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第八章 魔人決戦篇
EP207 出て行け
しおりを挟む「えっ?んぐぅっ!?」
少年は絶叫と共に、突如として花に飛び掛かった。
子供とは思えないほどの腕力で彼女を押し倒し、首を絞めようとする。
「何するんだっ!!!」
だが征夜は、そんな凶行に対し素早く反応した。
少年の襟を握り締めて、即座に花から引き剥がす。
「離せ!離せよ!おい!離せぇッ!!!ぐあぁぁぁぁッッッ!!!!!」
「な、何だ!?」
少年は咆哮を上げると、酔いが回った男たちも流石に気が付いた。
騒ぎを聞き付けて集結する野次馬は、取り押さえられてなお暴れ続ける少年を、ジッと見つめている。
「オイオイ、どうしたんだぁ?ドンパチなら、俺も混ぜてくれよぉ?」
野次馬の群れから一歩踏み出したシンは、軽い調子で話に首を突っ込む。
だが征夜は、少年を押さえつけるので精一杯。酔っ払いに構ってられる余裕など無い。
「お、落ち着くんだ!フィーガル君!」
「うるせぇッ!指図してんじゃねぇよっ!!!
クソッ!クソックソッ!離せって・・・言ってるだろうがぁッ!!!」
フィーガルは、歳に見合わない力で征夜の拘束に抵抗する。
その抵抗は、征夜の全力を以ってしても、完全に抑え込むのは不可能なほどだ。
だが、彼の武器は腕力だけではなかった――。
パチ・・・パチパチパチパチパチィッ!
「うぐッ!?」
突如、彼の前身から銀色の閃光が迸った。
痺れるような感覚に襲われた征夜は、思わず拘束を解いてしまう。
「アレは・・・電気!?」
少年の不意打ちに驚いた花はその時、完全に腰を抜かしていた。
地面に尻を着けた姿勢のまま、どこか怯えた表情で少年を見つめている。
少年は花の予想した通り、全身から電流を放射していた。
彼を拘束していた征夜が痺れたのは、感電による物だった。
何故、幼い少年が全身から電気を放てるのか。それは確かに疑問だ。だが本当に疑問な事は、それとは別に存在する。
「どうして・・・私たちを・・・!」
「攻撃するんだ・・・!?」
突然な攻撃に怯んだ二人には、少年の真意がまるで理解できなかった。
"自分達は英雄"が奢りであっても、"自分達は仲間"は揺ぎない事実。それなのに、なぜ攻撃されるのか。
「どうして・・・だと?ふざけるな!お前らが!お前らが悪いんだろッ!しらばっくれるなぁッ!!!」
「きゃぁっ!?」
憎悪と殺意を剥き出しにした少年は、花に向けて稲妻を纏った拳を振り下ろそうとする。
征夜は急いで彼女を守ろうとするが、距離的に間に合わない――。
<ストップ!>
突如、野次馬の外側からミサラの声が聞こえた。
それと同時に少年の動きは完全に静止し、指先すらも動かせなくなる。
「大丈夫ですか!?」
「助かったわ・・・ありがとう、ミサラちゃん・・・。」
ミサラが来なければ、花は間違いなく殺されていた。
その証拠に、完全に身動きが取れなくなった今でも、少年は全身からの放電を続けている。
「離せ!離せぇッ!!!うがあぁぁぁッッッ!!!!!」
唾を吐き散らしながら咆哮を上げ、悪鬼の如く歪んだ表情で花を睨み付ける様子は、とても少年とは思えなかった。
だが、征夜の怒りも決してフィーガルに負けていない。放電を続ける彼に刀を向け、感情のままに怒号を飛ばす。
「仲間を攻撃するとは、一体どういう了見だ!
分かってるのか!?花はお前を!ここに居る全員を守る為に、必死に戦ってたんだぞ!
