るような感じで。

 マーガレット様自身は、犬猫馬鳩と同じ感覚でワラビネズミやオニビウサギや、ノビキツネやカエンツバメをあやしている。

 動物好きとは聞いていたけど……、これってもはや大魔導士レベルのテイムなんじゃ……?

 いや、そもそもテイム能力なんて、噂でしか聞いたことないから、実際マーガレット様がそうなのかどうか、屋敷の誰一人わからないんだけど。

 でもはっきりしているのは、マーガレット様がノビキツネに、めっ、をしてくれた日から鶏小屋が襲われることがなくなった。

 屋敷に住み着いていた猫のパット一家や、馬のボースとサム、牛のメレンと子牛のオラ、それから山羊のクックとブイも、みんなマーガレット様が好きみたい。

 いつの間にか厩番や使用人たちよりも懐いていて、マーガレット様に会えるのを毎朝喜んでいる。

 困ったわ……! 若奥様になる身だというのに、厩や牛小屋にまで平気で出入りするなんて……!

 ひとたび森に入れば、ワラビネズミやオニビウサギばかりか、リスや野兎や、鹿や猪までマーガレット様の後をついてきちゃうし、川に脚をつければ魚の方から寄ってくる。

 草原に出ればマーガレット様の周りに蝶が集まり、草花はいっせいに香り出す。

 ええ、ええ! 

 これは確かに、変人令嬢のほか何者でもありませんよ!



「ど、どうして、と、き、聞かれても……。動物や、植物、が、好き……」



 ……でっ、ですよね……!

 何度尋ねても、マーガレット様は同じことをたどたどしく答えるだけ。

 あんまり尋ねると、またうるうるした目で困ったように黙りこくってしまう。

 うう、気になる、気になるけど……。

 でも、可愛いから、まあいっかぁ……!




「最近、雌鶏が卵を産む量が増えたみたいね。リントとルネが言っていたわ」

「それも、マーガレット様のお陰ですかねぇ……」

「そうなの?」

「マーガレット様が鶏はこの草が好きみたいっていう草を与えてみてるらしいですよ」

「まあ……、マーガレットは動物の言葉でもわかるのかしら」

「どうなんでしょうね。リントはマーガレット様の手前では狩りがしずらくてしょうがないって嘆いてますよ」

「でも、鶏小屋や家畜小屋を襲われなくなったし、村でも田畑を動物や魔物に荒らされる被害がぐっと減ったと聞くわ」

「魔物も昔のように落ち着いてますしね。村の子どもがこないだ森でリンカーエルフを見たって大騒ぎしてました」

「あら、森にようやくエルフが戻ってきたの? セントライト王国もようやく安定してきたのね……」

「そういえば、奥様のご先祖様は昔、ニンフをお茶に招いたという言い伝えがあるとか」

「ええ、昔から、ニンフやエルフを招いた家には幸せが訪れると言われているのよ。

 そう、ご先祖様は大変苦労なさって土地を開墾したけれど、そのおかげで今やデコラム家は貴族の一員だもの」

「では、このお屋敷にもいつかリンカーエルフがお茶を飲みに来てくれるといいですねぇ」

「くすっ。そうね、マーガレットが呼び込んでくれないかしら」



 バネット様も初めは困惑していたけれど、魔物が大人しくマーガレット様の言うことを聞くように見えるので、最近ではもっぱら寛容になられている。

 そう、国が傾く前、デェマル山脈をはじめとした国境沿いは、魔物とは緩やかにつながって生きていた。

 自然の中で共に暮らす種族たち。

 魔法と言う不思議で時に危険な力を供えてはいるけれど、適切な距離と付き合い方を間違えなければ、動物や植物と同じ。

 同じ土地で暮らす仲間だ。

 魔物が穏やかになってきたということは、かつての安らぎがこの地域や国に訪れ始めているという事。

 動物や植物が大好きというマーガレット様がここに嫁いでいらしたのも、きっとその思し召しに違いない。

 お坊ちゃま、お坊ちゃまの並々ならぬ苦労のたまものですね……!

 ああ、早く帰ってきて下さい……!

 バネット様も私たちも、そして、マーガレット様もみんな首を長くしてお待ちですよ!
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