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29.王子、己の存在意義 ※ルシアン視点
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「やっと目を覚ましたみたいだね」
ついさっきリリナから目を覚ましたって報告を受け、私はガレスとともに魔物使いの男の牢屋に向かった。
土格子越しに男が私たちを睨んでいる。
目の焦点は合っており、私が誰かを認識している様子だった。
「俺を捕まえて、何をする気だ」
しわがれた声が低く響いた。
「率直に聞く。お前の目的は何だ?」
ガレスが腰の剣に手を添え、緊張感を孕んだ声で問う。
しかし、男は答えないようとはしない。
沈黙は拒絶よりも重く響く。
何も答えようとしない男に私は一歩前に近づいた。
「魔物使い……いや、セラフを破滅させた子孫よ」
男の肩が微かに揺れる。
アースドラゴンは、旧セラフを滅ぼした者と同じ性質の魔力をこの男から感じ取っていた。
魔力の性質は血に宿る。
突然変異がなければ、両親や祖父母からと代々受け継ぐことが多い。
それを考えると、目の前の魔物使いは旧セラフを襲ったやつの子孫の可能性が高い。
「なっ……俺らは、仕方なくやっただけだ!」
がなるような声。
言い訳にしては、あまりにも感情的だった。
「仕方なくだと!」
ガレスの剣を私は奪い取り、音もなく男の喉元へと突きつけた。
鋼の冷たさに男の喉がかすかに震える。
「住むところを奪われた民の気持ち、消えていく命すらも仕方ないと言えるのか!」
「くっ……」
怒りが声に滲む。
私は目の前の男が何を言おうと、許す気になれなかった。
あれがなければセラフに住む人たちは苦しい思いをしなくても済んだ。
動物だって生きるために、捕食する側とされる側に分かれる。
それは私も理解をしているが、亡くなった祖父や両親をずっと見ていた私に取っては、目の前の男が憎くて仕方ない。
毎日雨乞いをする者や食べるものがなくて餓死をする者もいる。
そんな民に祖父や両親はいつも優しく接していた。
どれだけ己が痩せこけたって、民の幸せを願う家族の姿に私はある種の呪いにも感じていた。
「だが……お前にどうこう言っても仕方がない」
私は剣を下ろす。
深く息をつき、心を鎮めるように。
「そもそも悪いのは、民が苦しむ国王制度だからな」
セラフとして小さな国だった時は、争いごともなく幸せな日々を過ごしていたと本には書いてあった。
朝には鳥のさえずりが響き、子どもたちの笑い声が街を包んでいた。
そんな日々も、もう昔の話だ。
他国を牽制するためにセラヴィア連邦王国となったが、国王を決めるようになったのが民を苦しませる原因となった。
男がいたウラギールでも、きっと同じような闇が渦巻いているのだろう。
それだけ国王を決める争いは、激しさを増しているからな。
「……ならここから出してください! せめて……家族だけでも……!」
男は声を震わせながら頭を下げた。
きっと家族がウラギールの捕虜となり、脅されているのだろう。
過去の私ならウラギールのように有能な人物がいれば、同じ手を使っていたのかもしれない。
特にリリナみたいな――。
「ガレス、あれは何がしたいと思う?」
「いやー、あいつは何を考えているかわからんからな」
私に気づいたのかこっちに手を振りながら、魔物使いの魔物に縄を結んで引きずっている
いや、あれは謎すぎて有能なのかどうかもわからない。
「ルシアン様ー! イヌとネコって散歩好きじゃないんですか?」
魔物たちはガタガタと震えている。
あれを散歩と言っていいのかわからないけど、魔物が震えているのにリリナは気づいていないようだ。
魔物も誰彼構わずに助けを求めている。
敵だとわかっている私にも、瞳をうるうるさせてこっちを見ているからな。
