『無頼勇者の破王譚』〜無能社員だった青年は、異世界で精鋭部隊を率いる~

八雲水経・陰

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第九章 反逆の狼牙編

EP258 ボンクラ息子の武勇伝 <☆>↓

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「ウオオオォォォォッ!!!!!
 祭りだワッショオォォイッッッ!!!!!」

カランカランッ♪カッチャッチャッ♪

「イヤホォォォォォイッッッ!!!!!」
「うわ!うわわわわっ!アヒャヒャヒャヒャヒャッ!」
「キケケケケケケケケケッ!!!!!クケケッ!」

 頭から酒を被って、卓上の皿を薙ぎ倒しながら奇声を上げるアルス。
 前後不覚の泥酔状態で、端正な顔立ちに似つかわしくない下品な声で笑い、意味も分からず踊り乱れるイーサン。
 口から泡を吹き、白目を剥きながら気味の悪い笑い声を響かせ、うつ伏せで床に寝そべって岩盤遊泳を試みるユリエラー。

 土屋蜜音には、"人を狂わせる天性の才"が有ると言わざるを得ない。
 いつの間にか浴衣に着替えた彼女は、鳴子を片手に音頭を取っていた。その狂気ハイテンションに触れた中には、常軌を逸した奇行に走る者もいた。

「頭おかしなるで。」
「キ◯ガイの顔ですわ。」
「かなり恐怖を感じた。」

 城中に響き渡るけたたましい喧騒に引かれて、宴会場に集った野次馬たち。
 その多くは"期待の新人・吹雪征夜"を見に来た者たちであったが、会場を満たす混沌カオスに当てられて、漏れなく絶句してしまっている。

「そろそろお暇します・・・家内が待っていますので・・・。」

 兵五郎は、愛想笑いを浮かべて席を立った。
 彼は場を乱す事は決してしない、生粋の日本男児。
 そんな彼でもフォローし切れないほど、この宴会は狂っていた。

「私も帰ります。」
「とても美味しかったですわ・・・♪」
「そうだねぇ~!」
「私は今日もシン様とエッ・・・居ないのだ!?」

 エリス、リリアナ、アンネ、ルル。
 女性陣が次々と離脱の意思を表明し、寝転がった泥酔野郎オトコどもを跨いで去って行く。

「私たちも帰りましょう?」

「えぇ~!まだ飲みたいよぉ~!」

「飲み過ぎだよ!」

「良いじゃ~ん!」

「ダメ!」

 征夜は、当然のように潰れていた。
 元より酒に弱く、悪酔いしやすい体質なのだ。ソレに加えて、このドンチャン騒ぎ。彼が正気を保つのは、不可能に近かった。

 征夜を諌める花は、酔っていないように見える。
 やはり姉さん女房として、威厳を見せている。――のだろうか?

「やだぁ~!まだ飲む~!」

「ダメよ!帰るの!・・・うわ重ッ!」

 子供のように駄々を捏ね、立ち上がろうとしない征夜。
 しかし、体格だけは一丁前に立派。筋骨隆々の肉体に封じた重量は、ロクに鍛錬を積んでいない女性には文字通り"荷が重かった"。

「立って!立ちなさい征夜!」

「やだぁー!」

もみゅっ・・・♡

「はぅッ!?💕」

 地団駄を踏んで抵抗し、暴れ回る征夜。その指先が、花の胸の膨らみをなぞった。
 ピクンッ💕と肩を震えさせ、頬を紅潮させる花。下着越しに優しく食い込み、快感を刺激する征夜の指。

