婚約破棄も断罪もザマァもありませんが

クルットル

文字の大きさ
2 / 15

悪役令嬢と対面しました

しおりを挟む
 そんなわけで、私はエヴァの助けを借りつつも、姉である王妃オフィーリエの計らいでティアーナ様とお会いできることになりました。
 なぜか王宮で。
 私は姉に「できれば二人きりでお話がしたい」とお願いしたのですが、あのおっとりお姉さまによれば、「公爵令嬢からのご希望で、王宮の一室をお貸しするだけよぉ?」とのこと。
 オフィーリエ姉様や現国王であるグランドール様、その他の王家の方々が立ち会う、というわけではないらしい。
 ティアーナ様から直接書状が届き、それには「是非従者の方もお連れしてください」とあった。
 これはまあ……向こうもそのおつもり、ということでしょう。
 急な話ではあったけれど、約束の日付は三の月の十七日。私が本間海南としての前世の記憶を思い出したあの日から、ちょうど七日後ということになった。
 ところで、ステラナイツ侯爵こと私の養父であるクォーツライトは、王宮勤めの文官である。侯爵家邸も王都にあるため、王宮への移動に時間はかからない。
 この世界には移動魔術、つまり「転移」というものもあるのだけど、直接王宮へ転移することは身分の貴賤に関わらず禁じられているため、移動手段は馬車。なおステラナイツの邸から王宮までの距離は、馬車でも十数分といったところです。
 養父クォーツライトには「社交界でもこれまで交流のなかったご令嬢と私的な会談とはどういうことだろう?」と訊ねられたものの、「乙女の秘密ですわ」と濁しておくしかなかった。
 まさか前世の記憶云々の事情やこの世界が乙女ゲームであるなどといったメタ情報を、この世界の住人である養父にぶちまけるわけにもいきませんので。というか、そんなことをしたら心の病気とみなされて隔離幽閉とかされてしまいそうですし。お寿司。
 
 そんなこんなで、王宮の客室のひとつ……中庭である見事な薔薇園に面したその場所で、私リーリエと「悪役令嬢」こと公爵令嬢ティアーナ様は対面することになった。
 さて、何故に私が慌てて彼女との対談の場を設けたのかというと……。
「単刀直入におうかがいいたします。ティアーナ様……あなたは前世の記憶をお持ちなのではありませんか?」
 そういうことだ。
 公爵令嬢は私の唐突にして不躾な発言にも顔色ひとつ変えない。彼女の従者であるフィーネが淹れた紅茶を口に含み、その香り豊かな味わいをしっかり堪能してから、その麗しい薔薇色の唇を開いた。
「前世、とは?」
 まるで心当たりがございません、というような微笑みは、美の化身そのもの。ティアーナ様は、ビジュアルという意味ではヒロインである私リーリエなど比べ物にならないほどの美少女だ。その手のラノベなら「月光のように輝く白金の絹のような髪、濡れた紫水晶の瞳」などと描かれているだろう。
 ルプクルは乙女ゲーなので、そのような描写はないのですけれど。
「もちろん、地球人としての前世のことです」
 日本人の少女として乙女ゲームをプレイした前世、とは言わなかった。そういうジャンルの物語での転生者は十代の女性とは限らない。私のように少女とはいえない年代の女性とか、社畜男性とか、五十過ぎのいわゆる「おじさん」とかが乙女ゲームの世界に転生するパターンも存外に多い。そもそも乙女ゲームをプレイしておらず知識ゼロの状態……ということもある。国籍が違う、ということもなくはない。
 ティアーナ様は「地球」と聞いた途端、小さく息を漏らした。
「では、貴女もそうなのですね。皇女殿下」
 私の王国での地位は侯爵令嬢にすぎないけれど、特に家格の高い貴族は私を他国の姫として扱う。これは、私が結婚した折には新たな領土を賜り、ドラグネスト公国としてかつての祖国を再興するという約束があるからだ。姉には、私と結婚相手、どちらが王として立ってもよい、とも言われている。
 とはいえ、原作ではこの約束はまったく意味のない、実現しない未来の話だ。
 どうやらティアーナ様は、転生者として原作をクラッシュして好き放題する悪巧みなどはしていないようだった。
 
「私がティアーナ様にお訊きしたいことはただひとつ。あなたの推しはどなたですか?」
 
 そもそも私がティアーナ様が転生者であると確信したのは、彼女が王太子ソードアルト殿下との婚約を既に解消していたからだ。これは双方の合意に基づく円満なもので、お互いに何らかの不都合があったわけではない、らしい。
 けれど、「ルプクル」の本編では、もちろんティアーナ様とソードアルト様の婚約は継続中で、それ故にティアーナ様は「悪役令嬢」としてリーリエの前に立ちはだかることになる。
 といっても、ティアーナ様はリーリエの恋路を悪質ないやがらせなどによって邪魔するわけではない。
 なにしろ、彼女の婚約者であるソードアルト様は、ルプクルというゲームにおける「攻略対象」ではない。「まったく攻略できない」、隠しルートなども存在しない、いわゆるNPC、ノンプレイヤーキャラクターというやつなのだ。
 にもかかわらず、ティアーナ様は「悪役令嬢」としてリーリエの攻略対象とのフラグを全力でへし折りに来る。
 その理由は……「ルプクル」こと「タイムループクロニクル」が、「倫理観において他の追随を許さない神ゲー」と評される所以でもある。
 要は、ティアーナ様はリーリエの純潔を守ろうとして、攻略対象とのイチャラブを阻止してくるのだ。ただひとり、「真のヒーロー」とも言われる「隠しキャラ」、「初代国王ダイアルート」のルートを除いて。
 
