『無頼勇者の破王譚』〜無能社員だった青年は、異世界で精鋭部隊を率いる~

八雲水経・陰

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第九章 反逆の狼牙編

EP243 無双級能力

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「た~すけてくれ~!!!アーニキーッ!!!」
「なんでお前を助けにゃならん!」
「ひでぇよ兄貴!大切な舎弟の頼みだろぉッ!」
「くそっ、かったりぃな!」

 捕まったユリエラーは、半笑いのまま魔族の集団に拘束されていた。
 後ろ手を縛られたまま助けを求める彼だが、そこに危機感は無い。シンの方も、余裕綽々といった調子だ。

(うわっ!懐いなこの感じ!)

 舎弟が人質にされ、兄貴分が出張る。
 これはシンたち賦遊理威のメンバーにとっては、ごく当たり前な光景。
 あまりにも慣れ過ぎた危機的状況に対し、互いに感覚が麻痺してるのだ。

 しかし、当の本人たちは飄々とした調子で振る舞っているものの、見ている者たちは大慌てである。

「大丈夫ですか江螺斗さん!?」
「なんて卑劣な事を!騎士として許せない!」
「ユリエラーがんばぇ~!一応お墓作っとくね~。」
「うぅ・・・鼻が・・・痛い・・・。」

 いや、よく見れば意外と慌てていない。
 "リリー"と"アンネ"だけは真っ当に心配しているが、蜜音は既に墓標を立て始め、イーサンに至っては自身の鼻頭を押さえて半泣きになっている。

 そんな中、アメリアは敵に槍を向け、勇ましく睨み付けていた。

「アンタが魔界の傭兵・・・!」

「・・・そうだが、お前は誰だ。」

 魔界の部隊を率いるのは、若い魔族の傭兵。
 長い黒髪を風に靡かせながら、軽やかな甲冑を身に纏う彼の背は陽光に照らされ、かなりハンサムに見える。

 大方、この世界の人間に雇われて、手下と共に暴れるように命じられたのだろう。
 その雇い主は誰なのか。それを知る為にも、打ち負かして尋問する必要がある。

「トリトネンシア王国陸軍・独立治安維持部特務科・Rebelion wolf隊・アメリア班部隊長・宙道そらみちアメリア大佐だ!」

 この世界に、名刺という文化があれば良かったのに。そう思わせられるほど、彼女の肩書きは長かった。

「ちげぇよ!シン班だ!班長は俺!」

「あ"ぁ"ッ!?この部隊の副隊長は私!だから私の班でしょ!」

「俺が班分けを提案した!お前はオマケだ!」

「なんですって!?」

 魔界の傭兵と、彼が率いる大勢の部下を前にして、シンとアメリアはいがみ合いを始めた。

「お、おい・・・俺の話は・・・。」

「うるさいッ!蜜音!アイツら黙らせて!」

「あいよぉッ!」
<突撃じゃぁ"ッ!マグロ軍艦ッ!!!>

 それは、何とも形容し難い光景だった。
 蜜音の背が七色の後光に包まれたかと思えば、光の奥から大量の"寿司"が現れたのだ。

 そのネタは当然ながら――。

「はいやぁッ!マグロ軍艦千貫お待ちィ!イイイヤッハアァァァーーーッ!!!!!」

 フワフワと宙を漂う大量の寿司。
 マグロ軍艦の大群は陣形を組み、名乗りを上げた。威勢の良い咆哮を上げ、即座に"敵の口"へと特攻していく。

「うぉっ!?なんじゃこりゃ!?・・・うぉぶっ!?」

 突如として現れた寿司の大群に襲われ、戦闘は一瞬で終わった――。

~~~~~~~~~~

「マグロって美味しいねぇ!」
「いでぇよぉッ!なんで食うんだよぉッ!!!」
「君たちは既に、マグロではなく寿司なのだ!黙って食べられなさい!」
「ちくしょぉ~ッ!」

 攻撃に使われたマグロ軍艦の末路は、2つに1つ。
 敵の口に飛び込んで、そのまま食われる。敵に当たらずに済んだ場合は皿に盛り付けられ、部隊の昼食になる。

「アンネ様、このスシという料理、とても美味しいですね・・・♪」

「まさか、生魚がこんなに美味しいとは!意外な発見ね!」

「食うなぁ~!いでぇ"よぉ"~!!!」

「申し訳ありませんスシ様。ちゃんと味わって食べますので・・・!」

 聖女と騎士は向かい合い、マグロを食べている。
 断末魔を上げる寿司に懺悔しながらも、中々に良い食いっぷりだ。

 もはや誰も、"寿司が喋っている事"を気にしていない――。

「・・・食べる?」

「は?・・・い、要らないぞ!生魚なんて食えるか!」

「そう言わずにさぁ!」

「お、おいやめろ!ぶむぅ"っ!?・・・うまっ!なんだこれ!」

 蜜音によって、寿司を口に押し込まれた魔界の雑兵。
 その反応を見るに、日本国が世界に誇る文化は魔界にも通じるようだ。

「じゃんじゃん食べちゃおう!あと950貫あるからね!・・・責任を持って食うのだぞ!?君たちが悪いんだからな!」

「ひぃ~・・・!」

 蜜音は怯える魔族の口に寿司を突っ込んだ。