「お前ら大丈夫だったのか!?」
『ガウゥゥゥゥ……』
『カエリュ……』
男が目を覚ましたことに気づいたのか、魔物たちは男の影に帰ろうとする。
だが、リリナからは逃れられない。
「ほら、ちゃんと運動しないと寝れないですよ」
リリナが縄を引っ張れば、影に入ることもできない。
リリナなりの優しさだろうけど、私でも魔物に同情してしまう。
「それであなたは何の目的があってここに来たんですか?」
「それを言ったら見逃してくれるのか?」
「場合によって……かな」
私はその場でニコリと笑う。
魔物使いをそのまま逃すはずがない。
ただ、使える者は有効的に使わないと損になる。
それにいつまでも過去に縛られていたら、守るべき者も見逃してしまう。
「もうやっぱり私が運ばないと――」
『『ハシリマス!』』
ふと、リリナを見ると、動かない魔物に呆れたのか抱えようとしていた。
魔物は再び立ち上がって走り出した。
「くくく、やっぱり面白いな」
普通では見ない光景に、私もつい笑ってしまう。
私もリリナに出会って知らないうちに変わったのだろう。
前の俺は生きるのに精一杯で、笑うことすら忘れていたからな。
「それでどうするんだ? 正直に話してこっちに着くか、それともウラギールに戻るか」
自分の国を選ぶのか、それとも家族を選ぶのか、男の本音を私は聞きたいだけだ。
家族のために国を捨てる覚悟があるなら、価値はある。
あれだけ魔物もリリナを恐れていたら、セラフを襲うこともしない……いや、できないだろう。
「……俺はそっちの味方につく。だから、家族を助けてください。お願いします」
男はその場で頭を下げた。
その姿にどこか、幼い時に見た両親の姿を思い出した。
両親は同じ連邦王国である国々に頭を下げていた。
どうにか民を生かせてあげたいと。
その結果、国王になるのを拒否したが、最後は毒殺されて死んでしまった。
生かしておくのも都合が悪いと思ったのだろう。
国を豊かにするには、己で勝ち取るしか方法はない。
ただ、私は私らしく勝利を掴むことにしよう。
「わかった。君たち家族は絶対に助ける」
私は男が入っている牢屋の扉を開けた。
ついさっきリリナから目を覚ましたって報告を受け、私はガレスとともに魔物使いの男の牢屋に向かった。
土格子越しに男が私たちを睨んでいる。
目の焦点は合っており、私が誰かを認識している様子だった。
「俺を捕まえて、何をする気だ」
しわがれた声が低く響いた。
「率直に聞く。お前の目的は何だ?」
ガレスが腰の剣に手を添え、緊張感を孕んだ声で問う。
しかし、男は答えないようとはしない。
沈黙は拒絶よりも重く響く。
何も答えようとしない男に私は一歩前に近づいた。
「魔物使い……いや、セラフを破滅させた子孫よ」
男の肩が微かに揺れる。
アースドラゴンは、旧セラフを滅ぼした者と同じ性質の魔力をこの男から感じ取っていた。
魔力の性質は血に宿る。
突然変異がなければ、両親や祖父母からと代々受け継ぐことが多い。
それを考えると、目の前の魔物使いは旧セラフを襲ったやつの子孫の可能性が高い。
「なっ……俺らは、仕方なくやっただけだ!」
がなるような声。
言い訳にしては、あまりにも感情的だった。
「仕方なくだと!」
ガレスの剣を私は奪い取り、音もなく男の喉元へと突きつけた。
鋼の冷たさに男の喉がかすかに震える。
「住むところを奪われた民の気持ち、消えていく命すらも仕方ないと言えるのか!」
「くっ……」
怒りが声に滲む。
私は目の前の男が何を言おうと、許す気になれなかった。
あれがなければセラフに住む人たちは苦しい思いをしなくても済んだ。
動物だって生きるために、捕食する側とされる側に分かれる。
それは私も理解をしているが、亡くなった祖父や両親をずっと見ていた私に取っては、目の前の男が憎くて仕方ない。
毎日雨乞いをする者や食べるものがなくて餓死をする者もいる。
