『無頼勇者の奮闘記』 ―親の七光りと蔑まれた青年、異世界転生で戦才覚醒。チート不要で成り上がる―

八雲水経・陰

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第五章 氷狼神眼流編

EP119 破滅への道

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「お、お前っ!あの時のっ!!!」

 清也の中に広がる衝撃の渦は収まらない。
 何故、こんな場所で、こんな時に、再会する事になったのか。これはもはや、運命としか言いようがない。

「おっ!あの時の坊主じゃねぇか!へへへ、その節はどーも!!」

 男は悪びれる様子もなく、清也に親しげに話しかける。

「う、うるさいっ!!人殺しに挨拶される筋合いはない!!」

 少しだけ調子が狂う。もしも、敵意をむき出しにされていれば、清也としても応戦しやすかった。
 しかし男は清也の方を向いて、微笑を浮かべている。これでは、斬りつける事も憚られる。

「いや、殺すつもりはなかったんだがな。まぁ、コイツらも剣を持ってるんだ。正当防衛って奴だろ。」

「・・・は!?お、お前は何を言ってるんだ!?」

 清也には理解できない。
 自分から強盗を働こうとして、反撃されそうになったから殺した。そんな身勝手な行為が、正当防衛でまかり通る訳がないのだ。

「お前の持ってた剣、すげぇ値段で売れたよ。
 たしか・・・神秘の剣って言ったな。魔法剣、特に回復効果付きには値段が付きやすいが、あれは天界製の業物だから、本当に凄かった。
 マージンを抜かれても500ファルゴだ。おかげで家と、娘に新しい服を買ってやれたよ。本当に感謝してるぜ・・・。」

「そ、そっか・・・。」

 清也はここで、ついに気付かされた。
 本当の意味で、男と自分では住んでいるのだとーー。



 吹雪清也はご存知の通り、吹雪カンパニー創始者の孫であり、吹雪カンパニー現社長、吹雪悠王の一人息子である。
 幼少より、有りとあらゆる物を与えられ、不自由な事など何一つ無かった。勿論、毎朝毎晩の食事に困る事など論外である。

 しかし、世界には恵まれない者は大勢いる。日本国内であっても、清也ほどとは言えなくとも、完全に裕福な暮らしを出来る者が、一体どれだけいるか分からない。

 そしてそれは、このでも、何ら変わらない真理である。
 結局、人がそこにある限り、富裕と貧困が離別するのは道理であるのだーー。



「で、でも!殺したらダメですよ!話し合えば、貰えたかも知れないのに!」

 清也は少しだけ、男とその家族に同情してしまった。闘志は大幅に揺らぎ、諭すような口調で訴えかける事しか出来ない。

「じゃあ、お前はその剣を俺にくれるのか?坊主。」

「・・・・・・。」

 結局は、これも偽善に過ぎない。
 清也は花との馴れ初めであり、これからの冒険を共にする愛刀を、手放したくないと思った。
 だからこそ、清也の論理には重みがない。客観的に見て、男の方が正しいと思えてしまうのだ。

「こ、この剣は・・・これからの冒険に、どうしても必要なんです・・・。他のものじゃダメなんですか・・・?」

「コイツらも、同じことを言って斬りかかって来た。そして、負けた。ただそれだけの事だ。」

 論理でも、気合いでも、追い込まれていく。そして、ついに折れたーー。



「わ、分かりました・・・。」

 怖いからではない。両者ともに傷付かないのなら、穏便に済むのなら、多少痛い出費であっても構わないと思ったのだ。

(花・・・ごめん・・・。)

 この剣を作るための鉱石をくれたのは、他でもない花である。それを考えると、この剣に込めた思い入れは、一際強いものがある。

「ほら、剣を渡したんだ。そこを通してくれ。・・・あと、そこの人を弔わせてくれ。」

 清也は自分のそばで倒れ込む女性に目を向ける。カッと目を見開き、既に息絶えている女性にーー。
 その人たちが、これ以上弄くり回されるのを、清也は耐えられなかった。



 しかし、男の方はそれを却下したーー。



「悪いな坊主!所詮お前は!甘ちゃんだぜっ!!」

「はっ!?」

 男は受け取った剣を抜き放ち、清也に迫ってくる。何が起こったのか、彼には全く分からなかった。

「おい!話が違うぞ!」

「内臓はな!高く売れるんだよぉっ!!」

 話が噛み合わない。しかし、言いたい事は分かる。
 男は身ぐるみを剥がすに飽き足らず、若く新鮮な内臓をも盗み取ろうとしていたのだーー。

 清也は、自分がこの世界に来て、少しだけ成長したと思っていた。
 実際、それは正しかったし、彼はこの二ヶ月で人間的にも多くの事を学び、格段に逞しくなった。
 しかし、戦士としての彼は三流、いや素人以下と言っても過言ではない。

