青の願い

浅葱紫雲

文字の大きさ
上 下
1 / 1

嵐の日の出来事

しおりを挟む
__空に稲妻が走る。

 遠い山で一本。。近い山で一本。そして遠い山で、また一本と黒い雲の中を光が走る。
 その景色を城内から眺めている人物がいた。稲光に照らされる人物は、白い着物に赤い羽織を身に纏い、黒い髪を後ろに高く結っている。その姿は、皇族の男児の姿をしている。だが、男児にしては、少々線が細いようにも見える。

「姫様」扉の向こうから声がかかる。
「青秀か、入れ」
 入室を許可すると、従者である青秀が部屋に入ってきた。青秀は、『姫様』と呼んだ皇子に近づき跪いた。
「青秀、私のことは殿下と呼べと言ったはずだ」窓から視線を逸らさずに、冷たく言い放つ。
「いえ、俺にとって姫様は、この国の皇女です」
 その言葉に振り返る。
「良いか、我が国は長子が女児であることは不吉であるという。皇族の長子である私が女であることは、民を不安にさせる」
「ですが、俺は姫様に女として生きてほしいのです」
「貴様の思いなど知らん。私は男だ」
 雷が再びなり、皇子の顔を照らす。

 __いえ、男にしては線が細すぎます。

 青秀は改めてそう思った。

 貴方がいくら皇子で在ろうとしても、成長していく体を偽ることはできないでしょう。衣を重ねて隠している細い体。いくら鍛錬を重ねてもそれ以上つくことのない筋肉。背は高い方だが、確かに開いていく身長差。

「姫様も、もう隠し通せないとお思いでしょう」お願いです。そうおっしゃってください。
 けれども、従者の願いは叶わず、皇子は否定する。
「隠し通せる通せないの話じゃない。この国の為にすべきことだ」
青秀は立ち上がった。
「では、意地でも姫様が女であることを証明してみせます」
青秀は大股で皇子のもとに近づき、皇子の着物に手を伸ばす。
「な、何をする」
皇子は慌てて、その手を払おうとしたが、弾かれてしまった。
「姫様が男ならこれくらい払えるでしょう。どうぞ、振りほどいてください。俺はそれほど力を込めておりません」
皇子の伸ばした手は、青秀の腕を掴んだが、振りほどくことができない。青秀は皇子の胸元を寛げた。同時に、稲光が皇子の体と青秀の横顔を照らした。胸にはきつくさらしを巻き付け、女性らしい胸元を男性的な胸板になるようにしていた。皇子の顔に朱が走る。
「見るな!」
皇子が青秀の頬を叩いた。しかし、青秀は帯を掴み一気に解いた。そして、自分の懐から小刀を取り出して、細い腰回りを隠すために巻き付けた布から、胸のさらしまでを引き裂いた。顕わになった上半身をみて、皇子は青秀を突き飛ばした。胸元を羽織を合わせて隠し、部屋の扉へと急いだ。逃がすまいと、青秀が皇子を羽交い絞めにし、暴れる皇子を押さえつけながら、寝台に押し倒した。これから起こることを理解した皇子はさらに抵抗する。
「や、やめろ。こんなことをしても私の意志は変わらない」
「それはやってみなければわかりません。俺が姫様の呪いを解いてみせます」
暴れる皇子を上から押さえつける。

「嫌なら後で俺を死罪にしてください」

そう言い放ち皇子に口づけた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...