今宵の月は夢の中で

嘉撫月

文字の大きさ
1 / 1

月明かりの下で

しおりを挟む
午前零時、星がよく見える流星ヶ丘の展望台にて、2人の会話が始まる。


明梨「…ねぇ、月と地球の距離ってどれくらいか知ってる?」

蒼葉「…知らない。」

明梨「そっか…じゃあこの場所からあの桜の木までの距離は?」

蒼葉「…分からないよ、測ったことないし。」

明梨「…なら、今の私達の距離はどうかな?」

蒼葉「距離も何も、こうやって手を伸ばせばすぐに届く距離だろ?」

明梨「ううん、違うの。私と、蒼葉の心の距離。今はどれくらいなのかなって。」

蒼葉「…どういう意味?」

明梨「その言葉のままの意味だよ。蒼葉と出会ってもう10年…。この10年で私はどれだけ蒼葉に近づけたのかなって。…もし、地球と月の距離くらい離れてたら、私は寂しいな……。私は手を少し伸ばせば届く距離に蒼葉にいて欲しいんだ。何があっても会えなくなるなんて事が無いように…ね。」

蒼葉「…………」

明梨「蒼葉…私、消失病になっちゃったみたい。」

蒼葉「え…」

明梨「だからね、あと少ししたらもう蒼葉とは永遠に会えなくなるの。治療法の無い病気だから、あとはもう死を待つだけ。しかもね、最期には私のことを誰も覚えてないんだって。私を診療したお医者さんも、お腹を痛めて私を産んでくれたお母さんも、沢山働いてお金で困らないようにしてくれたお父さんも……みんな、みんな私の事を忘れるの。」

蒼葉「……」

明梨「もちろん蒼葉もね。」

蒼葉「…そんな悲しそうな顔で微笑むなよ…辛いなら辛いって、苦しいなら苦しいって言えよ!…明梨がそんなんじゃ………」

明梨「蒼葉…」

蒼葉「なぁ…俺はお前を忘れるなんて思えない。お前が居なくなった未来なんて見たくない。俺は…俺は……明梨と一緒に未来に行きたい。……ダメ…かな…?」

明梨「ううん…ダメじゃないよ……ごめん、涙が止まらなくて……。でもね、私は死んじゃうの。どんなに貴方が望んだって、どんなに私が生きたいと願ったって、私がこの世界から消えてしまうのは変わらない……だからね、1つだけ…お願いを聞いてくれないかな?」

蒼葉「うん…」

明梨「残りの私が生きていられる時間を、私と一緒に居て欲しいの。2人で遊園地行ったり、水族館行ったり、動物園行ったり…思い出を作りたいの。私達2人だけの思い出を…。多分すぐ消えてしまうけど…」

蒼葉「そんなことないっ!例え世界が明梨を忘れても…俺だけは、絶対に忘れない。明梨が居なくなった後も、ずっとだ。ずっと。だから、もう泣くな。俺が最期まで側にいる。隣に座って、手を握って、守るから……」

明梨「…泣いてないもん…」

蒼葉「…そうか、お前は強いな…」


それからの数週間、2人は思い思いに過ごした。約束通り遊園地に行き、水族館に行き、動物園にも行った。残された少ない時間を明梨は蒼葉と過ごすことに決めたのだ。だがその間にも確実に消失病は進行していて明梨の事を覚えている人は確実に減っていった。バイト先の先輩、昔からの大親友、更には明梨の両親まで。
 そして明梨が消えてしまう、最期の日がやってきた…


明梨「…蒼葉、最後にさ、プラネタリウム行きたい。そりゃー生の星空の方が凄いだろうけど、プラネタリウムは1回も行ったことなかったし、人工的な星空も見てみたい!」

蒼葉「分かった。行こうか。」


~プラネタリウムドーム内~


明梨「…すっごいね、まるで目の前にあるような…」

蒼葉「…星が降ってくるみたいだね…」

明梨「…うん!」


~いつもの展望台にて~


明梨「とっても綺麗だったね!プラネタリウム!!」

蒼葉「…そうだな…自然なものでは無いけど、それもいいな、明梨……」

明梨「…なんで泣いてるの?笑」

蒼葉「……だって…だって…思い出せないんだ………明梨と始めて会った日の事が…」

明梨「……遂に来ちゃったか、蒼葉にも…」

蒼葉「…そんな事ない!俺は覚えてる!明梨がドジで、天然で…物覚えが悪くて…お節介で……でも優しくて、誰よりも努力してて、何でも一生懸命頑張る、いい奴だってことも…!」

明梨「…もういいよ、蒼葉。」

蒼葉「よくない!だってこのまま俺が明梨を忘れたら……本当に明梨がこの世から居なくなっちまう……そんなの耐えられねぇ…!心から好きな人が、世界で一番好きな相手が…永遠に居なくなるなんて、俺には耐えられない…!」

明梨「…蒼葉、そこのベンチに座ろう?」

蒼葉「………」

明梨「………」

蒼葉、明梨「…あのさ!」

明梨「…なに?」

蒼葉「明梨こそ…」

明梨「…………好き。」

蒼葉「え?」

明梨「好き。世界で一番、好き。」

蒼葉「…俺も、明梨の事、大好きだ。」


明梨の身体が消え始めた。
そして微笑んで、

明梨「さよなら、どうか泣かないで、笑って欲しい…私の最初で最後の……恋人さん?」

蒼葉「…うん……それが…明梨の願いなら………」

明梨「…ありがとう…バイバイ。貴方に会えて、貴方の“大切”になれて、幸せだったよ…」

蒼葉「…明梨と過ごしたこの数週間のことも思い出せない…クソ…クソォォォ!!!」


明梨、笑顔で


明梨「本当にお別れだね…もう……忘れていいよ……」

蒼葉「明梨ーーーー!!!!!」


そして明梨は消えた…
それからしばらくして残ったのは、何で涙が止まらないのか分からない蒼葉と、夜の静寂。そこに、明梨が居たという証拠は無い。人々の記憶の中から明梨は消え去り、蒼葉すらも明梨を忘れてしまった。しかし蒼葉はあれから数十年経った今でもふと懐かしく感じる事がある。とても儚げで、脆くて、でも確かにそこに居た、何かを……。






しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

妹の初恋は私の婚約者

あんど もあ
ファンタジー
卒業パーティーで、第一王子から婚約破棄を宣言されたカミーユ。王子が選んだのは、カミーユの妹ジョフロアだった。だが、ジョフロアには王子との婚約が許されない秘密があった。

処理中です...