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プロローグ
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「お嬢様!! おはようの時間でございますよーッ!!」
大声とともに体を全力で揺さぶられて一気に目が覚める。同時に見ていたはずの夢の内容も吹き飛び、まどろむ暇すらなく私は上半身を起こした。犯人はわかっている。
「……おはよう、ドクトル」
「おはようございます! クランお嬢様!」
私の執事、ドクトル。明朗闊達で声が大きければ仕草も大きい男。そこらの人々を余裕で見下ろす長身に引き締まった筋肉をまとう、見てくれだけは良いが中身が全くその色男っぷりに追いついていない厄介な奴だ。
「本日のご予定は、釜をぶん回すやつと庭でぴよぴよするやつと実践練習でございます!」
「魔法薬学と体力育成と実践ね……。なんで実践練習だけはちゃんと覚えるのよ……」
ご覧の通り、言葉遣いもかなりおかしい。執事とは名ばかり。
この学園の門番の方がまだマトモな話し方ができるし、お茶だって数倍上手く淹れられるだろう。唯一ドクトルの方が秀でているものといえば、それこそ戦闘技能くらいだ。
クローゼットの前で制服にブラシをかけるドクトルを横目で見て深くため息を吐く。
今年で十六になる私は二週間前にこのユグドラシル学園に入学した。
国内最高峰の魔術師養成所であるこの場所で教養を得られるのはこれ以上ない幸運だが、テオドール家の一人娘である私――クラン・テオドールにはそう気楽にしていられない事情がある。
そもそもこの学園に入学するのはほとんどが上流階級の紳士淑女だ。ベテランの執事を連れている生徒も珍しくなく、一個人の行いがその家の評判に繋がるのは暗黙の了解。それは私にも逃れようのない事実だ。
テオドール家は高品質の魔法石を売る宝石商の家系。
元々はただの炭鉱夫だったが、およそ人では保有しきれぬほどの魔力を溜め込んだ宝石――魔法石を見つけたことで成り上がり、あっという間に貴族の仲間入り。
魔法石の発見があって魔法や魔術の研究も大幅に前進し、今や教科書にまで名前が載っている。
そんな家の娘である私がなにか粗相をしてみろ。考えたくもない結果になる。
ではなぜそんなに重要な立ち位置にいるはずの私がこんな不出来な執事を連れているのか。理由は二つ。
一つは私が正式な血統の娘ではない、現当主である父の火遊びでできた娼婦の娘であるということ。もう一つは。
「クランお嬢様」
「な、んっ……!」
少し乾燥した唇の感触の後に、ずるりと長く分厚い舌が口の中に入ってくる。
それは好き勝手に動き回り、反射的に逃げようとした後頭部は大きな手で押さえつけられた。妙なくすぐったさと息苦しさにくらくらしながらそれを受け入れていると、たっぷり蹂躙された後にようやく顔が離れて崩れ落ちそうになる腰を支えられる。
「本日もはちゃめちゃにウマい魔力でございました!」
――この、主人から魔力を吸って生きる魔族と契約してしまったからだ。
大声とともに体を全力で揺さぶられて一気に目が覚める。同時に見ていたはずの夢の内容も吹き飛び、まどろむ暇すらなく私は上半身を起こした。犯人はわかっている。
「……おはよう、ドクトル」
「おはようございます! クランお嬢様!」
私の執事、ドクトル。明朗闊達で声が大きければ仕草も大きい男。そこらの人々を余裕で見下ろす長身に引き締まった筋肉をまとう、見てくれだけは良いが中身が全くその色男っぷりに追いついていない厄介な奴だ。
「本日のご予定は、釜をぶん回すやつと庭でぴよぴよするやつと実践練習でございます!」
「魔法薬学と体力育成と実践ね……。なんで実践練習だけはちゃんと覚えるのよ……」
ご覧の通り、言葉遣いもかなりおかしい。執事とは名ばかり。
この学園の門番の方がまだマトモな話し方ができるし、お茶だって数倍上手く淹れられるだろう。唯一ドクトルの方が秀でているものといえば、それこそ戦闘技能くらいだ。
クローゼットの前で制服にブラシをかけるドクトルを横目で見て深くため息を吐く。
今年で十六になる私は二週間前にこのユグドラシル学園に入学した。
国内最高峰の魔術師養成所であるこの場所で教養を得られるのはこれ以上ない幸運だが、テオドール家の一人娘である私――クラン・テオドールにはそう気楽にしていられない事情がある。
そもそもこの学園に入学するのはほとんどが上流階級の紳士淑女だ。ベテランの執事を連れている生徒も珍しくなく、一個人の行いがその家の評判に繋がるのは暗黙の了解。それは私にも逃れようのない事実だ。
テオドール家は高品質の魔法石を売る宝石商の家系。
元々はただの炭鉱夫だったが、およそ人では保有しきれぬほどの魔力を溜め込んだ宝石――魔法石を見つけたことで成り上がり、あっという間に貴族の仲間入り。
魔法石の発見があって魔法や魔術の研究も大幅に前進し、今や教科書にまで名前が載っている。
そんな家の娘である私がなにか粗相をしてみろ。考えたくもない結果になる。
ではなぜそんなに重要な立ち位置にいるはずの私がこんな不出来な執事を連れているのか。理由は二つ。
一つは私が正式な血統の娘ではない、現当主である父の火遊びでできた娼婦の娘であるということ。もう一つは。
「クランお嬢様」
「な、んっ……!」
少し乾燥した唇の感触の後に、ずるりと長く分厚い舌が口の中に入ってくる。
それは好き勝手に動き回り、反射的に逃げようとした後頭部は大きな手で押さえつけられた。妙なくすぐったさと息苦しさにくらくらしながらそれを受け入れていると、たっぷり蹂躙された後にようやく顔が離れて崩れ落ちそうになる腰を支えられる。
「本日もはちゃめちゃにウマい魔力でございました!」
――この、主人から魔力を吸って生きる魔族と契約してしまったからだ。
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