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第一章<癒やしを求める騎士と異世界男子>
竜人族の王
しおりを挟む明け方、事態は急変した。
どこからともなく咆吼が聞こえてきて、俺もヴァレオン様も飛び起きた。
まだ夜明け前で、空は暗い。
激しく鳴いているのは、騎士のパートナーである竜達だった。
竜の何体かはすでに空に飛び立ち、炎や水、風を巻き起こして戦っているようだ。
ヴァレオン様は俺に隠れるように告げると、ジウスの元へと駆けて行く。
「ジウス! 何があった!?」
『竜人どもが攻撃してきやがたんだ、今上で応戦してる』
「分かった! 私達も行こう!」
「ヴァレオン様あ!!」
「ハルキは城の中へ隠れているんだ!!」
――気をつけて下さい!!
という俺の言葉は、轟音と強風でかき消された。
すぐ傍で竜人との戦いが繰り広げられている。
俺がこの世界に来た時は、遠くにいた竜人が、こんなに間近に……!
〝明らかにお前を狙っているのだろう〟
陛下の声が脳裏に蘇って、恐怖で身体が震えるのが分かる。
叫びそうになるのを止めたくて、俺は思わず城の中を駆けて行った。
上に行って、少しでもヴァレオン様の姿を見ていたいと思った。
本当は傍にいて力になりたいのに。
あいつらに狙われている俺が傍にいると、足でまといになるのは分かってる。
でも、ヴァレオン様が心配で、ジッとなんてしてられない。
俺は見つけた階段を上に向かってひたすら駆けて行った。
息切れがして、とうとう足がもつれて転びかけた時、やっと開けた場所に辿り着いて、安堵する。
「ヴァレオン様」
空のどこにいるんだろう――
「貴様が異世界からやって来た者か?」
「――え」
聞き慣れない低い声に硬直する。
羽ばたく音と気配が近づいてくるのに気付いて、咄嗟に逃げ出すが遅かった。
「うわあああ!?」
ものすごい力で胴体を掴まれて、何かに持って行かれた。
城がどんどん遠くなっていく――!!
竜と竜人の戦う音が耳をつんざき、強風にあおられて目をあけていられない。
「ハルキ――!!」
――ヴァレオン様の声!?
俺は必死に目をあけようとしたけど、うまくあけられない。
口もあけられなくて声がでない。
ヴァレオン様を呼べない。
――嘘だ、俺、このままヴァレオン様と二度と会えないのか……!?
俺を掴まえた奴が高笑いをする声が聞こえた。
もう分かってる。俺は、竜人に捕まってしまったんだ。
あんな分かりやすい所にやって来たから、見張られていたんだ。
ごめんなさい、ヴァレオン様。
せめて早く戦いが終わってくれればと祈る事しかできない。
気が動転して暴れる気力もなくて、俺は大人しく運ばれるしかなかった。
しばらく飛翔していたけど、俺は気を失ってしまったようで、頬を叩かれる衝撃で目を覚ます。
「いって……」
「やっと起きたか。異世界から来た、神の使いよ」
「……あんたは」
赤い長髪、金色の目。
筋骨隆々とした威圧的な男で、竜の羽根が背中から生えている。
間違いない、このでかい男は、竜人だ!!
俺を連れ去った張本人……。
赤髪の竜人は腕を組むと、声を張り上げて名乗った。
「俺はアルトゥール・レル・オッポルツァー、竜人族を統べる者だ」
「え……じゃあ」
王様って事だ。
俺、竜人族のそんな偉い奴に攫われたのか!?
起き上がろうとして、縛られている事に気付く。
両腕が背中で縛られている。
仕方なく顔だけ向けてしゃべり続けた。
「俺をどうするつもりだ!?」
「我ら竜人族にその力をつかってもらう」
「!?」
どういう意味だと口に出す前に、身体を持ち上げられてまたどこかに連れて行かれる。
足をばたばたさせて、わめいても無視されて、とうとう大きな部屋に入ってしまった。
突然放り投げられて、身体が何かに当たって跳ねる。
もしかして、ベッド!?
「あ……」
「まずは、身体を隅々まで調べさせてもらうぞ」
両手を縛られている俺は、為す術もなく、服を剥ぎ取られてしまった。
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