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第九章 反逆の狼牙編

EP260 打ち上げ <☆・♤>

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「ハゼルは何の為に入ったんだ!?」

「え?」

「入隊の理由だよ!君にも有るんだろ!?」

 キョロキョロと視線を泳がせて、落ち着かない様子のハゼル。そんな彼女に、征夜は話を振った。
 質問の内容は、さっきまでと同じ。だが個人的に、征夜は彼女の返答が最も気になっていた。

「お父さんとお母さん……死んじゃって……覇王の手下……怖い女の人に……。」

「ソレは大変だったなぁ……。」

 心からの同情とは裏腹に、征夜の口調は軽薄だった。
 と言うのも、アルコールに脳がやられているせいで、正常な思考が殆ど働いていないのだ。

「私だけは、タンスに隠れてたんです……。
 お母さんも……お父さんも……乱暴されて……私……何も出来なくて……。」

「ふむふむ……!」

「その後……見つかっちゃったんです。けど、殺されなくて……。
 貴方みたいな"弱虫"に私は殺せない。って、笑われちゃって……。」

「ソレは酷いな……!」

「ソイツを倒す為に入隊して、ずっと訓練して……やっと、ソイツの情報を掴んで……。」

「偉い……!」

 同情と共に湧き上がる怒りが、征夜の心を奮わせた。
 それと同時に、ハゼルの心で燃え上がった復讐心を讃えたくなる。
 腐り切った外道には正義の鉄槌をブツけてやる。それは、正しい事であると思った。

「私が……私が言い出したんです!
 どうしても行きたいって!そしたら……私の隊の人……みんな良い人で……私を手伝いたいって……着いて来て!」

 頬を伝ってポタポタと滴る涙の粒。
 上擦った声色は震えており、極度の疲弊と恐怖、凄絶なまでの後悔を感じさせた。

「クフッ!アハッ!アハハハハッハハハハッ!
 みんな!みんなみんなみんなみんな!みーんな死んだ!私のせいでみんな死んだ!アハハハハッ!」

 ハゼルの心は、壊れる寸前だった。

 悲しい筈なのに、笑いが溢れて止まらない。
 こうでもしないと自分が保てないと、彼女は幼いながらに理解していた。
 だから笑う。笑って笑って笑い狂い、今の自分を力の限り俯瞰して、嘲笑ってみる。

「5年間!5年間ですッ!
 私の5年間ッ!みんなと一緒に頑張った5年間!み~んなパァッ!みんな死んだ!み~んなっ!
 私の事ずっとずっと可愛がってくれてた!みんな死んだ!私のせいで!一昨日まで生きてたのに!みんなみんな!みんな!アハッ!アッハハハハハッ!!!」

 顎が外れるほどの笑い声が宴会場に響き渡り、儚げな少女の発狂寸前な硝子の心を訴える。
 触れれば弾けてしまいそうで、その表面は薄い皮で保たれている。均衡が崩れれば、そこに在るのは修復不可能な崩壊だ。

「仲間が死ぬのは辛いよなぁ……"僕にも分かる"よ。」

 ギリギリのところで保っていた、少女の心の天秤。
 しかし最悪な事に、この時の征夜は"最強レベルの地雷"を全力で踏み抜いた――。

「貴方に私の何が分かるんです?
 この想いが!悲しみが!怒りが!私自身を許せない!この捌け口の無い激情が!貴方に!貴方に何が分かるんですッ!!!」

 逆恨みの暴言を吐く、無軌道な憎悪の延焼機関マシン
 その可憐で幼い顔立ちに似合わず、ハゼルの怒号は強かった。
 宴会場を包み込む喧騒の全てを飛び越えて、壁に当たって反響し、その音圧でグラスに注いだ水が揺れる。

