『無頼勇者の奮闘記』 ―親の七光りと蔑まれた青年、異世界転生で戦才覚醒。チート不要で成り上がる―

八雲水経・陰

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第四章 マリオネット教団編(花視点)

EP114 自覚

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その囁きは、1人の悪魔を目覚めさせた。
遠くない未来、魔女は死神も産むだろう。

彼女が植えた不幸の芽、やがてそれは大樹となる――。

―――――――――――――――――

「・・・?何言ってんだお前?」

「あなた、本気で反省した事ってある?」

「・・・うん。多分。」

「よく考えてみて、その時って反省してた?外面を気にしてとか、自分を納得させる為じゃなく、心から反省してた?」

「う~ん・・・微妙かもな。」

 思い返すと、シンは花たちと出会ってから事はあっても、自らの行いを反省した事は殆どない。
 大抵のことは適当にあしらい、自分に不都合な事には理由を付けて正当化する。どんな事に対しても、ある種の事務的な感覚で、淡々と接して来た。

 少し反省した様子を見せても、それは他人と自分を適当に誤魔化す為であり、自分が思っているよりも彼自身は反省していなかった。

「あなたがサイコパスかは分からないけど、自分でも少し気をつけた方が良いわ・・・人を殺す事を躊躇わないなんて、明らかにおかしいもの・・・。
 取り敢えず生きてる人を、追って来れない程度に治療してから、この島を出ましょう。」

 花は本当に心配そうな顔で、シンに忠告している。

「お、おう・・・。」

 シンは砂浜に1人、ポツンと残された――。

~~~~~~~~~~~~~

「取り敢えず、4人だけ助けて来たわ・・・。」

 花は少しやつれた顔で、林から出て来た。
 その表情には、4人以外は助からなかった事を暗に含ませている。

「エリクサーの雫は使ってないよな?あれは温存しといた方が良いぞ。」

(そこを気にするの!?)
「う、うん。使えそうな人は、もう・・・。」

 花は驚いた。シンが、少し疲れた顔をしていたので、てっきり落ち込んでいるのかと思ったからだ。
 普通ならここで、撃たれた者の容体を心配するだろう。しかしシンは、それを聞かなかった。

(本当に、何も感じないの?・・・・・・あっ。)

 訝しげにシンを見つめる中で、花は彼の真意に気がついた。

「ご、ごめんなさい!突然、変な事言って・・・。
 私、熱くなっちゃって・・・あくまで可能性だから、そんなに思い詰めなくて良いのよ!」

「ん?」

「今のって、でしょ?普段のあなたなら、そんな事言わないものね・・・。」

 花はシンの発言が、自分の自暴自棄な気持ちを訴えるために発せられたものだと悟った。
 その場合、あからさまに人命を軽視した発言はむしろその逆、自分は”異常者”では無いと伝えたい気持ちの裏返しとなる。

「お、おう。まぁ、そんなとこだな。」

「あなたには、サイコパスに当てはまらない要素も多いわ。
 もし本当にそうでも、あなたは大切な仲間である事に変わらないから、安心してね・・・。」

 そう言うと、花はシンを力強く抱き締めた。慰めるために、それが一番良いと思ったからだ。

「助けてくれてありがとう。でも、人を簡単に殺してしまうのは良くないのよ・・・だから次からは、もっと躊躇いを持ちましょう・・・私たちは、なのだから・・・。」

 耳元で、彼を落ち着かせるように優しく囁いた。
 言葉の一つ一つが、心の奥深くへと沁み入って行くようだ。

「おう、分かった。」

 シンの方も珍しく素直に、彼女の思いを汲み取った。
 やはり、先ほどの発言は真意では無かったのだろうか。

「よしよし・・・それじゃあ、船を探しましょうね・・・。」

 彼の背中を、泣いている赤ん坊を諌めるように優しく叩くと、ゆっくりと抱擁を解いた。

~~~~~~~~~~~~

「嘘だろおい・・・まさか、これ全部・・・。」

「えぇ、この島は完全に隔離されているのね・・・。」

 血塗れの男女と、美しいユニコーンという不思議な組み合わせは、海岸沿いをひたすらに歩いていた。そして遂に、大きな港を見つけたのだが――。

「検問・・・って事か・・・。」

「流石に、タダじゃ逃してくれないわよね・・・。」

 港には、大勢のゴロツキが集まり、船を見張っている。
 この大雨の中、船に乗って沖へ出ようという者はかなり珍しい。
 それこそ、シンと花のようなお尋ね者くらいである。

「どうする?強行突破か?」

「そんなの無理よ・・・でも、後ろから回り込めば・・・。」

 2人が密談を交わしていると――。



「そこで何をしている!!!・・・・・・コイツまさか!見つけたぞっ!!!!」

ピーーッッッ!!!

