焔の龍刃

彩月野生

文字の大きさ
7 / 81
第一章【スサノオの童子】

第7話〈ある事実〉

しおりを挟む
 日を跨いだ頃、月折夕都のアパートの部屋にて。
 貴一は、神無殻の二人と室内を確認していた。
 これといって目新しいものは見つからず、眉をひそめた司東に注目する。
 実は何を探しているか、いまいち分からなかったのだが、月夜からは、気になるものがあれば声をかけるように言われたので、否応なしに従っていたのだ。

 司東が月夜に向き直り顔を振る。
 月夜は顎に手を当てて俯いた。

「やはり、こんゆうちゃんは、彼らに攫われたのでしょうね」

 顔を曇らせた様子を見つめていた貴一は、こんゆうというのは、夕都の愛犬であると理解して心配したが、首を傾げつつ尋ねる。

「あの、どうして犬を攫うんですか? それに、あの子は部屋を荒らした犯人と関わりがあるのでしょうか?」

 貴一の質問に対して、二人が顔を見合わせて頷きあう。
 荒れた部屋のドアをしっかり施錠した上で、司東が貴一をソファに座らせて、見下ろされる形となる。
 隣には月夜が並ぶ。二人の身長差は大人と子供といった風体なために、傍から見るとなんとも和む。
 二人が真面目な顔をしていなければ、うっかり笑いそうだ。
 貴一は顔を振り、咳払いをしてから居住まいを正した。
 祖父に厳しく躾られたのもあり、おふざけは、顔にはおくびにもでていないだろう。

 司東が神妙な面持ちで口を開いた。

「月折夕都の部屋を荒らして、愛犬を攫ったのは、恐らく冨田の差金だろう」
「え? どうして……」

 何故、冨田が夕都を狙うのだろうか。
 まさか愛犬を攫ったのは、夕都を脅すつもりで……視線を彷徨わせていると、月夜になげかけられる。

「貴一くん、夕都さんの事は知ってますよね」

 その口ぶりには、確信が込められていたので、素直に頷いた。
 まだ貴一が中学生の時に、神田明神でなんどか見かけていた。
 その時に一緒だったのが、数人の子供達と……司東だったのだ。

 貴一は司東を見据える。
 神無殻と佐伯一族は縁深いために、祖父も顔見知りである。
 茉乃と逃げていた際に、神田明神でよそよそしくしていたのは、夕都の様子を訝しんでいたからだ。
 司東を知らない様子だったので、記憶をなくしているのだと悟った。
 貴一は、夕都とは顔を合わせたのことはないので、知らないと言われても不思議ではない。

 ――司東さんと、夕都さん、仲良さそうだったのに。

 押し黙るしかなくて、冷や汗が背中を伝うのを感じる。
 月夜が言葉を続けた。

「実は、こんゆうちゃんは、私達から夕都さんに渡るように仕向けたんです」
「え?」
「首輪には、小型カメラをしかけている」
「はい?」

 月夜と司東に交互に説明されるが、その内容に声を上げてしまう。
 目を見開いて憤った。

「犯罪ですよ!?」

 堂々と盗撮をしている事実を、良い大人に宣言されてしまい、戸惑うのは仕方ないだろう。
 貴一の荒い語気を聞いた二人は、正反対の反応を示す。

「奴を守る為だ、問題はない」
「まあ確かに。あまり良くはないですよね」

 片方は泰然として悪びれず、片方は顔を赤らめて舌を出す。
 性格の違いが如実に出た二人に対して、小さく唸る。

 ――人を守るために盗撮せざるおえないって?

 どのような状況なのかと思考を巡らせる貴一に、さらに司東の告げた言葉が疑問を抱かせた。

「夕都と冨田には、因縁がある」
「因縁?」

 貴一は、司東を見上げて口を開いて固まる。
 脳裏には、かつての夕都と、あの子供達が蘇り、その子供の一人が、先程シャワーで司東を攻撃していた子供と似ていると認識した。
 ある予感に鼓動が早まる。
 思わずあっと声を上げた。
 合点がいった貴一に、月夜が厳しい顔つきで言った。

「夕都さんが一緒にいたあの子は、冨田氏に狙われているんです、それに、茉乃さんのお兄さんも関わっていると思います」
「……茉乃さんの、お兄さんも」

 貴一は瞳を伏せた。
 またしても、茉乃の兄がからんでいる。
 その事実に、唇を噛み締めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...