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序章 異能力者転生編

第22話 異能力者vs異能力者・吸血鬼vsアンデット

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負傷した二階堂の血痕を追い、ルヒトが路地裏まで辿り着く。

「クヒヒ…逃げようったってそうはいかないよ。
 貴様らの考える小賢しい策など、私の瞬間移動の前には無意味だ」

彼が路地裏の陰へ足を踏み入れると、頭上から鬼灯が拳を振り下ろし、ルヒトへ奇襲を仕掛けた。

「…まさかとは思うが、血痕を囮に誘い出し、
 死角から奇襲を仕掛けるなんて、古典的な手は使わないよね?」

上から降ってくる鬼灯に反応すると、ルヒトは街道まで瞬間移動する。
鬼灯の振り下ろした拳が地面に突き刺さるも、彼女は攻撃を諦めない。

「ファイアブロー!地を這って野郎に燃え移れ!!」

鬼灯の拳から出た炎が、路地裏の石畳を這って移動し、間合いを取ったルヒトへ襲い掛かった。
迫り来る火炎を前に、ルヒトは不敵な笑みを浮かべる。

「クヒヒ…!まだ分からないかい?私の転移能力は、君の火炎さえも利用する!!
 この炎に手で触れ、君の体に瞬間移動させてやろう!!」

ルヒトが炎へ手を伸ばした瞬間、鬼灯は能力を解除し、自身の火炎を消滅させた。

「アタシが出した炎だ、私がいつでも消すことが出来る。テメェ如きの好きにはさせねえよ」

「何か勘違いしているようだね、別に私は炎など使わずとも、攻撃できるんだよ」

ルヒトは手に持った石畳を瞬間移動させ、鬼灯の視界から消す。
鬼灯が警戒を強める刹那、彼女の頭上に石畳が姿を現し、鈍い音を立てて後頭部に衝突する。

「がっ…!」

急所に攻撃を受けた鬼灯は、意識を寸断させられ、路地裏の地面に倒れてしまった。
ゆっくりと倒れた彼女へ近づき、接触した石畳を拾ったルヒトは、冷たい声で呟く。

「フム、頭に埋め込んでやろうとしたのだが、やはり物体の中に瞬間移動させようとすると、
 転移の精度が下がるな。もう一度やってみてもいいが、このまま殴り殺した方が早そうだ」

鬼灯の頭へ向かって、石畳を振り下ろそうとするルヒト。
次の瞬間、近くの建物の壁がボロボロと崩壊し、彼は不意を突かれ視線を移した。
しかし視線の先には誰もおらず、静かな建物の内部だけがルヒトの視界に映り込む。

「な、なんだ?今の__

彼が言葉を出し終える前に、反対側の壁が崩れ落ち、中から二階堂が飛び出してきた。
二階堂はルヒトの頭部を掴むと、勢いよく先に開いた建物の中へ飛び込み、二人は室内で倒れる。

地面にぶつかった衝撃で、二階堂の手が頭から離れると、能力使用が中断される。
だがルヒトの顔にはいくつもの皺が浮かび上がり、十分攻撃が加えられているのが見て取れた。

