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第二章 黄金の魔術師編
EP46 終末時計
しおりを挟む「では、早速今後の冒険について助言をしたいのだが・・・。何か、やりたい事はあるか?」
「あの~・・・エレーナ様?もしかして、次に何をすれば良いのか分からないのですか?」
「そっ、そんなわけないだろう!ただ、其方たちに考えさせた方が、今後のためになるかと思っただけだ!
決して、女神は意外とブラックで、休む時間も考える時間も無いという訳ではないぞ!」
エレーナは図星を突かれたようだ。慌てて誤魔化しているようだ。
「僕は先代について、もっと知らなければならない気がするんです。だからまずは、図書館を見たいです。」
「良い心がけだとは思うが、そこまでこだわる理由があるのか?」
エレーナは清也から執着とも言えるほどの、先代に対する異常な探究心を感じ取った。
「何というか、運命的な物を感じるんです。
自惚れだとは承知していますが、僕には今ここにいる事が、ただの偶然には思えないんです。」
「まぁ、どんな理由であろうと、先代について知ることは其方にとってプラスになるだろう。
この部屋を出て左に曲がり、廊下を真っ直ぐ言った突き当たりが、天界第一図書館だ。
そこに勇者についての本がある。読み終わったら戻ってくるが良い。
貸し出しは出来ないが、メモを取ることは構わんぞ。」
エレーナにそう言われると、3人は会釈をして部屋から出た。
~~~~~~~~~~~
部屋を出ると、横にも縦にも長い廊下に、どこまでも続くような長い赤カーペットが敷かれている。
天井には等間隔にシャンデリアが吊るされ、壁の窪みには皿や花瓶などが置かれ、見た事のない花が生けてある。
天井には緻密に絵が描かれており、何らかの物語を表しているようだった。
シャンデリアでは補いきれない量の光を得るためか、見栄えを気にしているのかは分からないが、巨大な無色透明の窓が細かく仕切られて、壁に埋め込まれている。
歩くだけでも見惚れてしまうほど美しい廊下を、ゆっくりと歩み進めていくと、不思議な絵が壁にかけられ設置されている場所についた。
清也は数枚の絵を見て、なんとなくその共通点に気がついた。
「この絵・・・色んな世界について描かれているのかな?」
絵の額縁の下には大きな石板が有り、文字が書かれている。
<ここに表される世界は氷山の一角、この宇宙には世界という物は無数に存在している。>
不思議な注意書きだが、言わんとすることは分かる。
大量に有る”世界の絵”だが、これに描かれていない世界も、宇宙には大量に有るのだろう。
清也は並べられた絵を、余すことなく全て見た。
そして、最後に眺めた絵が清也の目を釘付けにした。
「この絵・・・一体・・・?」
清也は思わず声に出た。それほどまでに異彩を放つ絵がそこにあった。
その絵は決して上手な絵とは言えなかった。
棒人間のような人ばかり描かれていたし、線の書き込みも素人が描いたと一瞬で分かるような物だ。周りの秀逸な絵と見比べると明らかに浮いている。
なぜ、飾られているのかさえ分からないほど下手なその絵は、清也の心を掴んで離さなかった。
その絵はスクランブル交差点での銃撃戦の様子を描いていた。
しかし、そこには本来存在しないはずの巨大なビルが、絵の中心に描かれていた。
「なんなんだ!?この絵!」
清也はいつになく取り乱している。
その絵の中心に描かれた建物には、二つの巨大な文字が刻まれていたからだ。
刻まれた二つの文字、それは"吹雪"であった。
構図を見ると、吹雪と描かれたビルが、不穏な雰囲気を醸し出しているのは明らかであった。
そのビルの上部には円形の足場があり、そこから翼の生えた人間が飛び立っている。
ビルの側面にある煙突からは黒い雲が吐き出され、ビルの上空を漂う雲は赤い稲妻をビル群に落としている。
そして、雲の合間を縫って空を飛ぶ大砲付きの飛空艇にも、ビル同様に"吹雪"と刻まれている。
清也は絵をまじまじと観察した後に、絵の説明が書かれたプレートに目を落とした。
そこにはこう書いてあった。
ー終末時計ー
帝王が誕生し、世界は統一された。
帝王は英雄が死んだ日に目覚めの時を迎え、
帝王が誕生した日に、英雄は現世に帰還する。
終末の時計は今、時を刻み始めた。
ー2021 AD・May 21・Suikei Yakumoー
「一体この絵は何なんだ!?」
清也は動揺を隠せなくなった。
それほどまでに、画力は稚拙ながらも、内容は清也の魂に警告を発していた。