~~~~~~~~~~

 見渡す限り、全ての魔族が捕縛されていた。
 女も男も口に寿司を押し込まれ、呪文の詠唱も出来ない。息も苦しいが、窒息はしない。そんなギリギリの状態で戦えば、たとえ人間が相手でも遅れを取る。

 幸いにも、両陣営共に死者はいない。
 ただ捕縛され、繋ぎ止められている魔族と、優雅に昼食を摂る人間だけ。

 そんな現状を見て、シンはご満悦だ。

「・・・蜜音が鬼つえぇ!!!このまま逆らう奴ら全員ブッ殺しに行こうぜッ!!!」

「残念だけど、それは無理よ。」

「は?なんでだよ?」

 異様にハイテンションなシンに、間髪入れず水を差すアメリア。

「あの子の能力には弱点がある。」

「と言うと?」

 蜜音の能力について、彼は何も知らない。
 ただ一つ分かるのは、彼女の能力が人智を超えた物である事。つまり、"何も分からない"。

「よく見なさいよ。やられた連中を。」

 アメリアは呆れたような調子で、シンに辺りを見渡すように促す。だが、拘束された魔族に特異な点は見当たらず、特殊な傷跡なども無い。

「・・・何も無いぞ?」

「そういう事よ。」

「は?どういう事だよ。」

「あの子には、"二つの能力"がある。
 一つ目は"大地を操る力"。コレもそこそこ強いけど、普通の能力よ。」

 字面だけなら凄そうだが、それは至って普通の能力。
 女神に頼めば付けて貰えるし、属性魔法でも再現できる。

 問題は、"二つ目の能力"である――。

「二つ目は?」

「・・・"無双級能力・ギャグ補正"。」

「ギャグ補正?なんだそりゃ!そんな能力あんのか!?」

 ニワカには信じられない能力。
 世界広しと言えども、こんな能力が存在するとは、想像もしていなかった。

「言ったでしょ?コレは無双級能力。平たく言えば"チート能力"よ。
 あの子の周りでは、常に信じられないような事が起こる。それは彼女が意図的に起こしたり、自然と発生する事だったり、色々とね。」

「ふむふむ。」

「異世界にAmaz◯nが来たら面白い。
 投げ付けた柿が喋ったら面白い。
 寿司が襲い掛かって来たら面白い。
 "彼女がそう思う可能性が少しでもある"なら、その想像は"現実"になる。」

「すげぇなッ!」

 発動条件の緩さと、不釣り合いに強烈な効果。
 今回は寿司が襲って来るだけで済んだが、彼女の想像力が続く限り、その効果は天井知らずだ。

「ここからが本題。ギャグ補正はね、威力は凄いの。
 建物だろうが何だろうが、その気になれば簡単に壊せる。それこそ、チョップで世界を割く事も出来る。」

「ア◯レちゃんかよ・・・。」

 世界を割くほどの攻撃が、簡単に繰り出せる。
 それだけ聞くと、欠点など何も無いように思える。ルーネが彼女を"最強の戦士"と言った理由も、今ならよく分かる。

「でも、所詮はギャグ。ギャグ補正を使った攻撃をする限り、"生命に対するダメージは殆ど無い"。
 せいぜい、タンコブが漫画みたいに大きくなったり、爆発で髪がアフロになる。相手を殺すなんて論外よ。」

「なるほど!ギャグだしな!」

 ギャグ漫画で、人は死なない。
 一部例外はあるものの、大抵の作品はそうだ。

 人を傷つけて笑いを取るのにも、限度がある。
 蜜音がそれを面白いと思わない限りは、決して相手を傷つける事はない。

「たとえ世界を破壊したとしても、今度はギャグ補正で元に戻る。
 宇宙に放り出された人たちは、何の影響も無く戻って来られるわ。」

「平和過ぎだろッ!」

 ギャグ漫画であれば、物を激しく壊しても次回には直っている。
 たとえ怪我をした人がいても、次回では何事もなく過ごしている。

 例外はあるものの、それが"お約束"なのだ。
 彼女の能力も、ギャグの名を冠するにあたって、その鉄則には準じている――。

「あの子、チャランポランだけど根は良い子よ。
 "友達も仲間も敵も、みんな笑っててほしい。"そう思うような子だから、この能力が付いたんでしょうね。」

「なるほどなぁ・・・それじゃ、仕事するか!」

パァンッ!

「え?」

 アメリアは、何が起こったのか全く分からなかった。
 大切な仲間の能力と性格を、新参の男にそれとなく紹介する。そうする事で、今後の活動が円滑に進むと思った。

 だが、シンは適当な相槌を打っただけで終わり。
 反応の淡白さにも驚いたが、それを上回る衝撃が鼓膜を通じて突き抜ける――。

「うぐあ"ぁ"ぁ"ッ!!!!!」

「・・・え?」

 足元に捕らえていた"魔族の傭兵部隊長"が、突如として絶叫する。
 勢いよく噴き出した血飛沫がアメリアの顔にまで跳び散り、彼女の白い頬を染める。

 視線を上げると、シンは"拳銃ミストルテイン"を握っていた。
 カランと音を立てて吐き出された薬莢が足元に転がり、硝煙を吐く銃口は青年の腿に向けられていた。

「拷問は俺がやるぜ。」

 先ほどとは打って変わり、感情を見せない無機質な声だった。
 突如として"冷淡"な思考に変わったシンは、青年に向けて再び撃鉄を引いた――。
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