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2不愉快な食事
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獣人の国へやって来て数日経つが、生贄なのに好待遇を受けており、拍子抜けしている。
生贄らしい仕打ちと言えば、皮の首輪をつけられているくらいだ。
もっとも、逃げ出せば、息の根が止まる程の力で締め付けられる代物だが。
他には、規則正しい時間で行動を制限されており、交代制で衛兵が部屋にやって来て確認していく。
与えられた部屋は、祖国の自室よりも倍の広さがあり、部屋に通された日は驚いたものだが、彼ら獣人が使う部屋ともなれば、当然の面積なのかも知れない。
窓から入り込む陽光が強すぎて、厚いカーテンを通しても、目が痛いと感じて手の甲で目元を覆う。
この城が山頂にある所為だろう。
日差しの中で動き回るのは好きなのだが、目を焼きそうな程の光は苦手だ。
ふいに部屋の扉を叩く音が耳に届く。
寝台から降りて「起きている」と答えると、素っ気なく「王がお待ちだ」と返されて肩を竦める。
「着替えが終わったら食堂に行く」
そう伝えると、早速準備に取りかかった。
白のブラウスを着込み、ゆったりと広がっている袖に腕を通す。
下は黒いボトムスを身につけ、革靴を履くと鏡を見て身なりを整える。
祖国に居た頃は、正装を身に纏う事が多かったので、一人では時間がかかりすぎるのもあり、従者に手伝って貰う事も多かった。
懐かしさに口元が緩む。
生贄が正装をする必要もないだろうと考えて、簡素な衣装で獣人王の前に出ていたのだが、瞳を細めてため息を吐かれる。
百人は座れるであろう、広大な食堂の端の席で、斜めに相対して食事をしているので、不機嫌そうな様子は手に取るように分かった。
視線を向けて嫌味の一つでも言ってやる。
「もっと生贄らしく、ぼろぼろの服を着た方が良かったか?」
サビールはもう一度ため息を吐くと、顔を振って呆れたような声を出す。
「逆だ。もっと煌びやかな正装でいろ」
「は? どうせ弄んで殺す相手に、何故そんな事を求める?」
「我はオマエをもっと知らなければならない。オマエを愛するまでは殺さない」
「……は?」
今、このケダモノはなんと言った?
「愛する、だと?」
その時、食堂の扉が開く音が耳に届く。
音の方へ顔を向けると、雌猫の獣人が数人、一列になって歩いて来た。
その手は銀の蓋がされた皿を持っている。次々に目の前に並べられる皿から蓋を取られると、色とりどりの料理の香りが鼻腔を刺激した。
獣人達の味覚は想像通り、辛い物を好むようだが、香辛料を効かせた味付けだったので、人間であるフリオにも違和感なく食べれたのが幸いだ。
始めて料理を前にした時は、嫌味で「もっと原始的で丸焼きでも食べているのかと思っていた」どと吐き捨てたが、サビールは顔色一つ変えず「オマエの口に合えばいいが」と言ってのけたのを思い出す。
「さあ、祈りを捧げよう」
「……」
この国の礼儀作法として、食事など決まった時間には、民の平和と国の繁栄を祈るのが習慣らしく、否応なしに教えられて強制的に祈らされた。
祈りを捧げてやっと料理に手をつけるが、食事を楽しむ気になどなれず、空腹も感じない。
胸中は常に、弟を奪った獣人王――サビールへの憎悪でいっぱいなのだから。
フォークとナイフを使って、鶏肉のソテーを切り、一切れ頬張るが、それ以上は食が進まず、豆と野菜のスープや、ミルク入りのパンを眺めて手を止める。
サビールの視線を感じて視線を泳がせた。
「オマエの食の細さは異常だぞ?」
「……食べる気にならない」
「何故だ?」
「……」
少し考えれば分かるだろう――身内の仇が目の前にいるのに、まともに対応してやっているだけ有りがたいと思え……!