「分かるよ!」
「良い加減な事を!言わないでください!」
「僕の仲間だって、死んだばかりなんだ!」
「……へ?」

 勢いに任せて放った征夜の言葉。その効果は、良くも悪くも絶大だった。
 怒りと偏狭に押し潰された少女の顔は、瞬く間に真っ白に硬直する。
 
「僕だって仲間を亡くしてる!
 同じような経験をしてるのは!君だけじゃないんだ!」

「え?……あ、は……はい……。」

 捲し立てるように声を荒げる征夜の勢いに圧され、ハゼルは萎縮した。
 その隙に付け入るようにして、征夜は"悪気の無い"自分語りを捻り込む。

「ミサラって言う子なんだけどね。
 すごく凄い子でね…………うっ……うぅっ……!」

 恋愛対象には幼すぎたし、タイプでもなかった。
 それでも、人生で初めて出来た本当の部下で、人生で初めて出来た本当の後輩。自分を慕って着いて来てくれた、人生で初めての人間。
 
 そんな彼女ミサラは間違いなく凄腕の魔法使いで、ルビー色の瞳が綺麗な美少女で、その能力も美貌もこれから開花する筈だった。

 そんな女性が、自分に付き従ったせいで――そう思うと、涙が溢れて止まらなくなる。

「あ、あの……泣かれると困るのですが……。」

 これでは、どちらが辛いのか分からない。
 ハゼルを励ます為に語りかけた筈が、アルコールに呑まれた征夜は真逆の方向に突き進んでいた。

 シラフであれば、こんな事はしなかっただろう。
 だが、根本的な問題として、征夜は他人を励ます経験と能力が不足している。

 だからこそ、"気配りの出来る人間"ならば決して言わない事を、平然と言ってしまうのだ――。

「うぅっ……ごめん……そ、そうだね……。
 でも、分かっただろう?君と同じ経験をした僕でも、なんとか生きてるんだ。大丈夫だよ……!」

「え?は?……え?」

 何が「だから」なのであろうか。
 一般的な視点から見れば、これは論外な発言と言わざるを得ない。

 自分も同じ経験があって、それでも生きている。
 そんな根拠とも言えない物を軸にして励まされたところで、一体誰が納得出来るだろうか。

「何……言ってるんですか……?」

 ハゼルの表情は引き攣っている。
 そこには、怒りなど微塵も存在していない。

「え……えぇと……。」

 その代わりとして存在するのは、純粋な"恐怖"と"困惑"であった。
 征夜が言いたい事は伝わるのだが、心で受け止めようと思えない。頭では分かっているのに、胸の中で反芻すると、どうしようもない不快感に襲われる。

 もはや完全に、征夜とハゼルの対話は破綻していた。

 この場に花が居てくれたら良かったのに。そう思わずには居られない光景。
 彼女が手綱を握っていれば、ここまでのディスコミュニケーションは起こらなかっただろう――。

「それにほら、君を想ってるのは僕だけじゃないよ!」

 征夜はそう言って、目線をハゼルの背後に向ける。

「……え?」

 困惑する少女。
 振り返れば、そこには――。

「ハゼルさん!僕達も居ますよ!」
「そうですよ!私も居ます!」
「みんな、志が同じ仲間だろ!?」

「…………。」

 振り返れば、そこに居るのは笑顔の群れ。
 まだ、出会って1時間も経っていないのに。
 まだ、話した事すらほとんど無いのに。
 まだ、お互いの事を何も知らないのに。

 それでも少年たちは、少女に手を伸ばしていた。
 そこに在るのは100%の善意と、100%の共感、100%の同情。純粋無垢な想いの集合体が、救いの手を差し伸べて立っていた。



 だが、今のハゼルには、そんな軽はずみな言葉など微塵も響かない――。



「貴方は……貴方は……何も!私の事なんて何も!何一つ分かってない……!」

 拳を握り締め、血管が千切れそうなほど眉に力を込め、ハゼルは征夜たちを睨みつけた。

 自分の過去を軽く流された挙句、長く連れ添った仲間の死という傷ましい経験すら、適当な同情に呑み込まれた。
 僅か5分にも満たない時間の中で彼女が受けた、筆舌に尽くし難いほどの冒涜。
 本人たちに悪気が有った訳ではないが、彼女にしてみれば屈辱以外の何物でもなかった。