「わたくしの推し……ですか?」
 
 と、ティアーナ様は何故かそこできょとん、とされました。
 いやいや、本当に何故?
「ええと、ソードアルト殿下との婚約を破棄されたということは、他の攻略対象を想われているということでしょう?」
「……わたくしのことはいいのです、皇女殿下。貴女の推しはどなたですの?」
「え?」
「えっ……」
 なんだか話が噛み合っていません。
 ちなみにティアーナ様の従者のフィーネさんはティアーナ様と同じように困惑していますし、私の従者エヴァはといえば……まあ相変わらずの無表情ですね。知っていました。
 
「あの、わたくし、皇女殿下には、原作の運命など気になさらず、貴女の最推しキャラと添い遂げていただきたいと思っているのですが……?」
 
 は?
 


 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

妹に幸せになって欲しくて結婚相手を譲りました。

しあ
恋愛
「貴女は、真心からこの男子を夫とすることを願いますか」 神父様の問いに、新婦はハッキリと答える。 「いいえ、願いません!私は彼と妹が結婚することを望みます!」 妹と婚約者が恋仲だと気付いたので、妹大好きな姉は婚約者を結婚式で譲ることに! 100%善意の行動だが、妹と婚約者の反応はーーー。

『皇族を名乗った伯爵家は、帝国に処理されました』 ―天然メイドは、今日も失敗する―

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を経て、静かに屋敷を去った令嬢。 その後に残された伯爵家は、焦燥と虚勢を抱えたまま立て直しを図ろうとする。 だが、思惑はことごとく空回りする。 社交界での小さな失態。 資金繰りの綻び。 信用の揺らぎ。 そして、屋敷の中で起こる“ちょっとした”騒動の数々。 決して大事件ではない。 けれど積み重なれば、笑えない。 一方、帝国では新たな時代が静かに始まろうとしている。 血筋とは何か。 名乗るとは何か。 国家が守るものとは何か。 これは、派手な復讐劇ではない。 怒号も陰謀もない。 ただ―― 立場を取り違えた家が、ゆっくりと現実に追いつかれていく物語。 そして今日も、屋敷では誰かが小さな失敗をする。 世界は静かに、しかし確実に動いている。

裏の顔ありな推しとの婚約って!?

花車莉咲
恋愛
鉱業が盛んなペレス王国、ここはその国で貴族令嬢令息が通う学園であるジュエルート学園。 その学園に通うシエンナ・カーネリアラ伯爵令嬢は前世の記憶を持っている。 この世界は乙女ゲーム【恋の宝石箱~キラキラブラブ学園生活~】の世界であり自分はその世界のモブになっていると気付くが特に何もする気はなかった。 自分はゲームで名前も出てこないモブだし推しはいるが積極的に関わりたいとは思わない。 私の前世の推し、ルイス・パライバトラ侯爵令息は王国騎士団団長を父に持つ騎士候補生かつ第二王子の側近である。 彼は、脳筋だった。 頭で考える前に体が動くタイプで正義感が強くどんな物事にも真っ直ぐな性格。 というのは表向きの話。 実は彼は‥‥。 「グレース・エメラディア!!貴女との婚約を今ここで破棄させてもらう!」 この国の第二王子、ローガン・ペレス・ダイヤモルト様がそう叫んだ。 乙女ゲームの最終局面、断罪の時間。 しかし‥‥。 「これ以上は見過ごせません、ローガン殿下」 何故かゲームと違う展開に。 そして。 「シエンナ嬢、俺と婚約しませんか?」 乙女ゲームのストーリーにほぼ関与してないはずなのにどんどんストーリーから離れていく現実、特に何も目立った事はしてないはずなのに推しに婚約を申し込まれる。 (そこは断罪されなかった悪役令嬢とくっつく所では?何故、私?) ※前作【悪役令息(冤罪)が婿に来た】にて名前が出てきたペレス王国で何が起きていたのかを書いたスピンオフ作品です。 ※不定期更新です。

妹の身代わりだった私に「本命は君だ」――王宮前で王子に抱き潰され、溺愛がバレました。~私が虐げられるきっかけになった少年が、私と王子を結び付

唯崎りいち
恋愛
妹の身代わりとして王子とデートすることになった私。でも王子の本命は最初から私で――。長年虐げられ、地味でみすぼらしい私が、王子の愛と溺愛に包まれ、ついに幸せを掴む甘々ラブファンタジー。妹や家族との誤解、影武者の存在も絡み、ハラハラと胸キュンが止まらない物語。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

22時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

処理中です...