 たわわな双丘の頂上を襲った無邪気な愛撫に翻弄され、花は艶やかな"雌"の声を滲ませる――。

「んっ💕も、もしかして・・・触りたいの・・・?」

「ほぇ・・・?」

 あまりにも唐突で蠱惑的な問いが、征夜の脳裏で閃光を散らした。
 酔いが回り、思考が回らない童貞の脳には破壊力が強すぎて、理解が全く追いつかない。

 前言を撤回しよう。
 征夜ほどではないが、花も"かなり酔っている"。
 むしろ中途半端に理性が残っている分、もっとタチが悪いかも知れない。

「乳首・・・敏感なの知ってるくせに・・・イジワルなんだから・・・///」

 アルコールで昂り、火照り上がった"孕み頃のみずみずしい女体"。
 花は人一倍に敏感な哺乳器の先端を優しく刺激され、いとも容易く発情状態サキュバスモードに入ってしまった――。

「征夜のバカぁ・・・///
 揉んでも良いけど・・・先に言ってよぉ・・・///」

 豊満な女肉に封じた愛欲は臨界点に達し、誘うように身体をクネらせ、艶と興奮に満ちた笑みを恋人に向けて放射する。

「本当に、おっぱいだけで良いの?
 征夜がシたいなら・・・私はいつでもOKなんだけど・・・///」

 乙女の純情と大人の色香。
 その真ん中に佇むような彼女のオーラは、愛撫スキンシップだけでなく子作りセックスを切望するほどに、生命として当然のどこまでもピュアな卑猥さを帯びていた。



 だが、肝心な征夜の方はと言うと――。



「ん?ほぇ~?」

 自分の指先が、女性の胸元に沈み込んでいる事にも気付かず、酔っ払いは視線を泳がせる。

 罪作りな愛撫で、その気にさせてしまった。
 結婚適齢期の女性が持つ咽せ返るような性欲に、スイッチを入れてしまった罪。その事実を微塵も知覚せずに、虚空を凝視して呆けている――。

「・・・・・・バカッ!」

「おぶぅ"ッ!?」

 全身全霊の報復ビンタが唸りを上げ、頬を打つ。
 ガクンッ!と首を震えさせながら、征夜は尻餅を着いて倒れ込んだ。

「どうせ揉むなら、ちゃんと味わってよ!!!」

 花としては揉まれ損、せめて知覚してもらわないと、スキンシップにすらならない。
 恋人の乳を揉んでおきながら、その感想すら浮かばないほど酔い果てた征夜。その醜態に喝を入れる為に、頬を軽くビンタした。

「ご、ごめんなさい・・・。」

 自分が何故怒られているのか。
 その理由も原因もよく分からないまま、征夜は謝った。痛覚よりも、罪悪感で涙が溢れてくる。

「いきなり叩いてごめんね。怖かったよね?」

「うん・・・。」

 戦闘訓練を積んでいない者の平手打ちなど、征夜にとっては蚊に刺されるような物。
 だが、花だけは別。彼女に加えられた折檻は肉体を透過して、精神に直接ダメージが行く。
 「自分がいけない事をした。」と自覚させられる彼女のビンタは、幼子が母に叱られるのと同様かソレ以上に征夜の言動を"矯正コントロール"するのだ。

「よしよし・・・おいで・・・♡」

 暴力の後で甘やかし、恋人の思考を従属的にさせる。花は無自覚のうちに、飴と鞭を理解していた。
 性別が違えば"DV彼氏"と糾弾される行為であっても、美女ならば"愛の鞭"として許されてしまう。