「おやすみなさい……。」

「え?もう寝るの?」

「本当に……もう、ウンザリです。ここに居ても無駄だと言う事が、よく分かりました……。」

 怒りをブチ撒ける労力すら無駄だと言わんばかりの怒気を漂わせながら、ハゼルはセカセカと歩み出す。
 華奢な身体に見合わない大荷物を握り締め、ただ一人で歩んでいく彼女の姿は、どこか寂しそうに見えた。

(あんまり伝わらなかったかな……。)
 
 この悲惨な状況において最も重要な事は、征夜は至って真剣にハゼルの事を想っていた事だ。
 悪気など微塵も無かったし、彼女を励ます為に言える事を、アルコールに溺れながらも、自分なりに精一杯考えたつもりだった。

 だが、今の彼を形容するのなら「やる気のある無能」に他ならない。
 想いだけで人を救えるのなら、誰も苦労はしない。まともな思考も出来ない体調で、最低限の気配りをする能力も無いのなら、最初から何もしない方がマシだった。

(そうだ!こういう時、花はいつも……!)

 それなのに――征夜は、まだ諦めない。
 これ以上は、もはや何をしても無駄。客観的に見れば明らかな事なのに、征夜はまだ挑戦チャレンジする。

(きっと……花みたいにすれば……!)

 自分が落ち込んだ時、花はどうしてくれるのか。
 そう思い至った瞬間、征夜の身体は考えるより先に動いていた。

「ハゼル!待ってくれ!」

「まだ何か?…………ぇ?」

 足早に宴会場を立ち去ろうとする少女の背に、声を掛ける。
 振り返った彼女の不機嫌そうな目線にも気付かずに、征夜は詰め寄って行く。

「本当に……よく頑張ったね……。」

 花が自分に語りかける声で、花が自分を包み込む感覚で、花が自分を安心させてくれる抑揚で、征夜は語りかけた。

ギュッ……

 両手を広げて、ハゼルの背中を抱き寄せる。
 通常、それがセクハラと称される行為だという事実にも気付かずに、征夜は少女を抱きしめた。



(……ん?)

 だが、何かがおかしい。征夜は僅かな異変を感じ取った。抱きしめたハゼルの感触、懐の感覚が異様なのだ。

(なんか……冷たくない?)

 征夜の脳内に、疑問符が浮かんだ直後――。



カチッ……!

<みんな~!マジック好きか~い!?>

 突如として、響き渡る耳障りな声。
 軽快なスイッチ音と共に溢れ出したソレは、機械的で無機質なエンターテイナーの声。
 けれど、楽しむのは自分の役割で、楽しませるのは観客の役割。その点が、通常とは逆になっていた。

 悪辣かつ、心の底から愉悦を望むような声色で、その声は血祭りカーニバルの開幕を宣言する――。

「お?」

「……あ。」

 征夜の思考が停止し、ハゼルの顔から血の気が引く。
 唇が青くなり、瞳孔が開き、瞬く間に肌の色が土色に変色する。
 シンデレラの魔法が解けるかのように、辛うじて保っていた"生者のヴェール"は無遠慮に剥がされて行く。

「あっ……あ……ぁ……!」

「どうしたの?」

 少女は頭を抑えて呻き出し、視線が中空を漂流する。
 全身の震えは、崩壊の予兆を感じさせる。恐れ慄くように壁際へと駆け寄る様は、正気シラフの人間ならば明確な異常を察知するだろう。