 が弱すぎる。今の清也は本当に、この一言に尽きるだろう。

 心優しいのと、芯が弱いのとでは、人間の本質として真逆と言っても良い。今の清也は間違いなく後者である。
 人の尊厳が踏み躙られ、穢されているのを目撃し、自らにはという立場がありながらも、、即ちを放棄した。
 その心理が、今の彼がいかに未熟であるかを雄弁に物語っているーー。



「お、おいっ!ちょっと待て!」

「問答無用だオラァっ!!!」

 その点、金を得ると言う明確な目的を持っている盗賊は、やはり強いだろう。
 守るべき物があり、後には引けない理由がある。それだけでも、強さの意味には十分な証明になる。

 男は機敏な動きで刀を振り乱しながら、清也の急所を的確に狙う斬撃を男は繰り返している。
 紙一重のところで回避しながらも、徐々に清也は追い詰められていくーー。

(く、くそっ!どうすれば良いんだ!)

 清也は心の中で、柄にもなく悪態を吐きながら、必死に命を繋いでいる。敗北は即ち、死を意味するからだ。

(なんでこうなる!なんで!なんでだ!!穏便に済ませようとしたのに!どうしてこうなるんだ!!!)

 歪んだ思想が、清也の中でこだまする。しかし、清也は少し冷静になると、自らの愚に気付かされた。

(・・・僕は、何を考えてるんだ・・・?・・・そうだ、僕は勇者なんだ。こんな所で、死ぬわけにはいかない・・・。
 そうだ・・・相手は悪党だ!僕がやらなければ、コイツはまた人を襲う!捕まえるんだ!僕がやるしか無いんだ!!!恐れるな!立ち向かえ!!吹雪清也!!!)

 弱さに屈しようとする心に、勇気という希望が差し込む。そして一瞬にして、清也は心の平穏と冷静さを取り戻した。

(僕には武器がない。拳ではリーチで負ける・・・。なら盾は・・・無いか・・・。
 いや、むしろこれはチャンスだ。剣では殺してしまう相手でも、他の物なら・・・・・・これだ!これで良い!)

 清也は足元に落ちていた、長い木の棒を手に取り、男に向けて構えた。普段の剣よりも、幾分か長いようだ。

「そんな棒で叶うわけあるかよっ!」

「やってみなくちゃ分からない!いや、やらなくては行けないんだ!!!」

 清也は、力強く宣言した。その立ち姿には闘志が漲り、勇者としての誇りを、完全に取り戻したようだーー。

 剣と違い、木の棒では斬撃を受け止める事はできない。
 しかし今の清也には、そんな生半可なものは必要無い。そして、
 防御など必要ない。ひたすらに相手を殴り続ければ良い。どんなに斬られようとも、清也の気持ちは揺るがない。

「オラオラどうした!弱っちぃままじゃねぇか!」

 男の斬撃は、清也の肩や腕を掠め、大事には至っていないが、多くの切り傷ができ始めていた。
 しかし清也は、激痛に呻く身体を庇おうとはしない。

(一撃だ!一撃に賭けるんだ!刃を受ければ、それだけ棒は短くなる。リーチが短くなればなるほど、僕の戦いは不利なんだ!耐えろ!耐えるんだ!!!)

 必死に、自分自身を鼓舞する。そして、防戦一方な戦いを継続し、虎視眈々と隙を窺う。しかし、男はそれを許さなかったーー。



「くそっ!めんどくせーな!早くしねぇと、コイツらが腐っちまうだろうがよっ!!!」

 グシャッ!!

「・・・は?」

 訳がわからなかった。清也への追撃を緩めた男は突然、倒れ込んだ女の頭を、力の限りーー。
 炸裂した頭の中身が、周囲に飛び散っている。

「・・・え?・・・はい?」

「頭はなかなか売れねぇんだよ。まぁ、コッチの可愛い方は売れるかもしれないが。」

「・・・いや、お前おかしいぞ?」

 清也の脳内で、ブチブチと音を立てて何かが切れ始めた。先程の冷静さは吹き飛び、代わりに残ったのは空虚さを孕んだ激情だけである。

「なんで、そうも簡単に、命を弄べるんだ?」

にならないから。それだけだ。こっちにも、家族がいるんでな。余計な事に構ってられないんだ。」

「いや、待てよ。本当に、お前は何なんだ?」

 清也は思ったように声が出ない。気道の裏側で痙攣が起こり、満足に息も吸えない。
 それほどに、今の清也の感情は怒りで昂っていた。もはや誰にも、彼を止められないーー。

「いい感じに挑発になったようだなぁ!冷静さを欠くと、人間は死にやすいんだぜ!?」

「・し・・る。」

「え、なんだって?」

。」

 清也の瞳は、極めて赤に近い琥珀色に変化し、全身は細かく痙攣し始めた。誰の目から見ても、今の彼が殺意に満ちている事は明らかだ。

 今度の清也は、本気だ。本気で、殺意を込めた武器を握っている。



 男を見つめる清也の頬に、一筋の細い涙が光った。
 今にして思えば、それは人生最大の過ちを憂う、運命さだめ予兆きざしだったのだろう。

 動き出した破滅への道は、もう、止まらないーー。
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