怒りを胸の内に押し込め、取り繕うことがどれ程苦しいことなのか、このケダモノにはわかるまい。
食事は終わりだ。
フリオは席を立つと、サビールの隣へ歩を進める。
目に力を込めて見据えて言い捨てた。
「茶番は終わりだ。さっさとやることをやって、俺を孕ませろ!」
「そんなに我と交わりたいのか? フリオよ」
微笑を浮かべるケダモノが手首を掴み、勢いよく立ち上がった。
生贄らしい仕打ちと言えば、皮の首輪をつけられているくらいだ。
もっとも、逃げ出せば、息の根が止まる程の力で締め付けられる代物だが。
他には、規則正しい時間で行動を制限されており、交代制で衛兵が部屋にやって来て確認していく。
与えられた部屋は、祖国の自室よりも倍の広さがあり、部屋に通された日は驚いたものだが、彼ら獣人が使う部屋ともなれば、当然の面積なのかも知れない。
窓から入り込む陽光が強すぎて、厚いカーテンを通しても、目が痛いと感じて手の甲で目元を覆う。
この城が山頂にある所為だろう。
日差しの中で動き回るのは好きなのだが、目を焼きそうな程の光は苦手だ。
ふいに部屋の扉を叩く音が耳に届く。
寝台から降りて「起きている」と答えると、素っ気なく「王がお待ちだ」と返されて肩を竦める。
「着替えが終わったら食堂に行く」
そう伝えると、早速準備に取りかかった。
白のブラウスを着込み、ゆったりと広がっている袖に腕を通す。
下は黒いボトムスを身につけ、革靴を履くと鏡を見て身なりを整える。
祖国に居た頃は、正装を身に纏う事が多かったので、一人では時間がかかりすぎるのもあり、従者に手伝って貰う事も多かった。
懐かしさに口元が緩む。
生贄が正装をする必要もないだろうと考えて、簡素な衣装で獣人王の前に出ていたのだが、瞳を細めてため息を吐かれる。
百人は座れるであろう、広大な食堂の端の席で、斜めに相対して食事をしているので、不機嫌そうな様子は手に取るように分かった。
視線を向けて嫌味の一つでも言ってやる。
「もっと生贄らしく、ぼろぼろの服を着た方が良かったか?」
サビールはもう一度ため息を吐くと、顔を振って呆れたような声を出す。
「逆だ。もっと煌びやかな正装でいろ」
「は? どうせ弄んで殺す相手に、何故そんな事を求める?」
「我はオマエをもっと知らなければならない。オマエを愛するまでは殺さない」
「……は?」
今、このケダモノはなんと言った?
「愛する、だと?」
その時、食堂の扉が開く音が耳に届く。
音の方へ顔を向けると、雌猫の獣人が数人、一列になって歩いて来た。
その手は銀の蓋がされた皿を持っている。次々に目の前に並べられる皿から蓋を取られると、色とりどりの料理の香りが鼻腔を刺激した。
獣人達の味覚は想像通り、辛い物を好むようだが、香辛料を効かせた味付けだったので、人間であるフリオにも違和感なく食べれたのが幸いだ。
始めて料理を前にした時は、嫌味で「もっと原始的で丸焼きでも食べているのかと思っていた」どと吐き捨てたが、サビールは顔色一つ変えず「オマエの口に合えばいいが」と言ってのけたのを思い出す。
「さあ、祈りを捧げよう」
「……」
この国の礼儀作法として、食事など決まった時間には、民の平和と国の繁栄を祈るのが習慣らしく、否応なしに教えられて強制的に祈らされた。
祈りを捧げてやっと料理に手をつけるが、食事を楽しむ気になどなれず、空腹も感じない。
胸中は常に、弟を奪った獣人王――サビールへの憎悪でいっぱいなのだから。
フォークとナイフを使って、鶏肉のソテーを切り、一切れ頬張るが、それ以上は食が進まず、豆と野菜のスープや、ミルク入りのパンを眺めて手を止める。
サビールの視線を感じて視線を泳がせた。
「オマエの食の細さは異常だぞ?」
「……食べる気にならない」
「何故だ?」
「……」
少し考えれば分かるだろう――身内の仇が目の前にいるのに、まともに対応してやっているだけ有りがたいと思え……!
怒りを胸の内に押し込め、取り繕うことがどれ程苦しいことなのか、このケダモノにはわかるまい。
食事は終わりだ。
フリオは席を立つと、サビールの隣へ歩を進める。
目に力を込めて見据えて言い捨てた。
「茶番は終わりだ。さっさとやることをやって、俺を孕ませろ!」
「そんなに我と交わりたいのか? フリオよ」
微笑を浮かべるケダモノが手首を掴み、勢いよく立ち上がった。
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