転生受付嬢はもう恋なんてしない――なのに最強剣士からの溺愛が止まりません!

人妻あず。

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21話

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「……ごめん」
 レンの声が掠れている。
「怖い思いをさせた。嫌われても仕方ない」

 私は首を横にふる。
 必死に声を絞り出した。

「レンのことが怖かったんじゃない……自分が、怖かったの」

「自分?」

「人を好きになるのが……怖かったの。
 裏切られるのが怖くて……
 好きになったら、また全部壊れてしまう気がして……」

 震える手を胸の前で握りしめる。
 胸の奥で何かが崩れた。

「でもレンがいなくなるのも怖いの。自分でもどうしたらいいかわからない——!」

そこからは涙で言葉にならなかった。

 気づけばレンに抱きしめられていた。
 身体が腕の中に収まり、熱が伝わってくる。

「もう、ひとりで抱えなくていい」
 低い声が響く
「俺は裏切らない。そばにいる」

 思わずレンの外套を掴んだ。
 小さく息をのむ音がする。

「……離れたくない」
 やっと言えたその言葉が、夜風に溶けた。

 レンは何も言わず、私の髪に額を寄せた。
 淡い石油ランプの灯りが、二人の影を重ねてゆく。

 私の涙がレンの胸を濡らした。
 
「おいで、リーナ」
 抱き寄せられた腕の中で小さく頷く。

 そのまま、ギルドの灯りが消えるまで動けなかった。
 静けさの中で心がようやく触れ合った気がした。
「そろそろ帰ろう」
 レンがそう言って立ち上がる。
 低い声が、静かな夜の空気に溶けていく。

「立てるか?」
 その手が差し出される。
 頷いて掴むと、温かい力が指先から伝わってきた。
 支えられるようにして立ち上がる。

 寮への帰り道、私たちは何も話さなかった。
 夜風が頬をなで、街灯の魔石が淡く光る。
 けれど――手だけは、互いにしっかりと握り合っていた。

 部屋の鍵を開けると、レンは少しだけ戸惑ったような顔をした。
 沈黙が流れ、胸が苦しくなる。

「……まだ一緒にいたい」
 自分でも驚くほど素直な言葉が、口からこぼれ落ちた。

「ああ。ずっと一緒だ」
 その瞬間、彼の腕がまた強く私を包み込んだ。
 静かな熱が、全身に伝わってくる。

 ベッドの上に並んで座り、私たちは無言で抱きしめ合った。
 レンの指がそっと私の髪を撫でる。
 その仕草が、優しくて、少し切なかった。

「少し……痩せたな」
「うん……」
「ちゃんと食事はとったほうがいい。これからはできるだけ一緒に食べよう」
「うん……」

 レンの声が低くて、温かくて、心地よくて。
 私は目を閉じた。

「眠いか?」
「少し……」
「眠っていいぞ」

「眠ったら……置いて出ていったりしない?」
 不安がこみあげ、レンの服の裾をぎゅっと掴む。
 この時間が終わってしまうなら、眠りたくなかった。

 彼は小さく息をついて、囁くように言った。
「大丈夫だ。……ちょっと待ってろ」

 そう言うと、レンは外套のポケットから何かを取り出した。
 金属の小さな音が鳴る。

「え、いきなり何……?」

 彼の手の中にあったのは――冒険者が野盗を拘束するときに使う、魔道具の手錠だった。
 レンは無言で片方をベッドの柵に繋ぎ、もう片方を自分の右手にかけた。

 カチリ、と金属の音が響く。
 
  罪人のように手錠で繋がれたレンを見て、私は息を呑んだ。
 月光に照らされた鎖が、かすかに揺れている。

 「もうこれで、俺はリーナに手を出せないから。安心して眠っていい」
 レンが静かに言う。

 「手を出せないって……」

 「したくなるんだよ」
 真っ直ぐな瞳が、私を射抜く。
 その視線の熱に、胸が締めつけられた。

 「あんなことがあったのに、俺は……もう我慢できる自信がない。これでいいんだ」

 「レン……」
 「ん?」

 「それ、外して……ちゃんと抱きしめて」
 声が震える。自分でも驚くほど。

 「だめだ。外したら、俺が……」

 「手、出してほしいの」
 恥ずかしさで、彼の顔を見られなかった。
 指先がシーツをぎゅっと掴む。

 「女の子だって……そういう気持ちのときくらい、あるの」
 声がかすれて、夜気に溶けていく。

 沈黙。
 時間が止まったような静けさの中で――

 かちゃり。

 金属が外れる音がした。

 「リーナ……」
 名を呼ぶ声が震えていた。
 次の瞬間、レンの両腕が私を強く包み込む。

 その抱擁は、痛いほど熱かった。
 彼の鼓動が、胸の奥まで伝わってくる。

 「もう俺……我慢、無理だ……」
 苦しげに吐き出された声。
 見上げたレンの表情は、痛みと優しさと、どうしようもない切なさで満ちていた。

 「うん……もう我慢しないで」

 そっと彼の頬に触れる。
 その体温を確かめながら、私は心の底から――彼を愛しいと思った。
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