【完結】婚約破棄された令嬢、マッチョ売りに転職しました!〜筋トレのために男装してたら、王子の護衛にされました〜

k-ing /きんぐ★商業5作品

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33.筋肉令嬢、魔物と手合わせがしたい!

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 森を超えると城壁が見えてくる。
 なぜか一部の森と城壁が、まるで強い風に吹き飛ばされたかのようになっていた。
 そこに一点して魔物が攻めてきたのだろうか。

「まずは魔物を優先的に排除します」
「俺も手伝います」

 どうやら動物使いも手伝ってくれるのだろう。
 影から顔を出しているイヌとネコもやる気のようだ。
 ただ、問題なのは相手が魔物ってどこだろう。

「相手は魔物です! 無理はしないでください」

 いくらイヌやネコが二足立ちできたからって、魔物と戦えるわけではない。
 魔物は人間を死に追い詰めるような危ないやつらだ。
 私でもブレーメンを守りながら戦えるかわからない。

「いや、俺も魔物使いなんだが……」

 ブレーメンはいまだに魔物使いと誤解しているのだろう。
 勘違いしたまま、誰も教えてあげないって中々可哀想だよね。
 ここで魔物と動物の違いをしっかりと学ぶのも良い機会になるはずだ。

 私たちはウラギールの城壁に着くと、ゆっくりと中を覗く。

「これが魔物の力か……」

 建物が崩壊して、町は荒れ果てている。
 パッと見た感じは魔物の存在は見当たらない。
 旧セラフを初めてみた時のことを思い出す。
 幸いなのは土地が荒れ果てたわけでもないため、復興が早く済みそうなところだろう。
 また、みんなに協力してもらわないとね。

「魔物はどこにも……ってあぶないですって!」

 ブレーメンは町の中に入ると、走ってどこかへ向かって行く。
 きっと行き先は奥の方にある屋敷だろう。

「きゃあああああ!」

 私はブレーメンを追いかけようとしたが、別のところで叫び声が聞こえてきた。
 ブレーメンが裏切って逃げ出すかもしれない。
 だが、今は叫び声が聞こえた方に向かうのが先だろう。
 私はブレーメンと別の方向へ走り出した。

「誰かいますかー!」

 叫び声が響いた方向へ走っていくと、瓦礫の陰で一人の少女がうずくまっていた。

「大丈夫!?」

 駆け寄って声をかけると、少女は顔を上げた。
 涙で濡れた頬、泥にまみれた服。
 その肩が小刻みに震えている。
 それだけ怖い思いをしていたのだろう。
 どうやら瓦礫の隙間にうまいこと挟まって、抜け出せなくなっていたのだろう。
 私は瓦礫を片手で持ち上げる。

「しっかりして!」
「うっ……」

 どうやら意識が朦朧としているようだ。
 私は手に魔力を込めて、軽く頬を叩く。

――バァン! バァン!

 大きな音が町の中に響くが、次第に少女は目を覚ます。

「大丈夫?」
「うん……かっこいい……」
「んっ? どうした?」

 なぜか少女は顔を赤く染めて、私の顔をうっとりとした表情で見つめてくる。
 決して叩いた影響で顔が赤くなっているわけではない。
 魔力を込めているから、体の痛みは治療されているはず。

「魔物はどこに――」
「お姉ちゃんがあぶない!」

 少女は大きく目を見開くと、私の腕から降りる。
 そのまま町の奥へと走って行く。
 どうやらお姉ちゃんが魔物から逃げているらしい。

「ちょっと失礼するよ」
「きゃ!」

 私は少女を抱きかかえると、そのまま少女が向かおうとしていた方へ走る。
 そこには何かが走っている姿が見えた。
 あれが魔物だろうか。

「ちょっとごめんね」

 お姫様抱っこをしていた少女を片手で抱えるように持ち替え、首に手を回してもらう。
 初めてゴブリン以外の魔物に会えたことに少し嬉しくなりながらも、一瞬にして近づく。

「魔物さん手合わせを――」

 魔物の前に回り込んで、間近で魔物を見つめる。
 やっと魔物と手合わせができる。
 そんな邪な気持ちで胸がいっぱいだ。

『シャアアアアアア!』

 魔物は私を見て大きく鎌を振り上げる。

「魔物って……ただのカマキリじゃないの!」

 魔物だと思って近づいたのに、実物はただの大きなカマキリだった。
 ……いや、「ただの」と言っていいのか迷うくらいには、見た目がアウトだった。
 全長は人の倍以上はあるだろう。

 でかい……とにかく虫なのにでかすぎる。

 緑色の外骨格はテカテカといやらしく光り、なんとなくヌメッとして見えるのがさらに許せない。
 
 ……虫って乾いてなかったっけ?

 細長い鎌のような前足は、カシャン、カシャンと意味もなく空振りしていて完全に威嚇ポーズ。
 「ほら怖いだろう?」と言いたげに動くたび、関節からかすかにギチギチという音が鳴っていて、妙に生々しい。
 しかも、その足には細かい毛がみっしりと生えている。
 まるで「私は昆虫です!」と全力で主張してくるようで思わず一歩下がった。
 そしてなぜか、口がずっとカチカチ動いている。
 別に何か食べてるわけでもなく、なんか「早口で文句言ってくる太った貴族」みたいな動きで逆に腹が立ってきた。

「手を使うまでもない」

 私は足をそのままカマキリに向かって放つ。

――ドスン!

 低く鈍い音とともにカマキリの体がふわりと浮く。

「虫は森に帰りなさい!」

 足をそのまま森に向かって蹴ると、勢いよくカマキリは飛んで行った。
 これでカマキリは無事に森に帰っていけただろう。
 あれだけ大きな体をしていれば、虫もそう簡単には死なない。

「お姉ちゃん!」

 少女はすぐにお姉ちゃんのもとへ駆け寄る。
 すぐに気づいたのか、お互いに抱き合っていた。
 姉妹の感動的なシーンについ私もウルっと……。

「良いところなのに邪魔しない!」

 虫が姉妹に近寄ってくるところが見えたため、私は体を掴むとそのまま再び森に投げ帰した。
 魔物だと思っていたのに、どれもただの虫で残念だ。
 しかも、ほとんどが見た目が気持ち悪いカマキリやムカデ、クモばかり。
 そして、一番厄介なのは翅をバサバサと鳴らしていたゴキブリだ。
 やつは決して大きくしてはいけない虫だ。

「せめてカブトムシかクワガタがよかった!」

 大きなカブトムシやクワガタなら、まだ手合わせができたかもしれない。
 次々と虫を掴んでは、森の方へ放り投げると周囲に虫の姿はいなくなった。

「君たちも安全な場所に隠れるんだよ?」
「「はい! 私の王子様!」」

 私は少女たちに声をかける。
 なぜか少女たちは目をキラキラと輝かせて私を見ていた。
 女性の私を王子様と勘違いしていたが、子どもの憧れを壊すわけにはいかないだろう。
 私は優しく微笑み、その場を去って行く。
 その後も町にいる虫を投げ飛ばしながら、屋敷に向かったブレーメンを追いかける。
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