「落ち着いて、あなた。こんな絵はただの落書きに決まってるわ!」
花が清也の手を握って現実に呼び戻した。
清也は絵に夢中になっていて、花は清也が心配で気付かなかった。
しかし、シンだけは花が清也を"あなた"と呼んだ事に気付いた。
(おいおい、こんな所でノロけんなよ・・・。)
「そうだぜ、こんな絵はデタラメだぜ・・・!」
シンは考えている事と口から出た言葉が噛み合っていないせいで、絶妙に変な文が出来た。
「そ、そうだよね。僕の代で吹雪家は終わりなんだから・・・!」
清也は強引に納得する事にした。
~~~~~~~~~~~~~
清也は自分のせいで微妙になってしまった雰囲気を立て直すために、強引に話題を変えた。
「そういえば、”シン”って君の本名なの?」
清也にはなんとなく、その答えがわかっていた。
「いいや、俺の本名はいい名前だと思うんだけど、俺の雰囲気と合わないぐらい渋いんだよな・・・。それに、シンは本名よりも好きな名前なんだ。」
「教えてよシン!これからも呼び名はシンのままでいいから。」
花は興味津々だ。
「まあ、花ちゃんが知りたいなら・・・俺の本名は”金入俊彦”、シンは学生時代のあだ名だよ。
苗字とかは、こっちに来てから適当に考えた。」
シンは渋々言った。
清也は自分と花が最初に使った清也と比べれば、まだ職業を組み込んだ偽名な分マシだと思った。
「俊彦・・・いい名前じゃないか!教えてくれてありがとう!
約束は守るよ。これからも君のことはシンと呼ぶことにする。それでいいかい?」
清也は少し遠慮がちに聞いた。
「ああ、かまわないよ。転生者差別みたいなのはもうごめんだしな。
それに、シンってあだ名には思い入れがあるんだ。」
シンは苦笑している。
彼も花と同様に苦労したことが容易に想像できた。
そんな事を話しながら歩いていると、すぐに突き当りにある図書館に到着した。
重々しい扉を開けると、巨大な本棚が四方八方にある不思議な白い空間がそこにあった。
そこは部屋というよりも、一つの世界のようで地平線の果てまでぎっしりと本棚が並べられている。
「なるほど・・・膨大な資料を保管するには部屋じゃ無理ってことか。
・・・それにしても広すぎないか?」
シンは呆然としている。
「司書のような人もいないし、本棚に名前が書かれているわけでもないから、本一冊探すだけで、お婆ちゃんになっちゃう・・・。」
花もシン同様に呆然としている。
しかし、清也だけは興奮した顔で、両腕を交差させることなく斜め下向きに広げている。
そして目をつぶると顔を上向きに傾けてつぶやき始めた。
「キーワードは”太平の世界”、”勇者”、”侍”、”300年前”」
一言一言を呟くたびに清也の顔の前に緑色の文字が現れ、多くの本棚が地平線に吸い込まれていく。
最後には一冊の本を残したすべてが空間から消えた。その本の表紙には”狼の勇者”と書かれている。
「嘘だろ!まさかと思って試したらできた・・・。」
清也は本を手に取りながら驚愕している。
「清也、どうしてこの図書館の使い方を知ってるの?」
花は不思議がっている。
「テレビで見たことあるからね!」
清也は興奮していったが、この意味はシンにしか伝わらなかった。
「つまり、無限のデータベースと直結してるってことだよ。」
シンは花にやさしい口調で伝えたが、この説明はさらに花を混乱させた。
「とりあえず同じようにすればいいのね?
あなたがその本を読み終わるまで、私は別の本を読むことにするわ。」
花はそう言って、清也と同じ構えをとった。
幾つかの言葉を呟くと、地平線から一冊の本が凄まじい速度で飛んできて、花の顔に激突した。
「いったあああ!!!」
花は悶絶している。清也は痕になったら可哀想だと思い、すぐに花が取り落とした杖を振った。
花の全身が緑色のオーラに包まれて、顔にできたあざが消えた。
「あ、ありがとう・・・。」
花は少し恥ずかしそうにしている。
「君の可愛・・・顔に痕が残らなくてよかった・・・」
安堵からくる気の緩みで、清也は危うく口を滑らすところだった。
”可愛い顔”などと言う歯の浮くようなセリフは、幸い花には気づかれなかった。
(これで付き合ってないとか嘘だろ・・・?)
シンは目を丸くしている。
「じゃあ、僕はこの本を読むからシンも別の本を読んどいてくれ。」
清也は強引に話題を切り、本を読み始めた。
その本に綴られている伝説は、まさに”無双”という言葉が似あう物だったーー。
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