報酬はカラダで、

有永

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Chapter8: クレイモアの剣士

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「……指名同行する際は男性冒険者限定。依頼完遂後にその同行者に抱いてもらえれば、自分は報酬は要らない、とな?」

エリファスは、依頼票を手に取りながら、受付の若い男性職員――ディスファル――に聞き返した。
次に受けようとしていた、森奥に巣くうゴブリンキング討伐の依頼は、強力な火力と広範囲制圧が可能な魔法師ラギアの存在が不可欠だ。
戦闘特化の大剣士ジェラーグである俺一人では、取りこぼしなく殲滅するのは難しい。そこで、ギルドで提供されている「指名同行依頼」の中から、評判の良い魔法師を探し、依頼したわけだが…。

「はい。その通りでございます。セシル様という方で、職業は虹魔法師パルフェです」


虹魔法師パルフェ。地水火風雷光闇、全系統の魔法を操る賢者に等しい希少職だ。この世界で何人いるかどうかの存在である。


「パルフェか…。全属性魔法をマスターしているはずの希少職種なのに、パーティーには無所属で、指名同行をメインで活動されているのか」

「はい。細々と単独依頼をこなしながら、この特殊な条件付きの指名同行を活動の主軸にされています。ギルドの私達から見ても、彼は眉目秀麗で、言葉遣いも穏やかな方なのですが……。指名同行の希望内容が内容ですので、あまり指名されることはございません」

ディスファルも苦笑いを通り越し、困惑の色を顔に浮かべている。冒険者が要求するにしては、あまりにも世俗的で、しかも奇妙な条件だ。

「ギルドランクはAです。ソロでこのランクを維持していることからも、実力は折り紙付きかと。報酬をお約束していただければ、もちろん同行していただけますよ」

「わかった。その条件で話を進めてくれ」

エリファスは、依頼票をカウンターに叩きつけるように置いた。報酬なし、その代わり依頼主と肉体を交わす——、というセシルの性的嗜好を、この冒険者が多いギルドの受付で、まるで公開求人のように晒している事実に、逆に興味を抱いた。この男は一体何者だ?

「ふむ。討伐前に一度会ってみたいな。可能か?」

エリファスは、長身をさらにかがめるようにしてディスファルに問う。腰まで届く、漆黒の長髪が、オールバックにされた生え際から、流れるように背中を滑り落ちる。その威圧的なバルク体型と、Bランク冒険者としての実力は、ギルド職員に緊張感を与えるには十分だった。
ディスファルは手元の書類をパラパラと捲る。

「セシル様は……、ちょうど今、依頼報告を終えられたところですので……、VIPルームにいらっしゃいますね。少々お待ち下さい」

ディスファルは立ち上がり、カウンターの奥へと消えていった。


案内されたVIPルームは、依頼主と高ランク冒険者が重要な交渉を行うための、静謐で豪華な空間だった。重厚な扉を開け、エリファスが中に足を踏み入れると、一人の青年が穏やかに腰掛けていた。青年はエリファスに気づくと立ち上がり軽く会釈をする。
それが、虹魔法師セシルだった。

「初めまして。セシルです」

セシルの声は、予想に反して軽やかで親しみやすい。しかし、その声が響く部屋の空気は、彼が纏う異質な雰囲気によって一瞬で張り詰める。

セシルの容姿は、ディスファルが評した通り眉目秀麗を遥かに超えていた。
端整すぎるほどの顔立ち。ルーズに伸ばされたブラウンのショートヘアの下、濃い青の瞳がエリファスを真っ直ぐに見つめ返す。身長は185センチと、エリファスに比べればやや低いが、贅肉が一切ないスリムな長身は、一見すれば役者の様な優美さを見せている。
そして、彼の服装。胸元まで大きく開けた純白のドレスシャツは、彼がノーインナーであることを隠さない。完璧にボディラインを強調する黒のタイトレザーパンツは、その細い脚を際立たせる。両肩から腰にかけてのハーネスが、かえって身体の無駄のない美しさを強調し、右腰に下げたナイフが、戦闘職としての彼の側面を物語っていた。

エリファスは、そのあまりにも完成された美しさと、露出度の高い奇抜な出立ちに、しばし言葉を失った。

『なんだ、この男は。まるで、神殿の彫像がそのまま抜け出してきたようだ……しかも、その格好は、まるで夜の高級娼館から出てきたかのようだな』

エリファスの視線に動じることなく、セシルはにっこりと微笑んだ。その笑みは、周囲の空気を和ませるが、同時にエリファスには、相手が何層もの仮面を被っているかのような、深い底知れなさを感じさせた。

「俺が、エリファスだ。単刀直入に聞くが、君の指名同行の条件は、本当に依頼報酬の代わりとして、肉体を交わすことなのか?」

エリファスは、自らの巨根がこの美青年を相手にどこまで満足させられるか、という下世話な期待と、この特異な条件を課すパルフェの背景への探究心から、確認を促した。

セシルはエリファスに向かって一歩踏み出した。
 
「はい、その通りです。激しく抱いていただき、種を注いでいただければ」

セシルの青い瞳が、エリファスの全身を舐めるように上から下まで見つめ、その瞳が妖しく潤んだ。彼の視線は、エリファスの分厚い胸板、隆起した腕の筋肉、そして腰元、ちょうど股間に意識が集中する位置で、ぴたりと止まった。

「…君、俺のサイズがわかっていて言っているのか?」

エリファスは、意図せず自身の股間を庇うように腰を引いた。セシルの視線が、男の誇りを寸分違わず見抜いているような錯覚に陥った。バルク体型のエリファスは、これまで相手を圧倒する自信があったが、この美貌の魔法師を前にして、初めて一抹の不安を覚えた。

「大きいの、大好きですね。貴方くらいのをお持ちの男性が特に。遅漏だと尚燃えます。掘られるのが好きなので」

セシルは微笑み、視線でエリファスの股間を執拗に撫で上げた。彼は、自分の快楽のためだけに、命懸けの依頼を報酬なしでこなすことを厭わない。その狂気的で退廃的な美しさに、エリファスの内部で何かが爆発した。

「ふ、面白い。君はとんでもない男だな、わかった。指名同行よろしく頼む。ゴブリンキング討伐次第、全力で君の期待に応えよう。報酬以上の快楽を、必ず提供してやる」

エリファスは、獰猛な笑みを浮かべた。彼の黒い瞳には、すでに戦場と、その後の夜の熱狂が映っていた。彼は一歩踏み出し、セシルの顎を鷲掴みにした。

「ただし、一つだけ条件がある」

セシルの唇が、彼の指の圧力でわずかに歪む。

「……何でしょう?」

「討伐後の『報酬』だが、俺が飽きるまで、君の指名同行の依頼主は俺が独占する。その間、君の報酬は、俺の種で満たされることだけとする。いいか?」

セシルの目が驚きに見開かれるが、すぐに穏やかな眼差しに戻る。

「俺の体は俺のものです。貴方がもし、俺を満足させる事ができたなら、いいですよ」

セシルの瞳が、まるでエリファスの本質を見抜くように細められた。それは、単なる承諾ではなく、エリファスへの挑戦状だった。






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