上 下
34 / 43

魔女と残影

しおりを挟む
 ベッドの上で何度目かの剣を出現させる。

 初めて剣を顕現させてから、毎日どうしたら出るのかそれを試し続けている。

 最初は運が良ければ出るかなってくらいの頻度だったのが、最近は想えば出る程度にまで安定している。

 出したり、消したり何度も試す。

 あとはこれを部屋以外の状況下で、でも出来るようにならないと自分やりたいことは出来ない。

 僕の想像が正しければ、彼女を殺すにはあの箱の外でするしかない。

 そのためには様々な状況下で安定して顕現させる必要がある。

 剣を顕現させると時折、右手がこわばる。

 少しだけどこかぞわぞわした感覚が付きまとう。

 彼が僕の体を蝕み、少しでも乗っ取ろうとしているのを理解する。

 右手を少し眺めると、なんとなく肌の色素が落ちている気さえする。

「なぁ、あなたは本当に彼女を殺したいのか?」

 どこでもなく中空に向かって、言葉を投げかけるが当然返事はない。

 はぁとため息を吐き剣を消すと、日課の深夜徘徊をする。

 最近は夜はなかなか眠れず、真夜中に家を抜け出しブラブラと歩くことが増えた。

 箱の中での出来事は夢だったのかとも毎回思うけれど、あの血の匂いやぬめりの記憶が蘇ると、決して夢ではなかったんだと思い知らされる。

 近くの河原へ行き誰も居ないのを確認すると、そこでもう一度剣を顕現させる。

 部屋で出すときと違って粒子が少し小さく、剣の形を保つのが難しい。

 その剣は発光するから、真夜中に水面をカラーライトで照らしているかの様。

 剣を顕現させると、素振りをする。

 箱の中での自分の醜態を、思い出しては悶えそうになるのを耐える。

 どうしたらちゃんと斬ることが出来るのか。

 それを想像の中の自分を動かしながら考える。

 何度も剣舞になるように、体の余計な力みで野暮ったい動きとなり振り回される。

「剣に使われてるな……」

 僕の意志ではない、言葉が口からでる。

「僕も同感だよっっっ」

 言葉を口にしながら剣を振る。

 素振りが終わると剣を消し、家に帰る。

「私に使われれば、お前もすぐに開放されるのに……。めんどくさいやつだな……」

 めんどくさいやつで悪かったな。

 それでも決着は自分の意志でつけたいんだ。

 自分の人生で一番大切な行動を誰かに委ねたくはない。

 だから地面をいつも以上に踏みしめながら、帰路につく。
しおりを挟む

処理中です...