 だが、この時の征夜は――。

「変なの出来てるよ?」

 危機を察知する本能より先に、好奇心が湧いた。
 それはさながら、自分でも知らないうちに危険な遊びに興じる、無垢な子供のようである。

 怯え竦んだ少女の首には、いつの間にか光の束が巻き付いていた。
 魔力で練られた可燃繊維は、蚊取り線香のように幾重にも螺旋を描き、その外周には一際赤い光が灯る。

<さぁさぁ!今夜のVIPも吹雪征夜!君だぁッ!!!
 いつもいつも、私のillusionを見てくれてありがとうッ!今夜も楽しんで行ってくれたまえッ!>

「……はい?」

「ぎゃあ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ッッッッッ!!!!!!!」

「ハゼル?」

 この世の物とは思えない断末魔を噴き上げる、土色の機械人形オートマタ
 目を話した隙に頭皮は抜け落ち、皮膚はゴポゴポと泡立ち、手足の関節が全て折れ曲がっていた。

「み"な"……い"でえ"……!」

 どうやって立っているのか分からないほど破壊され尽くした少女の身体は、更に刻一刻と原型を失って行く。

 首元に巻かれた輪から漂う白煙だけが、少女の無惨な容姿を隠す。
 尊厳を弄ばれながら崩壊していく彼女に残された最後の人権。それが、死に様を気味悪がられない事。
 もしも、この悍ましい姿を見て悲鳴を上げられたら、それは彼女にとって死よりも恐ろしい悲劇だった。

「ハゼル……どうしたの?」

 それなのに――征夜には、全てが視えた。
 永征眼が放つ琥珀の光は、少女が見られたくないと願った姿を視界に照らし、否が応でも認識させる。

(あれ?……何か変だぞ?)

 ここに来て、やっと征夜は僅かな"異常"を検知し始めた。だが、全てはもう手遅れ。後の祭りだ。

「に"、逃げ!逃げでぐだざ!ごぶぅ"ッ!!!」

 膨張した腹部から競り上がったドス黒い血の塊が、喉の奥から溢れ出た。
 その色は、鮮血と呼ぶにはあまりに濁って、"生きた人間"の血とは到底思えなかった。

<チック!タック!!チック!!!タックッ!!!!!
 さぁ!どうする吹雪征夜!?導火線には火が付いた!首を切らなきゃ止まらないッ!!!>

「導火……線?」

 ハゼルの首に何重にも巻き付き、白煙を噴き上げながら消えて行く魔力の筋。
 音を立てて消えて行く"命の線”という点において、ソレは、見れば見るほど打ち上げ花火の導火線に似ていた。

 刻一刻と迫るタイムリミット。
 げに恐ろしきは、その終わりが分かる事。

「お願い……止まっで……止まっでよぉ……!」

 ハゼルは何度も首を掻き、灯火を消そうと踠いた。
 焦燥と恐怖に押し潰されながら涙を流し、命を繋ごうと必死になる。けれど、震える指先は光の輪を透過して、無情にも虚空を切るばかり。



 少女は今、終幕を告げる砂時計に溺れる感覚を、意味も無く味わされていた――。



「あ"……ぁ"っぁ"……あ"ん"だの"……ぜい"で……!」

 肥大化した瞼は瞳を塞ぎ、目が開けられない。

 何故、自分がこんな目に遭うのか。
 理不尽な現実に対しての怒りが、理性を上回った。もはや体裁を繕う事すら出来ない。

「あ"……やだ……やだぁ……!怖い……怖いよ……パパ……ママ……!
 あ"……ぁ"……お願い……!助げで……これ……外し……!誰……かぁ……!」

 だが、そんな怨恨の声も長くは続かない。
 今の彼女を支配しているのは、怒りではなく恐怖だ。

 まだ生きたい。死にたくない。助けてほしい。
 そんな、人間として当然の欲求に突き動かされ、ハゼルは手を伸ばす。
 目の前に居るのが“どうしようもない男”だと分かっていても、助けを求めるに足る最低限の男気は有ると、彼女は信じたかった。

