陰陽師盲愛奇譚

彩月野生

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四章【焦がれを抱きて】

二話

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「英心殿、こちらで休まれよ」
「す、すまない」
「なんの。随分と顔色が悪い。まずは眠られたほうが良い」 

 そうは言われても、泰正が気がかりでとても寝る気になどなれない。
 意識が朦朧としてはいたが、泰正があのふざけた男によって、異空間に閉じ込められたのは理解している。

 晴明に頼み込み、何があったのかを訊いてもらう事にした。
 空腹は覚えないが、喉の乾きがひどい。
 察した男子の式神から、水で満たされた竹筒を手渡され、勢いよく飲み干す。
 軽くむせながらも永響について、泰正が捕らわれた事実について語る。

 晴明は神妙な面持ちで耳を傾け、息を吐くと声をかけてきた。

「私に考えがある」
「はい」
「道満、盗み聞きしているならば入って来い。お前にも協力してもらおう」

 呼びかけに答えた道満が、戸口を開けて顔を出す。
 眉間に皺を寄せているが、どうやら断りはしないらしい。

 晴明から話された術について、英心はいささか複雑な心境となった。
 泰正をすぐに救い出さず、気配を消して様子を伺えというのだ。

 英心は納得できず口をとがらせる。

「何故だ? 泰正はあんな得体のしれぬ男の傍にいるのだぞ!」
「おや。嫉妬かな微笑ましい」
「んなっふ、ふざけた事を!」
「はははっ」

 英心がついむきになると、晴明はわざとらしく笑い、道満はいやらしく笑う。

 ――ま、まったく……! かまっていられん!  

 ため息混じりに語気を強めて吐き捨てる。

「晴明殿の話す、その方法とやらを早く教えてくれ」
「そうだなあ……」

 そっと片手を翳した晴明の手に、いつの間にか茶色の衣が乗っていた。
 それを、ふわりと頭から被せられる。
 何やらくすぐったくて、鼻がむず痒い。

 ――動物の毛でできているのか……?

 一体なんの毛であろうか。
 晴明は微笑を浮かべるだけで、答えてはくれなかった。

 結局、仮眠をとった後に、晴明によって開かれた異空間に渡る流れとなる。
 巨大な鏡から異空間に繋がるという光景は、なかなかに幻想的であった。

 言われた通りに衣を頭から被り、無言で晴明と道満に視線を送ってから、鏡に向かって足を踏み入れた。

 ――決して声を出さず、息をひそめ、様子を見守ること。

 英心の心身が限界になる前に己の鏡を使って、異空間から晴明に合図を送り、引きずり出してもらう。

 ――よし。

 異空間に足をつけた英心は、目の前の光景に口をあんぐりと開いた。

 ――ガラクタの、山。

 先には、壊れた鳥居が見える。
 泰正を思い、鳥居の方角へいると感じて歩を進めた。

 程なくして、建物が見えた。
 立派な屋敷が、暗闇にぽっかりと浮かび上がり、淡く光っている。
 門は開け放たれており、壊れていた。

 英心は警戒しつつ、門をくぐり、泰正を捜し始めた。


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