転生受付嬢はもう恋なんてしない――なのに最強剣士からの溺愛が止まりません!

人妻あず。

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19話

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 朝の光がまぶしかった。
 目を開けると、カーテンの隙間から差し込む陽が、淡く部屋を照らしている。

 枕は少し湿っていた。
 泣きすぎて目が腫れて、まばたきするたびにじんわり痛い。

(……最低)

 自分にそう呟いた。
 あのとき、止めてほしかったのに。
 止められて――なのに、心のどこかで、寂しくて泣いた。

 レンの顔が頭から離れない。
 優しく触れた指先。
 震えた声。
 そして――悲しそうに見えた、あの目。

 その全部が、胸の奥で痛みになって残っていた。

 外から、ドアをノックする音がした。
「リーナ、起きてる?」
 ソーマの声だった。

「……うん」

 返事をすると、扉がそっと開く。
 マリアも一緒だ。

 ソーマがテーブルに水を置き、軽く眉をひそめる。
「……目、真っ赤じゃん」

「飲み過ぎただけ」
 強がって笑ってみせたけれど、声が掠れていた。

 ソーマは溜息をついて、椅子に腰を下ろした。
「なぁ、ちゃんとレンに“好き”って伝えたか?」

「――っ」

 胸がきゅっと締めつけられた。
 思わず首を横に振る。

 マリアが心配そうに覗き込む。
「好きなら、好きって言ったほうがいいよ?」

 その言葉が、まるで刃みたいに心に刺さった。

「……怖いの」
 やっと、声が出た。
「誰かを好きになって、もし嫌われたら……もし、また裏切られたら……」

 自分でも驚くほど、涙がすぐに溢れた。
 マリアが慌ててハンカチを差し出す。

「リーナ……」

「もう、誰も好きになりたくない……」
 そう言った瞬間、胸の奥から何かが崩れる音がした。

 泣いても泣いても、涙は止まらなかった。
 自分の中にまだ、こんなに“好き”が残っていたことが悔しかった。

 レンのことを想うと、幸せなのに、
 同時にどうしようもなく苦しくなる。

 その矛盾が、どうしても受け入れられなかった。

 マリアはそっと私の背を撫でた。
 ソーマは黙って窓の外を見ていた。

 朝の光が、少しずつ部屋の中に広がっていく。
 けれどその光が、いまはただ眩しすぎて、目を閉じた。

(……好きにならなければ、泣かなくてすんだのに)

 心の奥で、そんな弱い言葉が、静かに揺れていた。
 
 その日、私は仕事を休んだ。

 あれから、もう一週間が経った。
 レンとは一度も顔を合わせていない。

 朝、ギルドに行っても彼は来なかった。
 書類の束と、未開封の封筒が積み重なる机の上に私のため息が重なる。

「レン、最近現場続きみたいね」
 マリアがそう言って、私の隣に腰を下ろした。
「昨日も徹夜だってソーマが言ってたわ」

「……そう」
 短く返すだけで精一杯だった。

 ペンを持つ手が、ほんの少し震える。
 文字が滲んで、うまく書けない。

(忙しいのはわかってる。でも……)

 心のどこかで、言い訳のように繰り返していた。
 会えない理由を探すほど、胸の中が空っぽになっていく。

 昼休みのとき、ついにマリアが口を開いた。
「ねぇ、リーナ。元気ないよ?」

「そんなことない」
 そう答えたけれど、声がすぐにかすれた。

「嘘。最近、お昼も全然食べてないじゃない。」
 マリアがパンを半分に割って差し出してくれた。

 私はは少し唇を結び、じっとマリアのくれたパンを見つめた。
 食べられる気がしなかった。

「レンのこと……でしょ?」

「……ちがう」
 否定したのに、胸の奥で痛みが走った。
 嘘だと、すぐに自分でわかってしまった。

 そのとき、ソーマが食堂の扉を押して入ってきた。
 いつもの軽い調子で「よっ」と手を挙げる。
 けれど、私の顔を見た瞬間、眉をひそめた。

「おいおい、リーナ。顔、青いぞ」

「平気。ちょっと寝不足なだけ」

「寝不足の顔じゃねーよ、それ」
 ソーマは椅子を引き、私の向かいに座る。
 パンをかじりながら、ちらりとマリアと目を合わせた。

「なぁ、リーナ。オレ、あんたが“平気”って言う時ほど心配なんだわ」

「……大丈夫だってば」
 無理に笑った。
 けれど、その笑いは自分でも薄っぺらく感じた。

 マリアが小さくため息をつく。
「ほんと、素直じゃないんだから。……好きなんでしょ?」

「マリア……」

「レンのこと、でしょ?」

 その名前が出た瞬間、胸がぎゅっと締めつけられた。
 何も言えなくなって、俯く。

 ソーマがパンの袋を丸めながら、静かに言った。
「ま、あいつも不器用だからな。仕事に逃げるタイプだ」

「……逃げる?」

「そう。好きな女ほど、怖くて近づけねぇってヤツ。わかりやすいだろ」

 その言葉に、少しだけ胸が締め付けられる。
 でも、すぐに小さく首を振る。

「……私だって、怖いよ」
 そう呟いた声が震えた。
「もう誰かを好きになるの、怖い」

 マリアがそっと手を重ねる。
「でもね、リーナ。怖いってことは、ちゃんと好きってことだよ」

 その優しい声が、涙腺を刺激した。
 涙は出なかったけれど、喉の奥が熱くなった。

 窓の外では、午後の日差しが街を照らしていた。
 明るいのに、どこか遠く感じる。

 ──レン。
 
 溢れそうな言葉を抑えるために、私は紅茶を一口飲み込んだ

 次彼に会えたら、私はちゃんと笑えるだろうか。
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