「ハゼ……ル?」

 しかし、助けを求めて伸ばす手の意味が、酔っ払った征夜には分からなかった。
 現状を上手く把握できずに困惑する様子の彼を見て、ハゼルの顔は青ざめた。

「なんで……伝……わら"な"……!?おねが……だずげぇ"……!」

 目の前に居る大人に救いを求めても、その意味すら理解してもらえない。
 怒りよりも先に来るのは、落胆だった。最後の最後に至るまで、目の前の男は"自分が抱える苦しみ"を何も理解してくれない。その現実を理解した。

「酷い"……ごん"な……ごんな"の"……酷ぃ"よ"……神……ざま……!」

 あまりにも馬鹿馬鹿しく、あまりにも腐った現実。
 一人の少女が人生の最後に味わう感情として、これほどの絶望が他に有るだろうか――。

<時間切れ。>

「ぁ"……待っでぐだざ……!」

 至って面白くなさそうに、淡白で冷酷な声が響く。
 その声色は、玩具に飽きた幼児に似ていた。

 つまらなくなった物を、片付ける知性など無い。
 バラバラになるまで床に叩き付け、挙げ句の果てに放り投げる、生物本来の残酷さ。

 その発露を、見せ付けるように――。

「何か……何かヤバいッ!」

 泥水の海に沈んでいた征夜の思考が、ようやく深海から浮上した。
 "生存本能"の清流によって洗い流されたヘドロが脳内から剥がれ落ち、正気シラフに立ち戻る。
 だが、周囲に立ち込める致命の予兆を受け止めたところで、既に全てが手遅れであった。

「みんな伏せろぉッ!!!」

 事態の把握が追い付かずに右往左往する少年を尻目に、征夜は叫び、腕を突き出した。
 誰かも分からない男の肩を抱えて、力の限り押し倒し、蜘蛛のように両手足を広げて覆い被さる。

「ぅぁ」

 あまりの急展開と全身に掛かる征夜の体重に驚いた男は、情けない吐声を漏らした。
 皮肉な事に、この場に居る者の中で事態が如何に深刻かを最初に理解したのは、酔いが覚めたばかりの征夜だったのだ。



 そして、息着く間も無く訪れる、"決壊"の時。



 プチッ――と、底抜けに耳障りな音が奏でられる。
 直後、爆炎と轟音を噴き上げながら、征夜の背後で少女ソレは弾け散った――。

~~~~~~~~~~

 立ち昇る業火と黒煙は、暗黒の夜空へと落ち伸びる滝のようだった。
 湧き上がる絶叫と悲鳴の嵐は、さながら祭囃子。死と絶望の歓声が、極彩色の火祭りを美しく煌めかせていた。

 月すらも覆い隠す、闇色のキャンバス。
 どこを見渡しても黒しか無い暗黒空間の中で、一点だけ、穿たれた隙間があった。

ジュッ……

 暗闇に、微弱な摩擦音が灯る。
 それは、マッチが煙を立てる音だった。
 口元に咥えた白の円柱に火を付け、一仕事を終えた後の余韻に浸りながら、目を瞑って白煙を吸った。

 黒一色のトレンチコートは、その者が闇の世界の住人だと、これ以上無いほど如実に語っている。
 風に靡く燻んだ金色の長髪は、月の光に濡れている。けれど、青銀の月光が透過してなお黄金と呼ぶには暗過ぎて、白昼には馴染めないだろう。

 言うまでもない事だが、その者は浮いていた。
 "翼竜"の如き黒翼を夜風にはためかせ、悠然と浮遊している。その立ち姿は楽しげで、笑っているようにも見えた。

「随分と、派手に"打ち上がった"じゃないか……!」

 大玉花火の"仕掛け人"は、これ以上ないほどご満悦。
 耳下までパックリ裂けた口をケタケタと振るわせて、響かせるのは高笑い。

 そう、そこに居たのは――。

 宿命で定められた、史上の敵。
 一人の男が生まれながらに背負い受けた、主題にして原罪。

 星が渦を巻く闇夜あんやの世界で、"呪いの権化"は謳っていた――。
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