 やはり、"可愛い"は正義なのだ――。



「今日も一緒に寝ようね・・・♡」

「うん・・・うん・・・。」

 花は征夜に肩を貸し、連れ添って宴会場を後にした。
 すると扉を抜けた先で、肩を怒らせて歩く女王様ルーネとすれ違い――。

「良い加減にしなさい蜜音!
 もう寝る時間です!いつまで騒いでいるのですか!」

「おぶぅ"っ!!!」

 後頭部をビンタされた蜜音は、眼球が飛び出しそうなほど大袈裟にズッコケた――。

~~~~~~~~~~

「よしよし・・・良い子だねぇ・・・。」
「うん、僕良い子。」
「ちゃんと階段登れて偉いねぇ・・・。」
「うん、僕偉い。」

 まるで赤子扱い。
 一回り小さな母親に肩を組まされたムキムキマッチョマンが階段を登る様は、中々にシュールだった。

「フフッ♡女の人の身体、触っちゃってるよ・・・♡」
「すごく柔らかいです。」
「あらあら♡ちゃんと感想が言えて偉いわ・・・♡」

 左手で恋人の桃尻を触り、右手は恋人の豊乳に添える。夢心地か、はたまた羞恥の極地か。
 どちらにせよ、シラフなら絶対に出来ないような卑猥な姿勢を、征夜は花に強要されていた。

 耳元で囁き、理性を蕩かせる魔性の蜜声。
 アイドル歌手として活躍していた母より受け継がれた"男を魅了する才能"は、一介の童貞如きに抗える物ではなかったのだ。

「ほら、着いたよ?」
「えぇ・・・?」
「えぇ?じゃない!寝るよ!」
「えへへ~・・・!」
「・・・もうっ!ちゃんと分かってるの!?」

 花は急に、現実に立ち戻った。
 これまでの"Hなお姉さんモード"を辞め、恋人の手綱を握る姉さん女房へと変身した。

 肩を揺らして、征夜の正気を取り戻そうとする。
 だが、花の思いは微塵も届かず、征夜は完全に上の空。天井を見上げたまま、ボーッと呆けている。



 そんな彼を現実に引き戻したのは、恋人の声ではなかった――。



「あれ?・・・もしかして!吹雪征夜さんですか!?」

「おっ?」

 間抜けな声と共に振り返った征夜の目に飛び込んで来たのは、まだ10代半ばと見られる少年少女たち。

 瞳に星の光を散りばめた若人の眩い視線が、グデングデンに酔った"茹でダコ色のマッチョマン"に注がれているのは、中々に不可思議な光景だ。

「俺たち、征夜さんの話が聞きたいんです!」
「そうですよ!世界を救ったって聞きました!」
「私も知りたいです!」

 希望と期待に胸を膨らませた若人から放たれる、羨望と尊敬の入り混じった称賛の言葉。
 こんな物を聞かされて、気分を良くしない酔っ払いなど、この世に存在しない。

「・・・という事らしい!僕は行ってくるぞっ!」
「え?ちょ、待ちなさい!」

 花の手を振り払って、少年たちの元へ飛び出す。
 いつになくヤル気を出し、それでいて理性のタガが外れた征夜。そんな彼を止めるのに、花では力不足だった。

「男には!行かねばならぬ時があるのだ!」
「何言ってるのよ!もう!私、知らないからねっ!」

 両手をグーの形に握り締め、腰を折る。
 プクーっと頬を膨らませながら睨み付ける花の姿は、やはり可愛らしかった。

「あ・・・袴は脱いで行きなさい!汚れちゃうかも知れないから!」

「了解ッ!」

 花の助言を受けた征夜は、何の疑問も抱かずに上裸になった。
 剥き出しになった胸筋、腹筋、背筋を、これみよがしに見せつけて、少年たちを沸かせる。

「サイドチェストだぁッ!」
「バカな事やってないで、早く行きなさい!」
「は~い!」

 ボディビルダーの真似事を始めた泥酔脳筋バカに対して、花は喝を入れた。
 遠回しに「行ってらっしゃい」の言葉をもらった征夜は、玄関先で母親に見送られる学生のような面持ちで、廊下を駆け出して行く。



 ――だが、誰も居ない廊下に1人取り残された恋人の内心は、息子を見送った直後の母親ほど穏やかではなかった。



「"生殺しおあずけ"なんて酷いよ・・・身体・・・こんなに熱くさせて・・・///」

 胸に右手を当て、豊満な膨らみに指先を沈み込ませる。背筋を折り曲げ、前屈みになり、頬を紅潮させ、吐息を荒くする。

 可憐な仏頂面を浮かべた美少女は、瞬く間に姿を消した。
 そこに居るのは一匹のメス。性の快楽を知った、浅ましくも艶やかな"大人の女"であった。

「すぅ・・・はぁ・・・征夜ぁ・・・好きぃ・・・💕」

 左手で袴を掴み、襟首に嗅覚を研ぎ澄ませる。
 愛する男の匂いが、強く逞しい雄の精力フェロモンが、鼻腔を通って脳に浸透する。

 生地に染み込んだ咽せ返るような血と汗の匂いが、爽やかな物に感じられた。その事実を自覚した時、女の理性は"野性"へと転化する――。

「もう・・・我慢できないよ・・・///」

 ファサッと軽快な音を立て、ベッドに倒れ込んだ花。

 恋人と抱き合い、夜を越した寝床。
 まだ貞淑プラトニックな関係なのに、自分は今から自らの手で、その神聖な空間を侵してしまう。

「ごめんね・・・ベッド・・・汚しちゃう・・・。」

 抑えきれない情動が、罪悪感を踏み越える切なさを齎した。謝っても許されない禁忌を犯す背徳感が、花の骨髄を駆け巡る。



 そうして、花の細長い指先が、抗えない情欲に突き動かされるがままに、女の秘所へと差し向けられた――。



 左の親指と人差し指がニットの下に潜り込み、脇腹を伝ってブラジャーの中へと滑り込んだ。
 右の人差し指と中指は、柔らかい下腹部を滑り落ちながら、ルビー色のTバックの薄布を這い潜った。

「――ッ💕」

 電流のように迸る快感。悦びに打ち震える肢体は、腰を浮かせて悶えるのみ。
 声にならない喘ぎを漏らしながら、楠木花は背徳の快楽に溺れて行った――。