ガキだからって、容赦すると思うな!お前みたいな恩知らずは!今すぐ!この村から出て行けぇッ!!!」
全身に怒りと興奮が沸き起こり、無尽蔵に"毒"を吐けるような感覚。
"凶狼"が出てきた事は分かるのだが、それを抜きにしても怒りが収まらない。
しかし少年の方も、更なるヒートアップを遂げる――。
「俺が出て行く?ふざけるな!ここは"俺らの世界"なんだぞ!」
「あなた達の・・・世界・・・?」
少年の言う理屈が、花には分からなかった。
だが、続けて飛び出した暴言によって、彼女は全てを理解する――。
「お前らみたいな害虫が!"転生者みたいな蛆"が居るから!この世界はおかしくなったんだ!
出て行くのはお前らだ!使命だか何だか知らないが!俺らの幸せを破壊したのは、お前らなんだよ!!!」
「あっ・・・あぁっ・・・。」
花の中に、トラウマが蘇って来た。
少年の中に、転生直後の自分へ浴びせられた憎悪の視線が重なって見える。
そう、征夜と出会う前に出会った"転生者嫌い"の顔が、確かに浮かんで見えたのだ。
恐怖に支配された彼女を見た征夜は、その様子が意味する事を即座に察する。
「おい!やめろッ!!!」
「大体、たった一度の戦いで英雄気取りかよ!さっきまで寝てたくせに!
魔王を殺しに来たんだろ?なら、さっさと責務を果たしたらどうなんだ!それが出来ないなら死ね!この世界から消えろ!!!・・・うぐぁっ!?」
そこまで言ったところで、少年は数人の男に取り押さえられ、口を塞がれた。
全身を縛られて連行される彼を、征夜と花は呆然と眺める事しか出来なかった。
「石積みとは、ガキのくせに面白い事しやがる。
あの世より、この世の方が地獄だと言いたいのか。」
積み上げられた小石を見下ろすシンは、少し馬鹿にした調子でソレを蹴り崩した。
その直後、何かに気付いたような表情を浮かべて、笑い出した。
「くふっ・・・アハハハッ!こいつぁ傑作だ!この伝承だって、異世界製じゃねぇか!」
~~~~~~~~~~
「そうか・・・アイツの家族は・・・。」
「えぇ、轟雷竜に殺されたらしいわ・・・。
家族全員でこの谷に旅行に来て、私たちの戦いの"流れ弾"が・・・。
祖父母・両親・兄・妹・・・全員が即死した。それなのに、あの子は稲妻に打たれても無傷だった。
それ以来、"全身から放電できる体質"になったそうよ・・・。」
少年の取り調べの結果を花から聞かされた征夜は、先ほど彼が何故怒っていたのか、その理由を完全に理解した。
「轟雷竜を作ったのはラドックス・・・奴は転生者・・・それを倒す筈だったのも、僕たち転生者・・・。」
少年にとって、家族を奪ったのは竜の一撃ではない。
キッカケを作ったのも、家族を守れなかったのも、全ては"転生者のせい"。
そう考えれば、自分達を恨む気持ちも分からないでもない。だが、人々を守る為に戦って来た花に当たるのは、お門違いも良いところだ。
「ごめんなさい!私・・・ラドックスと私たちの事を・・・みんなに話しちゃって・・・。」
「君は悪くない・・・あんなの、逆恨みさ・・・!」
「そうかも・・・知らないけど・・・。」
征夜からすれば、少年が悪いに決まっていると断言できる。言われのない中傷と、恋人への殺人未遂。情状酌量の余地など微塵も無い。
だが花にとっては、些か同情できる所もあったようだ。
しかし征夜は、そんな彼女の甘い考えを一刀両断した。
「あんな馬鹿、放っておけば良い。僕はもう寝るよ。」
「うん、私も寝ようかな・・・。」
お互い、幸せな気分が一気に冷めてしまった。
残されたのは疲労感と、悶々とした不快な気分。当然、宴を再開する気分にもなれないので、二人は一足先に眠る事にした。
だが征夜に関しては、ゆっくりと眠る事すら出来なかった――。
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