【完結】婚約破棄された令嬢、マッチョ売りに転職しました!〜筋トレのために男装してたら、王子の護衛にされました〜

k-ing /きんぐ★商業5作品

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31.筋肉令嬢、代わりになる

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 すぐに私たちはルシアン様に集められた。
 その場にはガレスさん、アシュレイの他に動物使いのブレーメンがいた。

「みんなに集まってもらったのはウラギールで起きている魔物襲撃についてだ」

 優しいルシアン様のことだから、すぐに魔物の討伐に向かうと決断するだろう。

「今回は静観するつもりでいる」
「話と違う――」
「なんですって!!」

 私の声はブレーメンの声をかき消すほどに部屋に響いた。
 だって魔物と戦えないなんて――。

「リリナ、少し静かにしようか」
「はい……」

 ルシアン様は笑顔なのに、どこか笑っていない視線で私を見つめてくる。  
 その笑みは、まるで凍りついた湖の上に貼りつけた仮面のようだった。  
 普段のような温もりはどこにもなく、静かに何かを押し殺しているように見えた。
 普段見たことないルシアン様の表情に胸が苦しくなる。
 ルシアン様って、たまに少年ぽくない大人のような真面目な表情をする。
 それが魅力でもあるんだけどね。

「くくく、怒られてる」

 怒られた私を見て、アシュレイは笑っていた。

「アシュレイも無駄口を挟まない」
「はい……」

 変なこと言うから、アシュレイも一緒になって怒られていた。
 誰も話さない静かな空気が流れた後に、ブレーメンが静かに立ち上がった。

「俺は家族を助けに行きます」

 低く芯の通った声だった。  

「家族……ですか?」

 私は話したことに気づいて、すぐに手で口を押さえたが遅かった。
 みんなの視線が私に向いている。

「家族を捕虜にされているブレーメンの気持ちはわかる」
「捕虜ですって!?」

 ルシアン様の言葉に驚いて声が出てしまった。

「リリナー? 君はすぐに忘れちゃうのかなー?」
「すみません」

 だって、急に捕虜の話が出てきたら、誰だってびっくりする。
 ブレーメンの家族が捕まっているなら、助けに行かないといけない。
 ただ、ルシアン様が動けないってことは、何か問題に繋がるのだろうか。

「今、私が動けば魔物を使ってウラギールを襲撃したと思われる」
「それはわかってます」

 あれ? どういうこと?
 ルシアン様がウラギールを襲撃して利益があるのだろうか。
 ブレーメンだけではなく、ガレスさんやアシュレイも頷いているから、理解できていないのは私だけのようだ。

 なんで、みんなわかっているの?

 胸の奥がざわざわする。
 この場にいる全員が、あらかじめ何かを共有しているような、そんな空気だった。
 まるで私だけが知らない地図の上に立たされているみたい。  
 私だけが知らない話題、私だけが理解していない空気。  
 ガレスさんも、アシュレイも、ブレーメンも――まるで事前に答え合わせを済ませているような顔だった。  
 私がここにいる意味って、なんだろう。  
 胸の奥がキリキリと痛み、知らない地図の上に一人きりで立っているような錯覚に襲われる。

 視線が自然とルシアン様に向く。
 彼の表情はどこまでも静かで、優しげなまま、どこか張り詰めていた。
 普段のような朗らかさはなく、その瞳には冷たい水面のような光が宿っていた。

 まるで、何かに縛られているような……。

「まずは状況の確認だが――」
「状況の確認をしている場合ではないですよね?」

 私は我慢できずに口を挟む。
 理由がわからないだけで、動けないなんて納得できなかった。
 ブレーメンの家族は今魔物に襲われているウラギールにいるんだよね?
 それにウラギールにもセラフのように住んでいる人がいる。

「リリナ?」
「次はここかもしれないし……」

 私はブレーメンに近づき肩に手をかけた。
 彼の体温がじんわりと手のひらに伝わる。
 きっとさっきの決意は本物だろう。
 私だって、誰かが家族を助けたいと思う気持ちを止めることなんてできない。

 ルシアン様が動けない理由はわからない。
 でも、動かないまま誰かが傷つくのは、もっとわからない。  
 なら――私が代わりに動けばいい。 
 魔物と正面から戦えない……手合わせできないなら、見つからなければいいだけだ。  
 私は私なりに力を使いたい。
 せっかく作ったこの町がまた住めなくなるのは悲しいからね。

「ルシアン様がいけないなら私が行きます」
「えっ!?」
「「はぁん!?」」

 私はブレーメンを肩に担ぐ。
 その行動に私以外のみんなは驚いている。

「彼の家族を助けられたらいいんですよね? 私、隠密行動も得意なんです!」

 魔物と手合わせができないなら、見つからないように素早く動けばいいだけだ。
 魔物って動物よりも感覚が鋭いって聞くから、それも訓練の一つになりそう。
 プロテイン公爵家の使用人たちも、よく隠密訓練って言って、私の後を追いかけてきたからそれと似たようなものだろう。

「勝手な行動は――」
「それに……今のルシアン様は……なんかあまり好きじゃないです」

 私がルシアン様の側で働きたいと思ったのは、優しくて眩しい笑顔をしたルシアン様。
 どこか暗くて、大人っぽいのはルシアン様ではない。
 そんなルシアン様になってしまうなら、側付きマッチョとして『正々堂々と力で勝負』して解決すれば問題ない。

 ブレーメンを抱えたまま外に出る。

「おい、ここは屋敷の3階……うぎゃあああああ!?」

 肩に抱えているブレーメンもやる気があるのか、大きな声で叫んでいた。
 私は森の奥にあるウラギールに向かった。
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