~~~~~~~~~~~

「おぉっ!アルスぅ~!」

「は?」

 征夜が廊下を進んで行くと、アルスが居た。
 目と目が合った瞬間、猛烈に嫌そうな顔をする。

「君も来い!僕の武勇伝を聞かせてやる!」

「は?なんで俺が?」

「良いから来るのだ!」

「うわっ!?」

 酔っ払いのダルすぎるノリと、強靭な腕力の合わせ技。
 予測可能、回避不可能の理不尽に絡め取られたアルスは、腕を引っ張られて連行された。

~~~~~~~~~~~

「ハゼルぅ~!」

「ひゃいっ!?」

 アルスを引っ張りながら廊下を進んで行くと、ハゼルが居た。
 両手に大荷物を抱えて、これから出掛けようとしている。だが、酔っ払った征夜にとって、そんな事は気にするほどの事ではない。

「君も来いよぉ~!」

「え、あ、えと・・・。」

「えぇ~、良いじゃーん!」

 ダルすぎるノリを全開にして、征夜はグイグイと詰め寄る。
 普段なら、絶対にこんな事はしない。だが、酔いが回ってしまうと、どうしても自分を抑えられないのだ。

 完全に悪酔いした征夜は、"嫌な上司"という存在を猛烈に体現していた。
 嫌がるハゼルにグイグイグイグイ詰め寄り、さながら啄木鳥キツツキのように首を振り乱す征夜。流石の鳥頭である。

「こんな楽しい事!もう二度と無いかもよっ!?ホントに来なくて良いの!?」

「あ、じゃ、じゃあ・・・行きます・・・。」

 弾丸のように連射される征夜の誘い文句に圧されて、ハゼルは首を縦に振った。
 半ば強制的に宴会メンバーゆうしゃパーティに加えられた少女は、酔っ払いの背後で行列を作る少年少女に混ざり混む。

「めっちゃ人増えたなぁ~!」

 猛烈に頭が悪そうなコメントを発しながら、征夜酔っ払いはケタケタと笑った。
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