そんな民に祖父や両親はいつも優しく接していた。
どれだけ己が痩せこけたって、民の幸せを願う家族の姿に私はある種の呪いにも感じていた。
「だが……お前にどうこう言っても仕方がない」
私は剣を下ろす。
深く息をつき、心を鎮めるように。
「そもそも悪いのは、民が苦しむ国王制度だからな」
セラフとして小さな国だった時は、争いごともなく幸せな日々を過ごしていたと本には書いてあった。
朝には鳥のさえずりが響き、子どもたちの笑い声が街を包んでいた。
そんな日々も、もう昔の話だ。
他国を牽制するためにセラヴィア連邦王国となったが、国王を決めるようになったのが民を苦しませる原因となった。
男がいたウラギールでも、きっと同じような闇が渦巻いているのだろう。
それだけ国王を決める争いは、激しさを増しているからな。
「……ならここから出してください! せめて……家族だけでも……!」
男は声を震わせながら頭を下げた。
きっと家族がウラギールの捕虜となり、脅されているのだろう。
過去の私ならウラギールのように有能な人物がいれば、同じ手を使っていたのかもしれない。
特にリリナみたいな――。
「ガレス、あれは何がしたいと思う?」
「いやー、あいつは何を考えているかわからんからな」
私に気づいたのかこっちに手を振りながら、魔物使いの魔物に縄を結んで引きずっている
いや、あれは謎すぎて有能なのかどうかもわからない。
「ルシアン様ー! イヌとネコって散歩好きじゃないんですか?」
魔物たちはガタガタと震えている。
あれを散歩と言っていいのかわからないけど、魔物が震えているのにリリナは気づいていないようだ。
魔物も誰彼構わずに助けを求めている。
敵だとわかっている私にも、瞳をうるうるさせてこっちを見ているからな。
「お前ら大丈夫だったのか!?」
『ガウゥゥゥゥ……』
『カエリュ……』
男が目を覚ましたことに気づいたのか、魔物たちは男の影に帰ろうとする。
だが、リリナからは逃れられない。
「ほら、ちゃんと運動しないと寝れないですよ」
リリナが縄を引っ張れば、影に入ることもできない。
リリナなりの優しさだろうけど、私でも魔物に同情してしまう。
「それであなたは何の目的があってここに来たんですか?」
「それを言ったら見逃してくれるのか?」
「場合によって……かな」
私はその場でニコリと笑う。
魔物使いをそのまま逃すはずがない。
ただ、使える者は有効的に使わないと損になる。
それにいつまでも過去に縛られていたら、守るべき者も見逃してしまう。
「もうやっぱり私が運ばないと――」
『『ハシリマス!』』
ふと、リリナを見ると、動かない魔物に呆れたのか抱えようとしていた。
魔物は再び立ち上がって走り出した。
「くくく、やっぱり面白いな」
普通では見ない光景に、私もつい笑ってしまう。
私もリリナに出会って知らないうちに変わったのだろう。
前の俺は生きるのに精一杯で、笑うことすら忘れていたからな。
「それでどうするんだ? 正直に話してこっちに着くか、それともウラギールに戻るか」
自分の国を選ぶのか、それとも家族を選ぶのか、男の本音を私は聞きたいだけだ。
家族のために国を捨てる覚悟があるなら、価値はある。
あれだけ魔物もリリナを恐れていたら、セラフを襲うこともしない……いや、できないだろう。
「……俺はそっちの味方につく。だから、家族を助けてください。お願いします」
男はその場で頭を下げた。
その姿にどこか、幼い時に見た両親の姿を思い出した。
両親は同じ連邦王国である国々に頭を下げていた。
どうにか民を生かせてあげたいと。
その結果、国王になるのを拒否したが、最後は毒殺されて死んでしまった。
生かしておくのも都合が悪いと思ったのだろう。
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