「くっ…!き、貴様ァ!!私の顔になんてことを!!」

「フッ、いい面になったじゃねえか。アンデットよりはまだマシだぜ」

二人の異能力者が地面から立ち上がり、戦場が室内へと移り変わる。
接近する二階堂に対し、ルヒトは石畳を瞬間移動させ、彼の体の内部へと埋め込もうと試みた。

「よし!!今だ!!」

ルヒトの手から石畳が消えたのを視認すると、二階堂は体を横に逸らして、飛んできた石畳を回避する。

「ほう!瞬間移動した物体を避けるとはね」

「体に埋め込もうとしてるのが分かっているなら、
 その場から離れればいいだけの話だ!!」

二階堂はルヒトに向かって拳を放ち、能力を叩き込もうとした。
彼の手が体に触れる刹那、ルヒトは瞬間移動を使って背後に回り込む。

「くっ!後ろか!」

二階堂が後方に放った裏拳を、ルヒトは掴み取り口を開く。

「君、負傷した足が回復してきているね?
 どうやら君の異能には、隠された使い方があるようだ」

すると手首を掴むルヒトは、二階堂を瞬間移動させた。
彼は屋外の高所へ飛ばされ、瞬時に地面へと落下する。

街道の石畳に墜落した二階堂は、負傷していた足に再び激痛を感じ、受けた傷がさらに深くなる。

「うぐっ…!く、くそ…!」

しかし状況はさらに悪くなる一方で、二階堂が落ちた周辺にアンデットが近づいてきた。
ルヒトはわざとアンデットのいる場所へ、彼を墜落させたのである。

二階堂はよろよろと立ち上がり、近寄るアンデットを睨みつけた。

「邪魔すんじゃねえよ!!この野郎!!」

彼はアンデットに向かって、鋭く拳を振り放つ。



その頃噴水の近くでも、ノアがローブの男へ拳を放っていた。
彼女の攻撃が頭部に当たるも、男は何食わぬ顔で杖を彼女に向ける。

「っ!させない!!」

接近戦をする二人の奥で、ロスが氷魔法で援護する。
彼女の放った氷が杖に着弾し、瞬時に全体を凍りつかせ、男から魔法攻撃手段を封じた。

すると男は凍った杖でノアを殴り飛ばし、魔法を詠唱すると、内側から氷を破って杖の状態を戻す。

「くっ!コイツ!前戦った時より動きに無駄がないわ!
 それにアンデットになって数段タフになってる…」

「魔法の腕も良い、私達も本気でいかないと殺されるかも」

ロスが気持ちを引き締めると、彼女の言葉を聞いたノアが息を呑んだ。

「私の、本気…」

ノアは冷や汗を垂らし、脳裏に不安をよぎらせる。
彼女の本気とは“ガーゴイル形態“のことを指す。しかし突然街中で化け物の姿になれば、
周囲の市民達に恐れられ、混乱を招いてしまうのではと思った彼女は、変身するか葛藤していたのだ。

立ち尽くしたノアを他所に、ロスは手をかざして魔法を詠唱した。
男の足元に氷が固まり付き、その場に拘束させたロスは、掌から鋭利な氷結晶を打ち出す。
彼女の攻撃が頭部に命中するも、男は平然とした様子で、後ろに跳ね上がった顔を戻した。

「くっ、コイツ不死身…?」

困惑するロスに向かって、男は杖を構えながら突進する。
ロスはすかさず足元を凍らせ、彼の動きを止めるも、男は魔法で氷を砕き、再びロスに接近した。

先端に光を宿らせながら、男は杖をロスへと薙ぎ払う。
近接攻撃を察知した彼女は、目の前に氷の壁を築き、男の攻撃を防御した。
薙ぎ払った杖は氷の壁を打ち破り、男が壁の内側を視界に入れる。
だがそこにロスの姿はなく、彼女は背後で攻撃態勢に入っていた。