 ホイッスルの音が、盛大に鳴り響く。
 すぐに大勢の男が、2人目掛けて迫って来る。

「くそっ!またこの展開か!!ミストル」

「やめなさいっ!さっき言ったばかりでしょう!?サラン!?ダメよっ!2ともやめなさいっ!!」

 必死に2を静止する花だが、完全に臨戦態勢に入っている。
 しかし、このままでは3人ともヤラれてしまう。

「くそっ!しょうがねぇな!ワンダーランスタイプ!!!」

 シンは、もう一つの武器を起動させた。これならば、相手を生きたまま捕縛する事が可能だ。

 鞭ほどの細さになった槍は、次々と男たちを縛り上げて行く。
 しかし、増援が訪れるたびに対処が難しくなって行き、接近を許してしまう。
 間合いに入られた男は、花とシンが体術を用いて対処する。今はなんとか抑えているが、それも長くは続かないだろう。

 そんな状態の中、男の1人が近くにいた若い女を捕まえると、力の限り叫んだ。

「おい貴様!コイツがどうなっても良いのか!?」

 人質を取られた花は、すぐに攻撃の手が止まってしまう。
 だが、シンは全く気にしない。次々と迫る男を殴り倒していく。

「やめなさいシン!あの人がどうなるか、分からないでしょう!?」

「めんどくせぇなっ!」

 シンはすぐに抵抗をやめた。新手が次々と迫って来る。
 サランはその状況を見て2人に助力しようと角を光らせたが、すぐに花によって静止される。

「ダメ・・・ダメよ・・・これ以上、罪を重ねちゃダメ・・・!」

 花は必死にサランを押さえる。
 彼女を押しのけて、背後の男たちを殺す事などサランには容易いが、それをしない。嫌われたくない思いの方が強いからだ。

 追手は次々と押し寄せて来る。
 花たちは逃げようとするが、逃げれば人質は殺されてしまう。完全に手詰まりになってしまった。

(今度こそ・・・もうダメかな・・・。)

 花は死を覚悟する。そして、目を瞑った・・・。





「何を!やっているんだぁーッッ!!!!」




 突然、花の背後から凄まじい怒号が聞こえて来た。
 花が目を開けると、次々と迫る男たちを斬り捌きながら、が人質へ向けて駆けて行く。

 縦横無尽に跳び回りながら、向けられた刃をスルスルと通り抜け、竜巻のように回転しながら次々と敵を捻じ伏せていく。

 よく見なければ気付かなかったが、それはであった。
 刀を握り、自らの動きが起こす旋風の中に、次々と敵の体を巻き込んで行く。

「おい!コイツがどうなっても!」

「黙れぇっ!!!」

 激情した何者かは人質を取った男に対して、遠くから拳を放った。
 20メートルは離れているのだ。当たるわけが無い。しかし――。

「うわぁっ!!??」

 その物の拳圧によって起きた空気の唸りが、男の頭部を直撃した。
 花から見て、その拳圧は横向きに伸びる竜巻のようにも見える。

(・・・カッコいい♡)

 花はその戦士を、既に知っている気がした。
 その一挙一動が、素晴らしく完成された物であると察することが出来る。
 自分を助けてくれた何者かに、言いようのない興奮を花は覚えてしまう。

「おい花!逃げるぞっ!!」

 男の動きに見惚れてしまっていた花は、シンの声により現実に引き戻された。

「え!?どうやって!?あの小船を使うの!?」

「馬鹿野郎っ!この雨じゃ転覆しちまう!」

「じゃあどうするの!?」

「コイツに乗るんだよ!」

 シンは既に、サランの背に乗り込んでいた。
 彼女自身も花に対して、乗るように促している。

「コイツは本土から来たんだ!乗っていけば、海を越えられる!」

「本当なの!?」

「ヒヒーンッ!!」

 サランはそれを認めるように、力強く嘶いた。
 花は直感で、彼女が本当に海を越えてきたのだと察する。

 すぐに花はサランの背に、シンの後ろに乗り込んだ。
 すると、サランは大きく後ろに後退し――。

ドォーンッッ!!!!!

 凄まじい速度で、海面を走り始めた!

「え!?えっ!?速過ぎないっ!?」

「馬鹿野郎!舌噛、いでぇっ!!!」

 シンは花に注意しようとして、自分で舌を噛んでしまった。
 海の上、つまり水の上を沈む事なく進める速さで、サランはグングンと本土に迫っていく。
 その速さは、以前の比では無い。エレメントホーンの覚醒によって、彼女の運動性能は格段に上昇していたのだ。

 その後、わずか数分で花たちは、本土へと到着した――。
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