「そろそろくたばってよね、タフガイさん」

ロスはいくつもの氷結晶を生成し、全て同時にローブの男へ発射する。
男は両手でガードしながら、迫り来る氷の雨霰を体で受けた。

しかし全ての結晶が発射されるも、男は負傷した様子もなく、ガードを緩めて顔を覗かせる。

「そ、そんな…!聞いてないなんて…!」

すかさずローブの男がロスに杖を差し向け、彼女に向かって魔法を撃ち出そうとする。
ロスは攻撃を察知し、氷の壁を作り防御態勢に入った。

男の撃った魔法が壁を壊し、氷と共に弾けた刹那、
初弾の後ろに隠された次弾の魔法攻撃が、無防備のロスに向かって飛んでくる。

「っ!?二発目が__

胸に魔法が撃ち込まれ、ロスは地面に倒れ込んでしまう。
彼女を撃破したローブの男が、ノアを次の標的に絞った。

「くっ!ロスちゃん!!こ、こうなったら!!」

ノアが覚悟を決め変身を決意すると、周囲から人々の叫び声が聞こえなくなっていた。
どうやら市民達の避難が終わったらしく、彼女は拳を握りしめ気合いを入れる。

「これで本気を出しても、迷惑はかからないみたいね!!」

ノアは眼光を鋭く尖らせ、ローブの男を強く睨みつけた。



その頃二階堂は、アンデットを殴り飛ばした後、
怪我の痛みに耐えつつ、近づいてくるルヒトへ迎撃態勢を取っていた。

「…二階堂君だっけか、もういいだろう。そんな状態じゃ君に勝ち目はないよ」

「うるせぇ…!俺はまだ諦めねえぞ!!」

ルヒトはため息を吐くと、二階堂の側へ瞬間移動し、腹部へ深々と膝蹴りを入れる。

「うぐっ!!」

苦悶の表情を浮かべる彼の髪の毛を掴み、顔面を自身の膝に叩きつけると、静かにルヒトは囁いた。

「いい加減に降伏しないかい?私は君の能力を高く評価しているんだ。
 もし負けを認めて、我々の元へ降る気があるなら、特別な役職に就かせてあげるよ?」

「ふざけ…んな…!テメェみたいな…クズに負けてたまるか…!」

「はぁ、ああそうかい。せっかく助けてあげようと思ったのに、残念だ」

ルヒトはその場から姿を消し、二階堂の背後へ瞬間移動すると、彼の背中を蹴り込んだ。

「が、がはっ…!」

二階堂が前によろめくと、ルヒトは目の前に現れ、深傷を負った足へ容赦なく蹴りを入れる。
膝をついて地面に伏した二階堂の頭上に瞬間移動し、ルヒトは降下しながら頭を踏みつけた。
二階堂が声を上げる間もなく、ルヒトは顔面を蹴り上げ、勢いよく後方へ吹き飛ばす。

ボロボロになった二階堂に対し、ルヒトは追撃の手を止めない。

二階堂へ繰り出される瞬間移動と近接攻撃の応酬。
全身が赤く染まっていく最中、痛みで途絶えそうな意識の中で、
彼は能力者としての格について考えた。

(す…すげえなコイツ…悪党だが…能力者としては俺よりも遥かに強え…!
と、とてもじゃないが…今の俺には…打開する術がない…)

ドロドロに歪む視界の中心に、瞬間移動してきたルヒトの姿が映り込む。
彼の放った拳が迫り来るのを見て、二階堂は敗北感を覚え始めていた。

(こ、コイツは触れたものを、瞬間移動させる能力を持ってる…
自分自身に触れれば、自らも瞬間移動することが出来るんだ…
奴が瞬間移動を繰り返す限り、俺は触れることすら叶わねえ、一方に嬲られる…!

すまねえノア…エット…鬼灯…俺はもう…)

二階堂の顔面へ拳が接触する刹那、敗北を覚悟していた彼は、不意にある疑問を思い浮かべる。
そしてその疑問こそが、自身を成長させる第一歩だと気づくのだった。

(…自分自身に…触れる?)

次の瞬間、二階堂の顔へ拳が接触し、頭部が衝撃で跳ね上がった。
勝利を確信したルヒトが、ゆっくりと瞳を閉じる。


既にこの時点で、勝敗は決したかに見えた。


しかし二階堂は倒れず、その場で力強く立っていた。
彼の顔つきは先程と違い、勝機を感じているような、希望を持った表情をしている。

「ほう、意識を刈り取るには、十分な一撃だと思ったのだが」

瞼を開けたルヒトが、冷たい視線を二階堂に向ける。
二階堂は痛みに耐えながらも、凛とした態度でルヒトに言葉を送った。

「お前のおかげで、俺は一つの可能性を見つけることが出来た。
 お前が何度も瞬間移動で攻撃し、俺にヒントをくれたおかげでな。
 今回俺が大きく成長出来たとするなら、間違いなくお前との戦いがあったからこそだ」

「はぁ?一体何の話を…」

ルヒトが理解に苦しんでいると、二階堂は真剣かつ、力強い眼差しでこう言った。


「成長するぜ、俺は」
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